第198話 不可侵領域


 「六角市中央警察署」が配布した【最近、市内全域に変出者が出没しています。ご注意ください】の注意書きがここにもある。

 ってことは六角市のすべてに注意喚起してるってことか。

 

 寄白さんとエネミーがまた俺を下目づかいで見てくる。

 社さんも俺をチラ見した。

 えっ、や、社さんまで俺をそんなふうに……と思ったらうしろの九久津を見たのか。

 そ、そうだよな~恋は盲目っていうし。

 こんな貼り紙なんてもはや目に入っていないだろう。

 校長は――変態、最低。とつぶやいた。 

 俺はなぜかすこしダメージをくらう、が、断じて俺は変態ではない。

 九久津はノーリアクションのままだ。

 しばらくして校長は指で丸を作って俺らに合図した。

 一般人が大勢いる場所でアヤカシをメインにした話を聞かれるのは危険だからという理由で俺たちは個室のあるカラオケ店に移動した。

 カラオケは個室だし防音設備も整っていて一石二鳥だ。

 今、俺たち六人がいるのは株式会社ヨリシロが運営してるカラオケ店の店舗で俺たちの都合に合わせてくれるそうだ。

 まあ、それも校長のおかげなんだけど、あっ、えっと、もちろん校長の妹でもある寄白さんのおかげでもある。

 

 九久津はカラオケ店に移動してくる最中に俺に返信できなかった理由を教えてくれた。

 それによると九久津を監視している何者かがいて尾行しているということだった。

 しかもそれは九久津のスマホまで対象かもしれないということだ。

 だから俺になんの応答もせずにスイーツパーラーにやってきた。

 俺は九久津に送ったメールの本文にあらかじめ時間と場所を書いておいたし、もとからあのスイーツパーラーは有名だから九久津が合流するのもそれほど難しいことじゃない。

 でも、スマホのやりとりが筒抜けになるなんてそんなことがあるのか?って思ったけど俺は昼休みにじっさいその権力ちからを目の当たりにしている。

 そう、総務省は俺のWebへのログイン情報を握っていた。

 そんな強大な力を持つ組織だ。

 俺と九久津とのやりとりなんて簡単に漏洩れてしまうだろう。

 ただ九久津いわく自分のなにを調べているのか心当たりはないらしい。

 あるとすればまだ体調が万全ではなく謎の症状があるからそのことかもしれないということだった。

 案外、九久津を尾行してるとみせかけて俺のほうを探ってたり?とも考えてみる。

 そうなると九久津を尾行けてるのは総務省だ。

 近衛さんのくらいすごい能力者だったりして?とも考えた。

 けど、その場合その能力者の尾行に気づく九久津もまたすごい能力者だよな。

 九久津のポテンシャルが当局の能力者と同等ってのは俺たち高校生能力者にとっては朗報といえる。

 ただ、この総務省が九久津を尾行している説はすぐに消えた。

 なぜならそれは校長が今日の放課後に総務省の人と俺の不正アクセスことを電話で話していたからだ。

 もし、俺が尾行の対象ならそんな電話をせずにこっそりと尾行ければいい。

 九久津の尾行の件はこれ以上、話していても答えが出るわけじゃないから終わった。

 今は話題が変わって九久津が国立六角病院びょういんできいた不可侵領域の話をしている。

 俺は国立六角病院びょういんの話題ということで俺の魔障はそんな悪くなかったことを九久津に伝えた。

 これで俺の目のことはみんな知っている。

 九久津は自分のことのように喜んでくれた、やっぱり良いやつなのは間違いない。

 

 不可侵領域とは世界中からさまざまなな負力が流れてくる場所ということだった。

 俺はそんな話を初めてきいた。

 というより俺ら六角市市民はふだんの生活の中で不可侵領域の話はまずしない。

 危険な場所だから近づくなっていわれている場所であって興味を持つことはあまりないからだ。

 こうこうこういう理由で危険なんだって中身の伴った話をしたことも聞いたこともなかった。

 それもそのはずだ誰も理由を知らなかったんだから。

 おっ!?

 校長も話に加わってきた。

 会話の流れは今、校長にある。

 ベストタイミングって感じで校長が話を弾ませている。

 不可侵領域はジーランディアという人工の島から流れてくる負力の主要経路で六角市はもろにその影響を受けているらしい。

 最近四階のアヤカシの様子がおかしいのもそのせいかもしれないというのは校長の仮説だ。

 アヤカシの起源にあったように負力には大きく分けて「動的な負力」と「静的な負力」がある。

 これはつまり全生命体の負の感情だから生物それぞれの負力の質が変わってきたのかもしれない。

 天変地異のような災害や地球環境の悪化、人間の意識の変化も絶対関係あると思う。

 もしかしたらもう「動的な負力」と「静的な負力」のふたつには括れないような負力があったりするのかもしれない。

 ただ不思議なことに不可侵領域がジーランディアの影響を受けていることは九久津はおろか寄白さんも社さんも知らない新事実だった。

 というよりもジーランディアという単語さえ初耳だという。

 寄白さんがその情報をどこで入手したのか校長に訊くと校長はかなり精度の高い人からの情報提供があったといった。

 こんなふうにして能力者たちはAランクの情報を知ったりするらしい。

 機密情報はAランクBランクCランクの三段階に分別される。

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 ・Aランク情報は組織の上層部のみが知りえる極秘情報。

 ・Bランク情報はアクセス権限を与えられた人間が組織専用のサーバにログインして得る情報。

 他媒体へのコピーは不可。

 ・Cランク情報は対アヤカシ組織に属する者なら一般で知りえる情報。

 紙媒体での印刷、コピーは可能だが閲覧後は即時シュレッダー等で破棄すること。

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 六角市に生まれた俺たちは近づいていけない場所という意味で不可侵領域に馴染みがある。

 すこしだけど不可侵領域の実態もわかってきた。

 元をただせば「シシャ」の噂だって不可侵領域の影響だといわれてきた。

 あっ、そっか、その噂は俺たちのように真相を知らない人にとっては現在進行形なのか? これはそのまま思っていてもらったほうが市民みんなのためだ。

 話は飛躍するかもしれないけど「シシャ」の中でも負の立場である死者エネミーもジーランディアから産まれたようなものか? いや、そこは切り離して考えてもいいな。

 「シシャ」はあくまで不可侵領域の影響で六角市に紛れ込むって噂だけ。

 じっさいは儀式で誕生まれて不可侵領域から生まれるわけじゃない……。

 で、でもだ。

 四階のアヤカシがジーランディアの影響を受けておかしくなってるんならエネミーは大丈夫か? え~っと大丈夫か……。

 真野さんがブラックアウトしたのは蛇の仕業なんだし、エネミーの場合はあくまで寄白さんの負力の受け皿として存在いるんだから。

 い、存在いる、か……? 負力の受け皿……なんか心が詰まる。

 

 それならエネミーの生まれた意味っていったい……ああ、いや、いい、もうそんなこと考えるな。

 エネミーはパフェを上からかぶりつく面白いやつなんだ。

 ときどき俺をディスりもするし、わけわからん行動もするけどエネミーはエネミーのままでいなきゃだめなんだ。

  

 エネミーはあごに握り拳を当てながらこの話を聞いてた。

 ぜんぜんわかってなさそうだ。

 らしいっちゃ、らしい。

 いや、難しいことはわからなくていい。

 それでも校長は途中で――省略できることは省略するってことわりで話したからだいぶ噛み砕いて話したのかもしれない。

 俺たちのあいだでそんな話がしばらくつづいた。

 「最後の情報ね。今、国交省がその不可侵領域を探ってるみたい」

 近衛さんたちが? やっぱ俺の読みどおり六角市には地下ジオフロントがありそうだ。

 地下したからも不可侵領域の負力を浄化できれば瘴気も減るし守護山や市内まちの結界に頼らなくてもよくなる。

 問題なのはジーランディアからの流れてくる負力の量はそんな簡単に浄化できる量なのか?ってこと。

 浄化できる量が流れ込む負力の量を上回らないと意味がない。