第91話 世界を救った能力者


俺の一歩先をいく近衛さんは電話を終え、周囲に気を配りながらすいすいと進んでいく。

 きっとこんな場面には何度となく遭遇してきたんだろう? 救偉人であり優秀な能力者だから。

 いや、これが日常なのかもしれない。

 俺にとっての非日常がこの人たちの……ち、違う、それは九久津も寄白さんも校長も社さんもだ。

 みんなこんな毎日を過ごしてきたんだ。

 転校前の俺だけがふつうだった。

 「いたぞ!!」

 

 近衛さんが俺に向かっていった。

 語尾は強調されていたけど出会ったときのように穏やかだった。

 瞬間的に安心できた。

 俺に気軽に声をかけるくらいだ九久津はそんな危険な状態にはなってない、と。

 それこそなにかを選択するような緊迫した状態じゃない。

 俺は辺り構わずに走った。

 だが突然、俺の視界を大きな黒い影が遮った。

 なっ、なんだ!?

 こ、こっちに向かってきてる。

 「あっ!?」

 俺は無条件にその方向に手をかざしていた。

 すさまじい衝撃音がした。

 あの近衛さんが目を見開いて驚いている。

 「なんて力だ……」

 俺は反射的に衝撃派を放ってたらしい。

 その方角を見ると、今まさに空の彼方に黒いエネルギー波が飛んでいくのが見えた。

 「い、今のは僕が?」

 あっ、そっか今の俺はツヴァイだった。

 「それが鵺を瞬殺した力のいったんだろうな」

 「これが? ……無意識に撃ってました」

 「それを制御できるようになれば心強い」

 近衛はさんは俺が破壊したなにかの欠片を手にとってその材質をたしかめるように指先で欠片をさすった。

 「これは亜空間内部の壁だ。本来なら亜空間は収縮して消えるんだが、あまりの高温で球状のままで固まったようだ」

 俺が急に走り出したからその振動で固まっていた亜空間の壁が崩れたってことか?

 「へ~」

 「そう陶芸の焼き物のようにね。ゆえに亜空間が固形物として残ったんだろう」

 「亜空間ここでなにがあったんですかね?」

 「さあね。まあ、それは九久津毬緒に話を訊けば早い」

 近衛さんが視線をずらしたさきに九久津が倒れていた。

 九久津の顔には遠くから見てもわかるような細かい傷がある。

 俺は倒れている九久津におそるおそる近づく、頬にまだ赤みがあって生きているのはわかった。

 ところどころ制服が破れたりほつれたりしてるけど命にかかわるような傷はないと思う。

 当局から大勢の人がきて規制線のテープを貼って警察の現場検証のようなことをしていった。

 「シシャ」の反乱のあとに見かけたことがある人が数人いた。

 九久津はそのまま国立六角病院・・・・・・に搬送されていった。

 そのあと、わりと早くにWebが更新されたみたいだけど俺はサラっとしか見ていない。

 ただ最終結果の掲載は本当にバシリスクが死んだのかどうかを調べらてかららしいく。

 早くて数日遅くても一週間ほどかかるという関係者の話が聞こえた。

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 Japan バシリスク 退治か(?)

 現在、日本当局が調査中。

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 俺はまたスマホを見返した。

 近衛さんがここから帰っていく前に俺が思っていた疑問を直接近衛さんに訊いた。

 六角市の「六角第一高校いちこう」以外のかさ増しも、町にたくさんあるソーラーパネルもやっぱり近衛さんのアイデアだった。

 ただそれもよりも世間話のようにいっていた、ある話が俺の頭の中でグルグルと回っている。

 いや、心の中に突き刺さっていた。

 ――アンゴルモアの大王。その討伐隊として最前線にいったのが現、外務省の一条空間いちじょうくうまと、現、文科省の二条晴にじょうはれ

 そして討伐計画の発案者が現、六角第二高校校長の五味均一。

 一条と二条はその功績を讃えられて救偉人の勲章が授与された。

 もともと日本発祥の終末ミームがアンゴルモアを誕生させたからね――

 俺はスマホの画面から、近衛さんが概要を書いてくれたメモを見る。

 ……現在いまがあるのはこの人たちのおかげ、か。

 なにかひとつでもずれていれば、もうとっくに無かったかもしれない現在いま

 世界の救世主たち。

 俺はそれがどんな戦いだったのか知らない……

第二章 END