第283話 深夜アニメ『中華ファンタジー・異世界ガンマン』


俺は寄白さんとの電話を終えてから、なんとなく早朝あさのお礼をと思って社さんにメールをした。

 間違ってもここで虫の報せなんて使えない、いや使わない。

 開放能力オープンアビリティはそんな簡単に使っていい力じゃないことを理解したから。

 しばらくすると社さんからの返答があった。

 【気にしなくてもいいのに。 社雛】

 社さんらしい返答だった。

 それでも俺はいわずにいられなかった。

 

 それからはなんてことはないふつうの学校の話題になった。

 俺は山田の習性をもっと詳しく知りたくなってメールすると社さんから折り返し電話がかかってきた。

 「山田かれが体育館倉庫の裏にクッキーの缶を隠すのは決まって放課後ね。放課後って部活なんかでみんな忙しいからそのときを狙ってるんだと思うわ」

 「なるほど」

 「明日から六角第二高校うちの高校しばらく午前授業なの」

 「なんで?」

 「改修工事。六角市の高校は一校から順番に建てられていったんだけど自然災害なんかで劣化する順番はまちまちだから」

 そういや今、六角第四高校よんこうの状況はどうなってるんだろう?

 「へー」

 「それで六角第二高校うちも改修工事なの。明後日なら私が昼から六角第一高校いちこういっていろいろ教えられるけど」

 九久津はまだ病院だから、社さんと九久津がばったり会うってことはない。

 

 「ほんとに? 寄白さんもいるからきてよ」

 まあ、社さんはもともと「六角第一高校いちこう」の生徒だったんだし。

 バシリスクのときも校長室までやってきた。

 放課後なら練習試合で他校の生徒が校舎にいることもよくあるからな。

 社さんとの電話を終え今日の俺は完全にフリーになった。

 だがしかし、この時間までに用件を終わらせて体力を温存したのには理由わけがある。

 そう、今日の深夜から新作アニメがはじまるからだ。

 半分お子様のエネミーでも寝ずにテレビの前でスタンばっているに違いない。

 いや、すでに仮眠さえしている可能性もある。

 

 俺は眠気覚ましの効果も考え目薬を差しに一階の洗面台に向かう。

 階段を降りているときにふと気づく。

 この目薬を差しはじめてから九久津の兄貴とのシンクロが減ったような気がする。

 赤い涙を透明にする薬【啓示する涙クリストファー・ラルム】を抑えるってことはある意味そういうことなのかもしれない? まあ、今度只野先生に訊けばいいか。

 俺はまた鏡の前であっかべーをして右に数滴、左に数滴目薬を落とし九久津の兄貴に挨拶して部屋に戻った。

 そして刻々と迫りくるアニメの放送時間に備える。

 有名アニメ会社『アニメトロン』制作『中華ファンタジー・異世界ガンマン』がはじまった。

 おっ!!

 な、なんとオープニングがいきなりワンシーズンの派生グループだ。

 『啓清芒寒けいせいぼうかんfromワンシーズン』

 

 け、けいせいぼうかん? なんだそれ? てかそんな派生グループいたのか? そもそも俺は六角市出身のミアって娘さえ知らなかったんだ。

 いたかもしれないし最近結成できたグループかもしれない? よく芸能界は世間の何か月が先をいってるってきくし。 

 正月特番も秋とかに撮ってるらしいしな。 

 ああー!!

 この曲のプロデューサーHPAヘクトパスカルかよ!? 

 featフィーチャーたちのつぎはこっちか。

 昨日エネミーがHPAヘクトパスカルはアニソンにも関わってるっていってたっけ。

 HPAヘクトパスカルは金髪で派手めなメイクをしたチャラいプロデューサーだ。

 でもHPAヘクトパスカルの芸名(?)ってたしか”勢力拡大”や”勢いがでる”ようにって由来だった。

 HPAヘクトパスカルって台風かよ!? 

 おおげさな名前つけやがって、ハリケーンの威力なめんなよ。

 世界でどんだけ被害でてんのか知ってんのか?

 

 オープニング明けですぐに『啓清芒寒けいせいぼうかんfromワンシーズン』の歌う『口径こうけい4ミリ』のCMが流れた。

 四人メンバーはよくわからないけど、じゃっかん校長似の娘がいたのはわかった。

 

 ――独りキャンプはGRナイフで!!

 おお、キャンプ用品、とくにナイフで有名なGRがスポンサーか。

 ようやく『中華ファンタジー・異世界ガンマン』本編がはじまった。

 さっそく主人公がトラックにはねられて異世界にいく。

 第一話ってのは良くも悪くも世界観を掴むので精一杯、ここまで観た感じはテンプレだな。

 世界観とステータスの説明が終わって、またCMが流れる。

 ふたたび『啓清芒寒けいせいぼうかんfromワンシーズン』の歌う『口径こうけい4ミリ』のCMが繰り返された。

 そして後半開始で第一話の見せ場。

 主人公が床をゴロゴロと回転しながら銃弾を避けていく。 

 そして場面変わり、建物の引きので「つづく」か。

 いいところで終わったな。

 ここでまたCM。

 ――ガイヤーン!! ただただガイヤーン!! なんにせよガイヤーン!!

 ガイヤーンってあのカラオケで食べたあのガイヤーン? これからガイヤーンはやるのか? 女子高生に大流行するのか? ガイヤーンがガンマンチックだから無理やりCMねじ込んだのか? そのうちガイヤーンと『中華ファンタジー・異世界ガンマン』のコラボ商品でるな。

 でもこのガイヤーンのCMは商品よりも言葉セリフのほうがインパクト強い。

 ”ただただガイヤーン”ってどういう意味やねん!!

 そのあとにまた『啓清芒寒けいせいぼうかんfromワンシーズン』の歌う『口径こうけい4ミリ』のCMが流れた。

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