第174話 登校


 寝起きでそっこー洗面台にいって鏡の前であっかんべーをする。

 すこし暗い……よ、よく見えん。

 照明のスイッチを押すと洗面台はすぐに明るくなった。

 ……ん? 俺は何度か顔の角度を変えた。

 もちろんキメ角度である左斜め四十五度も試してみる。

 よし、眼は大丈夫そうだ。

 ヤ、ヤバっ!? 

 昨日の夜もスマホをやりすぎた……かも……しれない。

 近々ワンシーズンの新曲がリリースされるらしく俺はそのWebの記事に夢中になりリンクを辿ってはつぎの気になる記事にリンクし、さらにその先にジャンプするという無限のループを繰り返した。

 しまいにはアイドルとはまったく無関係の神話系サイトで約一時間を費やす。

 家に帰ってから食べると決めていたアイスもある理由で却下した。

 けど、神話あのサイトってどんなキーワードやリンクで辿り着いたのかはまったくわからない。

 同じようにリンクを辿ってWebそこにいけといわれてももう絶対にいけそうもない。

 六角市の出身のミアって娘は今回、初めて新曲選抜になったらしい。

 いいかたは悪いけどあまり優遇されていないメンバーってことなのかもしれない。

 しかも最近ワンシーズンに入ったわけじゃなく、いっちばん最初、そう初期も初期のメンバーということも知った。

 俺がうといだけなのか? 六角市にいてもそんな噂は聞いたことがない。 

 俺はこれでもそこそこエンタメには強い、ってほどでもなく人並みのアンテナだけど。

 そんなこんなで昨日ついついスマホを見過ぎてしまった。

 けっこう目を使ったから只野先生に怒られるかも………でも、目薬はちゃんと差した。

 いや、でも、あの目薬に疲れ目とかそういうのに効果ある成分は入ってないか。

 血の涙についてはあの目薬が効いてるのか効いてないのか、その状況にならないとわからない。

 赤い涙が流れたら目薬の効果はないってことになる。

 まあ、只野先生が診察てくれたんだから問題はないはず。

 今日は、すこし早めに登校して校長に国立六角病院のことを知らせないと。

 昨日は結局なんだかんだでいいそびれてしまった。

 いや、本当はそれほど大袈裟な魔障じゃないからいわなかった、というより内心ほっとしてその余韻に浸ってしまった。

 「便りがないのは良い便り」って言葉もあるくらいだ、と、自分で言い訳してみる。

 俺はあのあと処方箋しょほうせんを渡して目薬を受けとってからY-LABで社さんと合流した。

 そしてY-LABから出て、Y-LAB前のバス停で現地解散、のはずだったんだけど、あろうことかエネミーがみんなでパフェを食べたいといい出した。

 しかも六角駅前にある人気スイーツパーラーを指定してだ。

 なぜ、パフェなのか? それはただ単にエネミーがパフェきだからってだけのこと。

 って社さんもパフェは嫌いじゃないらしい。

 寄白さんも好きらしい……結局女子ってみんなパフェ好きじゃん!!ってこと。

 俺も、まあ嫌いではないけど――キャハ!!ってなるほど好きではない……。

 昨日アイスを我慢したのはこのためなんだけど。

 さらにエネミーが出した条件ってのがけっこう厳しくて全員集合でパフェを食べること。

 全員とは俺と寄白さん、それに社さんとエネミー。

 さらには九久津を入れた同学年の五人だ。

 こ、これは完全なリア充高校生グループになってしまう。

 エネミーはもうすでに寄白さんと会ったことがあるらしいから、エネミーがゆいいつ会ってないのは九久津だけになる。

 だからこそ会いたいらしい。

 そのパフェ会は全員なにごともなければ今日の放課後に六角駅前の繁華街で決行される。

 

 昨日の今日で……動くの早えーよ!!

 もちろん今日の放課後、市内や「六角第一高校いちこう」の四階にアヤカシが出ればそっちを優先しなきゃならない。 

 ただエネミーがあまりにダダをこねるから、俺と社さんはその条件を飲んだ。

 まあ、昨日、病院で待たせたからそのご褒美ってのもある。

 エネミーのあやとりはやっぱり社さんの能力の【ドール・マニュピレーター】の影響だった。

 

 ……残念だけど九久津はこないだろう。

 只野先生の反応からも九久津の怪我がひどいって思ったわけじゃなくただの俺の勘だ。

 単純にもうすこし時間が必要だと思った。

 連絡ができる状態ならすでに連絡のひとつやふたつするのが九久津だ。

 入院してから音信おんしんがないのは今も国立六角病院びょういんでバシリスク関係の聴取がつづいてるからだろう。

 上級アヤカシとの一対一の戦闘だ、それくらいのことはあると思う。

 社さんも俺と同じ意見だった。

 けど、社さんは九久津の話題になるととたんに口数が減る。

 やっぱり半年前の怪我が関係してるのか? でも、深くは訊けない。

 とりあえずバスを待ってるあいだに九久津にメールだけはしておこう……。

 なんだかんだ俺らも高校生なんだし、たまには息抜きしてもいいよな? その前に今日の授業を頑張らなければ……。

 一時間目はなんだっけ? 俺はもう一回、自分の目の状態を確認してから洗面台の電気を消し自分の部屋に戻る。

 ※

 机の上に貼ってある今週の時間割で今日の授業を確認する。

 あっ、理科か、理科ならまだいいほうだ。

 一時間目にマラソンの練習がきたときは地獄だ。

 なんで一時間目に五キロも走らなきゃならないのか?って思う。

 文科省よ、仮に走るにしても六時間目にするという優しさはないのか? って文科省がすべて決めてるわけじゃねーのか? さあ、学校にいく準備するか。

 

 ※