「はい。まず僕がどうして六角第一高校に転校することになったのかから教えてください?」
「真野絵音未が六角第三高校に転入するから沙田くんを六角第三高校から遠ざけたのがひとつ。ふたつめの理由は沙田くんの力を借りたかったから……」
「えっ? 僕の力……?」
俺にどんな力が隠れてるっていうんだ? 俺は人に求められるようなスキルなんて持ってないけど。
それは昨日のモナリザの戦闘でとっくにわかってることだ。
俺はいたってふつうの男なんだから。
自分のことは自分でよくわかる勉強もスポーツも音楽も芸術もぜんぶふつう。
正直、なんで昨日も四階に呼ばれたのかいまいちわかってないし。
それでいながら俺はなぜ断らずに四階にいってしまうのか? はっきりいえば俺は誰にも知られずにひっそりと誰かのために戦ってるあのふたりに憧れてしまったからだ。
同級生や先輩のスポーツしてる姿やバンドをやってる姿に感化されたように。
俺には拒むという選択肢もある。
寄白さんと九久津は俺が四階にいくこと強要してるわけじゃないんだから。
でも、でも憧れとは別の理由でいかなきゃならない気がするんだ。
「ええ、そうよ」
「僕にどんな力があるんですか?」
「沙田くんにもアヤカシを倒す力が備わっているの」
「とんでもない。ないですよそんなの」
「いいえ、あるのよ」
校長は切羽詰まったように語尾を強めた。
「百歩譲って僕にそんな力があるならもっと早くに使ってますよ!?」
「その力を引き出すために六角第一高校に転入してもらったし四階にも案内したのよ。シシャの正体を早めに明かしたのもそのため。沙田くんはそういうアヤカシに近い環境に身を置くことで力が完全に開花するの」
「そ、そんな無責任な!?」
俺もつい食ってかかってしまった。
校長があまりに自分勝手だと思ったから。
「だいたい寄白家と真野家が親しいなら真野絵音未が六角第三高校に転入することを止められたんじゃないんですか!? もしくは俺の居ない他の高校に転校させる方法もあった。しかも俺の沙田家を家族ごと六角第四高校の近くに引っ越しさせた意味もわからない」
「いいえ。ことはそんな単純じゃないの。シシャは六角市の第一高校から第六高校を定期的に巡回させないといけないから遅かれ早かれ必ずどこかで出会ってしまう。そういう理由からも転校生はシシャ候補になりやすい」
「巡回……? なんのために?」
「待って順番に話すから聞いて。まず今回の異変はすべて私のせいなの」
「どういうことですか?」
校長もなんか焦ってるな。
俺もすこしいい過ぎたかも……なんか罪悪感が……。
心ここにあらずに見える校長の肩がしだいに震えはじめた。
なんか俺が追いつめてるみたいだ。
「仁科校長に六角第一高校を始点にして六角市の市立六校を結ぶと六角形になるのは聞いたわよね?」
校長は何度か小さくうなずいて、自分自身にも言い聞かせるよう話をはじめた。
「ね?」
心の中でもいろいろ整理しているようだ。
もう一度疑問符が聞こえた。
「はい。それは聞きました」
「そうよね。じゃあこれを見て」
校長は机の上にあった白紙のA四用紙を目の前にすべらせてきた。
電話の横にあったペン立てから迷わずにボールペンをとり紙の上で――カッ、カッ、カッ、カッ、カッ、カッ。と硬い音を立てて六つの点を打った。
その点ひとつひとつは「六角第一高校」「六角第二高校」「六角第三高校」「六角第四高校」「六角第五高校」「六角第六高校」の建つ場所を示していると校長がいった。
そして、その点ごとに「一」「二」「三」「四」「五」「六」と学校名を書略した漢数字を書いた。
筆跡の乱れが事態の深刻さを表しているみたいだった。
手にスゲー手力が入ってる。
今なにが起こってるのか俺にはわからないけど……大変なことが起こってるんだろうな。
校長は「六角第一高校」を中心にして「六角第二高校」へと目測で直線を引いた、つぎは「六角第一高校」から「六角第三高校」へと直線を引く。
そして「六角第二高校」から「六角第三高校」を結ぶと、そこに正三角形が浮かび上がってきた。
……そういえば九久津は七不思議製作委員の演説で――我々六角第一高校から直線距離で三十キロ先に六角第二高校があります。それと同じくここから直線距離で三十キロ先に六角第三高校があります。っていってたな? ぜんぶ同じ距離だ。
校長のペンがまた走り出した。
「六角第四高校」「六角第五高校」「六角第六高校」の三点が結ばれるとそこには逆正三角形が現れた。
正三角形と逆正三角形のふたつが重なると今度はそこに六芒星があった。
「六角市の中心街は六芒星で囲まれているの……」
この六芒星になにあるんだ……。
「このカラクリになにか?」
仁科校長のいってた六角形の他に「六芒星」にも結ぶことができるなんて。
そっか単純なことだ六角形であるなら三点を結べば三角形になる。