第274話 国語雑学


 二時間目は現国。

 現社からの現国の流れは悪くない。

 ただのなんの因果か現国の先生も雑学の話をしている。

 と思ったら職員室で鈴木先生と話して感化されて自分もそうしようと思ったらしい。

 

 「道という漢字の由来だけど。斬った首を持ってみち・・を歩いていたことから今の形になったんだ」

 現国の先生は黒板をチョークでコンコンと叩いた。

 うわ~漢字の残酷な由来ってやつか。

 俺ら日本人「道」なんてふつうに使ってるじゃん。

 「明日への道」みたいな前向きな言葉だって漢字になった由来がそんなんならぜんぜん「明日」に向かえねーっつーの!?

 

 「荒野の荒れるは”草原に打ち捨てられた死体に残っている髪の毛”から生まれた漢字だといわれている。了解の了は両腕を切り落とされた子どもの姿。それに子どもを現すわらし。これは刃物で目を突いた男の奴隷からきているといわれている」

 こんなのばっかり。

 ほんとうにむかし人の命は軽くみられてたんだな。

 てか現社と現国がセットすぎる。

 あんな歴史があったから、こんな漢字が生まれたのかとさえ思えてくる。

 俺はおもむろに佐野の席を見た。

 現社のときと同じでやっぱり鬼気迫る感じだった。

 佐野はずっと素朴って言葉が似合う思ってた、でも今の佐野はバシリスクがくる直前の九久津とどこか重なる。

 そして三時間目と四時間目の授業も終わり昼休みになった。

 俺はまた寄白さんに呼ばれて隣のクラスのドアの影で山田の様子を見ている。

 山田は机に『保健だより』を立てながら弁当を食べていた。

 スポーツ新聞広げながら昼飯食ってるおっさんかよ!?

 あるいは競馬予想してるおっさんかよ!? 

 校長の三連単狙いか? しかも『保健だより』がおかずって山田家のエンゲル係数は優しいなってそういうことじゃねーんだけど。

 

 「寄白さん?」

 俺には今の山田がどういう状態なのかわからないから訊いてみる。

 「どうなの?」

 「まだまだだな」

 そ、そうなんだ。

 『保健だより』見ながら弁当食べててもまだまだなんだ。

 いったいどうなったらいいんだ?

 

 「腕がなるな」

 「えっ?」

 「次作の作り甲斐がある」

 おっ!!

 よ、寄白さんまたオリジナル『保健だより』を作る気か?

 「が、頑張って」

 「まあ、その前に近いうちに家宅捜索でもするか」

 か、家宅捜索って、な、なんじゃそりゃ?

 「寄白さん、それはどういう意味?」

 「体育館の裏だよ」

 あっ、社さんいってたな。

 山田は体育館倉庫の裏に校長のアイテムを入れたクッキー缶を隠してるって。

 「ああ、あれのことね」

 「虫の報せで雛にきいたんだろ?」

 「うん。きいた」

 そ、それを寄白さんに押収されるのか? そんなとき廊下のあちこちで生徒が挨拶する声がきこえた。

 俺がその方向を見ると校長がこっち向かってきていた。

 もしかして二年B組にーびーに用があるとか? けど、やばっ!?

 校長が俺らに近づいてくるってことはそれは山田に近づくことにもなる。

 そうなると山田は「でしゅ」ってしまう。

 ここは一度退くしかない。 

 俺と寄白さんはいったん校長室に移動した。

 「昼休みだから沙田くんに準備完了の報告をしようと思ってね」

 「えっ、それなら校内放送で呼んでくれてもよかったんですけどね?」

 「そっか、その手があったわね。私ちょっと寝不足で頭回ってないかも。さっそくだけど放課後に話を聞きたいって食いついてきたわ」

 「ほんとですか?」

 「うん。手応えありよ。沙田くんも美子も放課後四階に異変がなかったら校長室ここの更衣室に隠れて作戦の成り行きを見ててくれない?」

 「いいですけど」

 「いいけど」

 俺と寄白さんの声が重なった。

 と、いうことは俺と寄白さんは放課後に校長室の更衣室でふ、ふたりで……そ、それって学生の新たな憧れのシチュエーション誕生か!?

 【放課後に校長室の更衣室でふたりきり】……こ、これは、ぜんぜんありえねー。

 ふつう学生は校長室なんて入れねーし!!

 却下だな。

 

 そのとき寄白さんのスマホが振動した。

 画面を見て――九久津。といった。

 俺も昨日九久津が病院に戻ってからどうなったか心配してたんだよな。

 寄白さんはスマホで文字を打ち返している。

 するとすぐに寄白のスマホが鳴った。

 たぶん九久津からの折り返しの電話だろう。

 「ちょうどみんな昼休みだと思ったから連絡したんだ」

 

 寄白さんのスマホから九久津の声がきこえてきた。

 ああ、スマホをハンズフリーにしたのか。

 ってことは俺と校長も話をきいていいってことだよな。

 「ああ、それは今メールでみた」

 「それで美子ちゃんに用っていうのは、昨日俺が病院に帰るタクシーの中できいた話なんだけど」

 「ああ、どんな話だ?」

 「『Y-交通』のタクシーに人ではない者・・・・・が乗ってくるんだって。すでに把握済み?」

 ひ、人ではない者って!?

 そ、それはまさか、ゆ、幽霊ってことか? こ、怖え、え、え? こ、怖いか? 俺ってわりとふつうにアヤカシと遭遇してるよな? それ考えたらあんまり怖くなくなった。

 たぶんブラックアウトしたモナリザのほうが怖えー。

 結局は幽霊たって負力が変化したものなんだし。 

 「ああ、知ってるよ。かすみさんだ……音無霞おとなしかすみ

 「そっか。なら、よかった。でも……」

 「九久津いいたいことはわかってる。今までは何人かの運転手に抗怪こうかいレベルの制服を用意して霞さんをせるためだけのチームを作ってもらってたんだ」

 Y-交通って俺は昨日そのタクシーを見て校長が欲しがってた情報に気づいたんだよな。

 けど六角市を彷徨ってる幽霊をタクシーに乗せるって怖い話でありがち。

 「そっか。まあ美子ちゃんが事態を把握してるなら俺はあとなにもいうことはない」

 「霞さんのように子どもを残して死んでしまった母親の未練はとてつもない呪縛になる。ただタクシーの帰宅ルートを外れはじめたとなるとおそらくもう自分の家に戻る道がわからなくなってきてるんだろう」

 「美子ちゃん。それが現世に生きる人間と交流してるなるとまずいよね?」

 「ああ。下手をすれば最愛の我が子、いや霞さんの息子、優くんに影響がでてしまう」

 「できるなら自然な成仏を待ちたいってことでしょ?」

 「ああ、私たちのような能力者の能力で強制的にってのはしたくない」

 そんな深刻な話に寄白さんはしばらく考え込んでしまった。