校長が寄白さんに戸村さんの話をしていると、会話の中にちょいちょい姉妹の日常が混ざってきた。
校長、最初は丁寧に戸村さんのことを寄白さんに説明してたのに……。
「次号の『保健だより』の構成も私がやる」
これはもう家のリビングでの会話じゃないか? てか『保健だより』を姉の代わりに作ってあげるなんてなんて優しい妹だ。
これぞ姉妹愛。
……ん? ちょっと待てよ――次号の『保健だより』の構成もってことは前号も寄白さんプレゼンツだったのか?
「でも、美子は攻めすぎなのよ?」
せ、攻めすぎって!?
どんな『保健だより』だ? ただ寄白さんならやりかねないと思ってしまう。
俺が「六角第一高校」に転入してきてから見たすべて……というか「六角第一高校」の生徒が見たであろう『保健だより』はいたってふつうだったけどな。
あれからかれこれ一ヶ月半前。
転入初日の掲示板を思いだすわ~。
これはあれか? 寄白さんがむちゃくちゃな構成で作った『保健だより』を校長が修正して校内でリリースしてるのか?
「これでどうだ」
寄白さんは自分の制服からA四の紙を四分の一に折った紙を出してそれを広げ校長の前に掲げた。
てかその紙って朝校長の椅子のうしろに隠れてたときからもうすでに制服のポケットに入ってたってこと?
「えっ? 美子、もう最新号の下書き作ってあるの?」
最新号!!
な、なんと、仕事早っ!?
俺は寄白さんから紙を受けとった校長の反応を見守っている。
「だ、だ、だ、だ、だめよ。こ、こ、こ、こ、こんなの」
校長は顔を赤らめてしどろもどろしている。
アヤカシ意外の日常生活でここまで慌てた校長を見るのは初めてかもしれない。
よ、寄白さんはいったいどんな構成の『保健だより』を? てか、どんだけ攻めたんだ? 走り屋のカーブか? インコースギリギリか?
「今回は、お姉の撮り下ろしを使う」
「み、美子。い、い、いつのまに撮ってたの?」
「それはお姉の無防備なときに。このお姉のさりげないポーズがファンの心をくすぐるわけさ。マニア垂涎だな」
「だから、だ、だ、だめよ美子。こ、こんなの『保健だより』に載せられないわ」
き、き、気になる。
寄白さんは、校長のどんなきわどい写真を。
無防備ってことはつまり防御力がゼロ? そ、そ、それって、つまり……。
「つまんない。じゃあ、お姉が会社で仕事してるキャリウーマン風のビジネスモードにするか?」
「それもだめよ。私は学校では校長という立場なんだから」
俺はなんとなくそこから席を外さなければならないという気になってふかふかソファーまで移動した。
なぜならそのまま聞き耳を立てていたら、また変態だと騒がれてしまう。
ソファーに腰をかけてそのまま壁時計を見てみると、もう、午後の九時半を回っていた。
校長室にきてからも、一時間弱か……。
今はこんなにほのぼのとしてるのに四階の戦闘から、もうこんなに時間が経ってたんだと驚く。
社さんとエネミーはもう家に着いてるだろうし、九久津もそろそろ病院に着くころか? そんなとき、俺と校長と寄白さんのスマホがいっせいに反応した。
なんだ? でも、俺らのスマホが同時に震えたってことは、たぶん【Viper Cage ―蛇の檻―】だよな。
誰かが【Viper Cage ―蛇の檻―】になにかを書き込んだってことになる。
てか、これ寝てるときはアプリ落としたほうがいいな。
緊急時は直接電話かメール類で連絡くるだろうし。
エネミーなら深夜アニメのテンションでなにを書き込むかわかったもんじゃねー。
チャット画面をのぞくと見覚えのある顔の高画質画像が貼られていた。
でもこれくらいの画質なら最近のスマホでも十分撮れるな。
「戸村さん」
俺と校長の声が重なった。
やっぱり校長に情報提供したのって戸村さんじゃん。
しかも、この服装って看護師の服だし。
昨日”あおい”ちゃんの車イス押してたときと同じ格好だ。
この画像……九久津が今、国立六角病院で撮ったのか?
「お姉。この人がそうなのか?」
「そうよ」
寄白さんは画像とはいえ戸村さんとは初対面ってことになるのか。
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【九久津毬緒】: 繰さんが、今日、会った人はこの人ですか?
PS、パンケーキごちそうさまでした、とのことです。
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九久津がこれを送ってきたってことは病院に戻ったときに戸村さんと会って、校長にジーランディアの情報を伝えたのが戸村人なのか確認したかったからか?
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【寄白繰】:うん。この人間違いなくこの人が戸村さんだよ。”また機会があったら食事にいきましょう”って伝えておいて
【九久津毬緒】:わかりました。
【真野エネミー】:この人昨日の看護師さんアルな
【社雛】:こらこら、エネミー大事な話に割り込まないの。
私もエネミーも無事家に着きました。
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