第33話 急用


繰は慌てて目の前のクリアブルーのペン立てを横へとずらした。

 ペン立ての中で数本のボールペンがグラグラと揺れている。

 繰はデスクに備えつけられた固定電話の受話器を上げると慣れた手つきで「内線」の職員室への短縮ボタンを押した。

 プッシュ音が一度鳴る。

 繰は受話器からの声が自分の耳に届くまで永遠とさえ思えるくらい長く感じた。

 ただ、じっさいの時間ではわずか数秒にも満たない待ち時間だった。

 「あっ、もしもし。校内放送で二年B組の沙田雅くんを呼んでほしいの? そう校長室まで」

 

 繰は手短に要件だけを伝えると受話器を固定電話に戻した。

 トートバッグからコンパクトミラーを出してミラーを開く。

 机の上で自分の真正面に鏡面が向くようにしてミラーを「L」字に立てた。

 気持ちを落ち着けるためクリームファンデーションを手の甲に乗せ頬からなじませていく。

 (こんなときだからこそ落ち着かないと)

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 『二年B組の沙田雅くん。校長室までお越しください。繰り返します。二年B組の沙田雅くん。校長室までお越しください』

 

 俺はまだ調子が戻らずに教室でボーっとしてると校内放送で呼ばれた。

 ……なんだ? の前に寄白さんと九久津はつい五分ほど前なんか慌てた様子で二年B組の教室ここから出ていった。

 みんなバタバタしてるな。 

 でも俺が四階に呼ばれてないってことはアヤカシとは無関係だろう。

 てか校長今日学校に居たんだ……? あっ、ちょうどいいや「六角第三高校さんこう」にいったときの領収書を持っていこう。

 俺はスクールバッグからペラペラの紙をとりだして席を立つ。

 

 これって学際の模擬店の買い出しとか学校行事でもらうのと同じだよな。

 宛名が「六角市立 六角第一高等学校様」だけどいいのか? 校長がもらってきてっていったんだから、まあ、大丈夫だろう。

 俺はスマホで今の時間を確認した。

 「15時37分」という表示があった、今は午後の三時三十七分か。

 

 俺が「六角第一高校いちこう」に転校してきて校長室に入ったのは初めてだ。

 校長室に呼ばれるなんてのは小学校のころから数えても数回あったかないかで、ふつうは呼ばれないよな。

 校長室に入ってみて俺の一般的な校長室のイメージが完全に崩れた。

 もっと茶系ちゃけいに囲まれた古臭い部屋だと思っていたからだ。

 って、まあ寄白校長・・・・なんだからそんな旧時代的ふるい部屋にはしないか。

 なんか女の人の部屋のようでドキドキする。

 このドキドキは体調不良の鼓動の気もするけどよくわからん。

 「校長。やっと会えました」

 「沙田くん。留守にしててごめんね」

 「あっ、大丈夫です。あのこれ」

 俺は持参してきた領収書を校長に差し出した。

 「あっ、六角第三高校さんこうにいった時の領収書ね? そこに置いておいて」

 校長は机の角を指さした。

 「はい。わかりました」

 俺は風圧で飛んでいかないように領収書をそっと置き手で覆い隠すようにして真上から手を当てた。

 校長は――あっ、といって領主所を机にしまった。

 「……沙田くん、今、話せることはぜんぶ話すわ」

 校長の声のトーンで事態が緊迫してるとすぐにわかった。

 ああ、緊張してきた。

 って俺がこの雰囲気にビビってる場合じゃない。