第134話 国立六角病院


社さんとの話しを終えて、俺はさっそく国立六角病院の院内へと向かう。

 エレベーター横のにある施設案内図を見ると国立六角病院ここの八階はVIP階となっていた。

 ああ、なるほどアヤカシの知識はあっても身分的に一般人の俺は進入禁止だから八階を通らずに七階を通っていけということか。

 VIPルームはさぞかし豪華なんだろうな。

 メロン天国、スイカエリシュオン、桃エルドラド、苺ユートピア、果汁大衆浴場のフルーツパラダイスか。

 俺は一階から七階まで上がって龍が口を開いたような連絡通路に入った。

 そこそこの距離を歩くとやがて出口が見えてきた。

 へ~ここか~。

 こういう作りだからY-LABの中に病院があっても一般人にはわからないわけだ。

 まあ、一般人はアヤカシとかに関わることがないから問題なしだけど。

 そして七階の病院の本館とともにエネミーも見えてき……た……。

 ……ん? な、な!? 

 なんで、エネミーがここに?

 「遅かったアルな?」

 「エネミーなんでここにいる? 先回りしたのか?」

 「違うアルよ」

 「じゃあ、なぜ?」

 「迷子になったアル」

 これだし、だし!!

 予想するにエレベーターを楽しんでるうちに自分がどこにいるのわからなくなったってことだよな?

 「いわゆる方向性の違いアルね」

 「方向違い・・じゃなくて。方向の間違いだよ」

 「そうともいうアルな」

 迷子になったエネミーにひとりで帰れといったところで無事に帰れるわけがない。

 しょうがないから一緒に連れていくか。

 まずは一階に下りて院内の受付にいかないと。

 院内はぜんぜん病院にはみえなくてどこかのアミューズメントパークのように近未来的だった。

 俺の勘が働く、ここも当局の手が入っているんだろうと……。

 きっと近衛さんのデザインでなにかの意味があってこの内装と外装にしてるんだ。

 外から見たときはここに窓はひとつもなかったのに、院内には燦々とした太陽の光が注いでいる。

 どういう仕組みかはわからないけどマジックミラーのような原理なのかもと勝手に思う。

 意外とここにソーラーパネルで集めた郊外の太陽の光を使ってるかもしれない。

 俺とエネミーは受付にいくためふたたび国立六角病院の一階へと向かう。

 まずはエレベーターで下に降りないと。

 と、その前にこの状況を社さんに報告を。

 あっ、ここは圏外か、ならチャットアプリで一報を。

 これならどこかで電波が入った時点で要件は伝えられる。

 エレベーターの手前ところで社さんからチャットの返事がきた。

 ここは電波があるんだ。

 Y-LABと院内はある特定の場所でだけ電波が入るようになっていた。

 それがこのエレベーターの前だったみたいだ。

 社さんはやっぱり俺にエネミーを託してY-LABのほうで待っているという。

 病院に近づきたくない理由があるのは間違いない。

 まあ人にはいろいろ事情があるし……ま、まさか、お、俺と同じで病院怖い系か? 社さんそれならわかりすぎるほどわかるよ。

 

 いや、俺は怖くないよ、ゴホッ。

 エレベータに乗り階数表示の「1」のボタンを押してしばらくすると下降がはじまった。

 「バイブス、ヤベー!!」

 エネミーはまた同じことをいってる。

 どうやらエレベーターに乗ったときに感じるあのフワっとした重力がエネミーにとってのバイブスらしい。

 エレベーターは七階から徐々に下がっていって途中何度か人の乗り降りがあったけど無事に一階についた。

 扉が開いたと同時に俺は受付を探す。

 どこだ? ここからじゃよく見えないな。

 エネミーは手で傘を作って遠くを見てるけどあれは日の光を遮るためであって望遠鏡のように遠くが見えるわけじゃない。

 「受付どこアル?」

 

 しかたがないからエレベーターから降りて階数表示の脇にある施設案内図で確認する。

 案内図は長方形や正方形などの単純図形とピクトグラムでだけですげー見やすし目にも優しい。

 ユニバーサルデザインだっけ? きっとそういう配慮で作ってあるんだろう。

 その案内図の中央に「受付」の文字がある。

 

 ここか。

 俺はいちおう院内すべての間取りに目を通してみる。

 病院の奥まった場所にかなり大袈裟な「関係者以外禁止」のマークがあった。

 なんかヤバそうな部屋だ。

 果たしてこの部屋でなにがおこなわれているのか……。

 なんか幽霊的なのが出るのか? 俺とエネミーが受付に向かって歩いていると温かみのある四人掛け用ソファーが待合ロビーに無数に置かれていた。

 ここって何十人座れるんだ? 今、そのソファーには数人の人がポツポツと座っている。

 でもどの人もふつうの人だった。

 六角市には国立病院にこなければいけない人がこれだけいるってことか。

 いや市外からの患者もいるかもしれない。

 よく考えれば俺は授業が終わってから国立病院にきたんだから来院のピークは過ぎてるな。

 俺は閑散としている受付窓口に向かって進む。

 

 もちろんエネミーも俺のあとについてくる。

 俺とエネミーはその受付でふたり分の【VISITOR】のプレートを返却して代わりに受診用の番号札をもらった。

 なぜエネミーも【VISITOR】を返却したのかよくわからないけど、まあ、いっか。

 まず簡単な問診をするからと受付にいた病院のスタッフさんにいわれて別の個室に案内された。

 ちょっと心配だけどエネミーをロビーにおいて俺は今その個室にいる。

 しばらくすると看護師長というボスがきて俺の今の症状について訊かれた。

 俺が目の症状について正直に答えていると戸村さんという美人看護師さんが入ってきた。

 

 この看護師さんなら注射の痛みにだって耐えられるはずだ。

 俺、注射に弱し。

 なぜその看護師さんの名前を知ってるかというとネームプレートにそう書いてあったからだ。

 美人は美人だけどその振舞いができる看護師に思えた。

 「あっ、すみません師長。九条先生がなにかお話しを伺いたいとのことですのであとは私が代わります」

 「そう。なにかしら?」

 「私にはちょっと」

 「じゃあ戸村さん。お願いしていい?」

 「はい、大丈夫です。九条先生、師長の夜勤明けの休みが終わるまで待っていたそうですよ」

 「あら~そうなの。じゃあいってくるわね」

 「はい」

 看護師さんたちはなにやら忙しそうだった。

 けど患者のために頑張ってるんだろうな。

 Y-LABの研究者たちと同じように。

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