第66話 小さな守り神


こんなに早く預言の書が、げ、現実になるなんて……終わりの始まり。

 つ、詰んだ!?  

 ヤベー!!

 パンドラの匣が開かれた瞬間ビックリ箱のように小さな子どもがひょこっと顔をのぞかせた……。

 ひょ、拍子抜け……し、た。

 「なっ!?」

 うぉ~幼児監禁!? 

 イケメンの心の闇を見たぁ!!

 お、お、落ち着け、俺。

 け、けどどういう状況だこれは? 感情をいったん断捨離するんだ。

 白い着物に赤い帯をしめていて餅のようなプニプニの頬を膨らませニコっと笑ってきたおかっぱ頭の子ども。

 

 三日月型の澄んだが俺を見てる。

 か、かわいいな~。

 子どものかわいさは自分を守るための防御本能って話もあるしな、まさに天使の笑顔だ。

 だが前髪を切りすぎてる。

 いや、今は流行りの髪型なのか? 時代に敏感な子だ。

 てか、ビックリしてまた腰をグキったかも、ぐふ!!

 あ、あとで寄白さんじゃなくて治癒能力者の校長に治してもらおう。

 せっかく良い感じにおさまってたのに……。

 寄白さんはコールドスプレー校長は治癒能力者、姉妹でこうも違うものなのか?

 俺はいまだになぜあんな仕打ちを受けたのかわからないけど。

 

 あっ、下僕だからか? にしても終いには鼻の奥にコールドスプレーだぞ顔が爆発したらどうすんだ? そうなったらゾンビにでもなって復活してやるからな!!

 てか寄白さん今ごろなにしてんだろう? 俺が腰に手を当ててこの現実から目を逸らしていると九久津はその子どもに向かって両手を差し出した。

 「ずいぶん見かけてなかったのに……」

 九久津はその状態から視線を落とすためにしゃがんだ。

 笑みを返した子どもは九久津の顔に頬を密着させて頬ずりしている。

 「おっ、おい、やめろよ」

 いいながらも九久津は笑みを零した。

 九久津ってこんな笑いかたもするんだ、ギャップ萌え!!

 これまた女子キュン死案件だ。

 「そ、その子はどちら様で?」

 「座敷童のざーちゃん」

 九久津はそういって自分の両手を座敷童の両脇に通しそのまま抱きかかえた。

 親子? 親戚? なんかそんな雰囲気が漂ってる。

 「ざ、座敷童。ということはアヤカシ?」

 アヤカシならばパンドラの匣に監禁しても法では裁けぬ。

 これが法の抜け穴ってやつか。

 ただ「ざしきわらし」という響きが「さだわらし」の響きと被って微妙にヘコむ。

 座敷童ずいぶん九久津になついてるな~。

 首に両手を回して抱き着いてるし、九久津の子どもかよ!?

 いや、彼女かよ!!

 「そう。排他的アヤカシに属するアヤカシ。けどアヤカシではあるけど福の神とも呼ばれてる。千七百年の希力を蓄えた千歳杉に惹かれてきたんだろうってむかし兄さんがいってたな」

 座敷童は九久津の首を遊具のようにしてユラユラとぶら下がっていた。

 九久津は座敷童もろとも立ち上がると座敷童はまるで大型ネックレスのようになおも揺れている。

 九久津がそのまま座敷童を抱き抱えた。

 「へ~。希力にはそういうアヤカシを惹きつける力もあるのか?」

 「アヤカシのすべてが悪なわけじゃないし。人間に優しい種族もいるんだよ」

 座敷童は俺のほうを振り返ってニコっと笑ってきた。

 なにかを伝えるように口をパクパクと動かしている。

 なにいってんだろうと思って口の形をよく見てみる。

 おっ!?

 読唇術どくしんじゅつなんかできなくてもわかった。

 「ま」「り」「お」という口の形に動いている。

 九久津「毬緒まりお」の「ま」「り」「お」か、九久津の名前を呼んでるんだ。

 「ざーちゃんは声が出せないんだよ」

 「そ、そうなんだ……」

 座敷童は九久津の首元でさらに大きく振子のように揺れたかと思うと床めがけてパッと飛び降りた。

 ちょとした体操選手のようで床に吸いつくような見事な着地を見せた。

 そしてそのまま公園を駆ける子どものごとくペタペタと足音を立てて走り回っている。

 座敷童は障害物のように放ってあった九久津のスクールバッグに気づいた。

 幼い子特有の頭を対象物バッグに接近させる格好で中を見ている。

 おもむろにファスナーを開くと、そのわずかな隙間に手を入れた。