第200話 Viper Cage ー蛇の檻ー


それぞれの目の前に頼んだ飲み物が並べられている。

 このカラオケ店に入ったのは歌うためじゃなくて、他人から隔離された場所で会議するためだ。

 ここで校長が今日の本題を話しはじめた。

 あっ、さっきのが本題じゃなかったんだ……?ってあれは九久津の話にあとから校長が参加しただけか。

 そもそも今日の集まりはエネミーがパフェを食べたいってことからはじまってるんだよな。

 だから今日ここに校長が合流することになったのは偶然だ。

 俺たちは校長を真ん中で囲むようにしてカラオケ店特有の硬いソファーに座った。

 グラスが汗をかきはじめて結露のようにテーブルを濡らしている。

 校長はスーパーで試食の販売している店員のように自分のスマホをかざして俺らひとりひとりに見せた。

 いたってふつうのスマホの画面だけど。

 「みんな、この画面見ててね」

 誰ともなく――はーい。という声が重なった。

 まるで授業のようだ。

 校長が持っているスマホはいつもの機種。

 ってことは注目しなきゃいけないのスマホ本体じゃなく画面の中か。

 校長はまた画面に触れた。

 【Viperブイアイピーイーアール Cageシーエージーイー】というやけにかっこよさげな単語があった。

 えーと、これってどういう意味だ?

 「直訳で蛇のおりってことでいいですか?」

 九久津のその一言でみんな納得する。

 「まあ、そうね。Viperヴァイパーは蛇。正式にはクサリヘビだけど。それにCageケージCageケージは鳥カゴって意味。……う~んと」

 校長はいいながらも画面をタップしてなにか文字を打っている。

 三十秒ほどをかけて文字の入力を終えた。

 【Viper Cage ―蛇の檻―】。

 「蛇の檻」というタイトルが加わっていた。

 「ViperCageヴァイパーケージ。蛇の檻。これを正式タイトルにします」

 

 それは校長の案で新規作成した電子共有ノートで、それを使ってみんなで蛇の情報を共有するという試みだった。

 電子共有ノートとはクラウドシステムとチャットアプリを合体させたシステムで当局関係者なら誰でも使えるシステムをアレンジしたものだ。

 アプリからログインすれば書き込み情報も共有されるし、基本的な画像ファイルや音声ファイルのアップロードも可能でそれらのファイルも共有できる。

 つまりひとつのファイルをアップロードすれば参加者全員がダウンロードできる。

 参加者人数もきちんと十人以下に制限した小規模電子共有ノートが【Viper Cage ―蛇の檻―】。

 じっさいは校長が作ったというよりもカスタマイズしたといったほうが正しい。

 まあ、早い話が蛇についての情報を交換をするクローズドの電子掲示板BBSかな。

 校長いわく――そう遠くない日に蛇は各国当局の共通の敵になる。とのことだ。

 さらにこの電子共有ノートを総務省にのぞかれたとしても、それはある意味当局への情報提供になるから俺たちにとってもメリットだ。

 なぜなら蛇の存在を国に認めさせることは蛇を退治するための近道になるから。

 まだ存在が確定したわけじゃないけどフランス当局のトレーズナイツの一員ヤヌダークもその方向で動いているということで、ヤヌダークと電話したその日の深夜に忙しい仕事の合間を縫って校長が【Viper Cage ―蛇の檻―】を作成したそうだ。

 蛇が世界の脅威になるのも時間の問題か。

 そんな気はするけどまずは身近なものがいちばんだ。

 俺らは六角市を守らないと。

 世界なんての大きすぎる、そのため各国それぞれに当局があるんだから。

 【Viper Cage ―蛇の檻―】の参加メンバーは校長、俺、九久津、寄白さん、社さんエネミーの六人。

 エネミーはちょっと心配だけどしっかりしてるときはしっかりしてるから大丈夫だろう、と思う。

 校長の誘導でさっそくみんなでアプリをダウンロードし初期設定を済ませ同時にログインする。

 

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 【沙田雅】

 【寄白美子】

 【九久津毬緒】

 【社雛】

 【寄白繰】

 【真野エネミー】

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 それぞれのフルネームが表記されていた。

 ――多面体ためんたいだからこそ世界は成立しているんだよ?。なんとなく近衛さんの言葉を思い出す。

 

 人それぞれか……それはそれぞれの能力を考えてもそうだ。

 ここに名前のあるみんなは外見から性格までまるで違う。

  

 【Viper Cage ―蛇の檻―】に誰かが文字を打てばみんなでその文字を読むことができる。

 同じ画面をそれぞれで見れるってことは一元管理しやすい。

 今の若者おれたちが使用している無料通話アプリなんかと違ってサーバーも当局のサーバーだからセキュリティもしっかりしてるし、参加してるみんなも対アヤカシ関係者だから編集した内容をおおやけのデータに応用できるメリットもある。

 

 といっても、まだ当局公認ではなくあくまで俺らだけの情報共有アプリなんだけど。

 この説明の大半は校長の説明を俺なりに解釈したものだ。

 おっ!? 

 さっそく文字が打ち込まれた。

 誰かが文字を打つと打ち込んだ人の右上に赤い鐘のマークがつく。

 今はエネミーの上にマークが出ている。

 

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 【真野エネミー】:このウーロン茶、飲んでもいいアルか?

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 ……エネミーいきなりそれかい!!

 みんなの笑い声がいっせいにもれた。

 口でいえばいいものを無駄に文字にするって。

 まあ、エネミーならやって当然な気もするけど。