「あの九久津毬緒。毎日バカみたいに健康食品を口にしてるでしょ?」
「えっ、あっ、はい。なにかしら食べたり飲んだりしてますね? それが?」
「堂流はね。バシリスクという蛇属性の上級のアヤカシに殺されたの。その毒はとても強力でね。でも九久津家は堂流を病気で死んだことにしたのよ。それ以来かな毬緒くんは小さいながらに人一倍健康を気にするようになったって。毬緒くんは今だって堂流の死は病死だと思ってるの。いや思い込まされてるの」
「じゃあ、あいつの昼食の習慣は?」
「ええ、そう。毬緒くんもこの町の犠牲者なの。あんなサプリを山ほど摂取んだところでバシリスクの毒にはなんの効果もないのにね」
「九久津にもそんな過去を」
九久津はただの健康オタクじゃなかったのか? 《七不思議製作委員会は生徒を守る》あいつもそういう使命に囚われてたのか? アヤカシと戦うってことはそういう覚悟を持った者だけができること。
もちろんそんな特殊な状況に憧れるだけじゃ通用しないのもわかってる、でも、 俺がなにかの力になれるなら助けてやりたい。
「ええ。だから美子を縛る使者の鎖も断ち切ってあげたかったの。あの子もずっと使者と生徒の二重生活を送ってきたから。きっと恋なんて感情を知らないままに戦いつづけるでしょう……」
キツいなそんな生活。
憶測だけど寄白さんのあの性格の変化も心を保つための反動かもしれない。
「だから私はヨリシロの社長の座を奪って六芒星の一点である六角第四高校の解体指示を出したの」
社長の座を奪った? じゃあ、さっきの上ってのは今の校長より立場が上だった会社の人たちか。
「それが原因でバランスが崩れたってことですか?」
「そうよ。でもここまで広範囲に影響があるとは思わなかった。六角第四高校を解体してすこし結界を緩めるくらいのつもりだった。それを口実に上位組織に美子や九久津くんたちの待遇改善を図ってもらおうとしただけ……」
この町の謎がまたひとつ解けた。
パズルのピースがはまっていく。
校長は寄白さんと九久津の現状を変えようと思ったんだ。
もちろんそこには校長自身もふくまれてるんだろうけど。
それに俺にあるという能力が開花した場合は寄白さんと九久津の負担もすこしは軽くなるんだよな。
俺は校長のいってる結界を緩めるって発想は理解できた。
だってそれは昨日、俺自身が体験したことだから。
九久津はモナリザとの戦いで五芒星の一点をわざと開けておいてモナリザを逃がした。
それと同じで六芒星の一点である「六角第四高校」を崩しても結界が無効化されるわけじゃなくて、その点の周辺だけ守備力が弱まるだけのことだから。
校長がしたことはあくまで境遇に対する交渉術みたいなことで、なにも六角市の結界を壊して市民を巻き添えにしようとしたわけじゃないんだ。
「そうなると具体的になにが起こるんですか?」
「憶測でしかないけど真野絵音未。いいえ負の死者が美子を殺しにかかるはず。上級のアヤカシには特有の気配があるからわかるんだけど、もうブラックアウトしている……今回のはとてつもなく強い、それが私の焦りの正体」
「じゃ、じゃあ早く止めないと!?」
校長が危惧してたのは四階でブラックアウトした真野さん、いや、死者が暴れてるってことだったのか。
ここで問題なのはブラックアウトって言葉だ。
モナリザもブラックアウトしてからが危険だった。
それならあの穏やかだった真野さんが信じられないほどの変化をしていてもおかしくない。
これが校長がずっと焦ってた理由と誤算か。
「もう、美子と九久津くんは四階にいるわ……」
あっ!?
じゃ、じゃあ、さっき寄白さんと九久津が慌てて教室をでていったのはそれが原因? 俺を呼ばなかったのは足手まといになるから……。
いや、あのふたりはそんなことは考えない。
きっと俺の安全を考えてくれたんだ。
考えてみりゃ、俺はいつだってあのふたりがすぐに助けてくれそうな場所に居た。
俺自身モナリザがブラックアウトしたときでもギリギリ実害は被ってない。
それも寄白さんと九久津が見守っててくれたからだ。
本気でヤバイときは助けてくれたはず。
校長と寄白さんと九久津が俺を必要としてくれてる最大の理由が、俺の中にあるというアヤカシを退治する力……。
まずは四階にいかないと。
「校長。すぐにいきましょう!!」
「えっ!? 沙田くん四階にいってくれるの?」
「はい。当然です」
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