逢魔が時、繰は校門に寄りかかりながら沙田のいなくなったバス停を感慨深くながめていた。
ただ、そこに疲労の色も見え隠れしている。
(沙田くん。ずいぶん大きくなったわね……)
繰は沙田をはじめて見たあの日を思い返す。
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夕暮れ迫る刻。
沙田雅――六歳。
六角大池は六角市の中町にある六角中央公園の中に存在していて、休日などは家族連れで賑わう自然溢れる憩の避暑地だ。
池の周囲は小さな雑木林に囲まれていて、沙田はそこに虫カゴと虫取り網を抱えて木陰に潜んでいた。
「この池の主を捕まえてやるっ!! そしたらみんなに自慢できるぞ~!!」
沙田は池のきわまで駆けていくと、そこにしゃがみこんで水面を動く魚影に目を凝らした。
池の周囲は一・五キロメートルほどの楕円形をしていて面積は九ヘクタールほどだ。
水深も浅いため小学生たちが遊ぶにしても危険性は低かった。
小魚たちは群れを作り集団で水中を移動している、その群れはまるで一匹の大きな魚のように池の中を回遊している。
草叢からカエルの――ゲゲゲゲ、ゲゲゲゲ。という鳴き声や虫たちの周期的な合唱も聞こえる。
「小さい魚しかいないな~?」
沙田は口を尖らせて――ああ~もう。と意気消沈した。
突然水面にゆらゆらと波が立つと、波紋が二重三重と大きく広がっていった。
「なんだろ?」
沙田は首を小刻みに動かして辺りを確認した。
「あれ~なにもいないぞ?」
だがその波紋は水面からではなく上空からの気流だったこと気づく。
沙田はゆっくりそして段階的に空中を見上げた。
「うわぁぁ!? な、なんだぁ!!」
沙田の視線のさきにはこの世のモノとは思えぬ獣が宙に浮いていた。
かすかに動物園のような臭いを感じる。
「これが六角大池の主か? この虫取り網では捕まえられないな~?」
興奮した沙田を注視する沙田とうりふたつの少年が林の奥にいた。
ただそこに立ち尽くしていて能面のように表情ひとつ変えず、空から舞い降りてきた獣を凝視している。
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