第329話 短縮URL


スマホの画面が切り替わった。

 ふと寄白さんを見てみると、今、まさに画面をタップする直前だった。

 ……ん? なぜかそのまま動きが止まる。

 いや、わざと止めたのか。

 「このURLってパーセントやアンドの記号が多いな。それに文字数も少ない」

 

 そっか、寄白さんてIT強い系女子だった。

 けどこのURLに疑問を持つなんて、俺がいかに毎日アドレスを気にせずタップしてたのかってことだ。

 このURLを見ただけでよくそんな小さなこと気づくな。

 「リダイレクト……」

 

 えっ!? なにその専門用語。

 リ、リダイレクト? ああー!? こ、これはウィルス的なやつかー!!

 世間でさんざん注意しろっていわれてるのに俺はそのリンクを踏んでしまったー!!    

 リンクの先にいってしまったー!!

 たかがいち高校生に身代金なんて払えませんよ。

 よりもにもよって、なぜこんなふつうの高校生を狙う? 無い袖は振れない。

 無いれない。

 どんな角度になっても逸れません。

 

 いったいいくら要求されるんだ? ニュースでやってるのは何十億だぞ、億。

 相手は石油のパイプラインを止めたりするやつら。

 む、無理ゲーだ。

 俺じゃなにもできない。

 「寄白さん。クオカード千円でなんとかならない?」

 「さだわらし。なにいってんだ?」

 「俺のスマホは、か、完全に手遅れなんだ」

 「はっ? なにが?」

 寄白さんの十字架までもが俺を憐れんでる。

 久々だなこの下僕感。

 「もうリンクの先にいってしまいやした・・・・・・

 なんか先代の人体模型とシンクロした感。

 「この短縮・・URLのことか。それで?」

 「高校生には払えない。相手はきっと何十億を要求してくると思うんだ。でも俺がだせるのはクオカード千円。だからそれでなんとか俺のスマホを助けてくだせー。こ、これ以上の額は無理です。ペイ系のアプリを使うときっとウォレットごと持ってかれると思うんだよ」

 

 「ランサムウェアと勘違いしてんのか? スマホのデータを無事に返してほしければ金を払えと要求されるとでも?」

 「えっ? 違うの?」

 「九久津がそんなURLのリンクを送ってくるわけないだろ」

 「それもそうだけど」

 

 そういうのって身内とか友達とか仲間を装ったりしてくるじゃん。

 今回のはそういうのじゃないのか。

 「それにウォレットごと持ってかれるってどういう意味だよ? ウォレットごと持っていけるならランサムウェアなんて使わないでそこら中のウォレット持っていったほうが早いだろ」

 「じゃ、じゃあ、URLをタップしてもいいんだ?」 

 「問題ない。正式なURLが長いから短くしただけかもしれない。気にするな」

 「そ、そうなんだ」

 画面にドクロマーク、アンド、バツ印とドルマークがでてると思ってた俺はおそるおそるスマホを俺の顔に近づける。

 校長も社さんも冷静で俺だけがひとり騒いでたらしい。

 ハズい。

 俺のスマホの画面に戸村さんが写っていた。

 でも、画像のなかの戸村さんは正装をしていてまるでどこかのパーティーのようだった。

 あっ、これって、よく見ると画像の奥に「救偉人」って書いてある。

 名前は【戸村とむら伊万里いまり

 完全に能力者じゃん、いや、そういうわけでもないか。

 そう、只野先生は非能力者だけど人面瘡じんめんそうの新たな治療法開発して救偉人に選ばれた人だから。

 どうやらこの画像は救偉人の授賞式のやつらしい。

 

 「戸村さんが子どものころに被災した話ってこのお姉さんも一緒だったのかな? だから今の職業を選んだって。でも戸村さんは看護師じゃなく魔障専門看護師なのよね? なにか一般医療から魔障医療に転向するきっかけがあったのかな……」

 校長は自分のスマホ画面をピンチアウトしていた。

 俺も同じように画像を拡大していく。

 あっ、やっぱりこの画像って救偉人の叙勲式のときのだ。

 垂れ幕がある。

 じゃあ九久津が戸村さんの姉の、えっと戸村伊万里さんの救偉人の叙勲式の画像を送ってきたのか。

 「画像の提供者はこの戸村伊万里さんの妹さん。まあ私たちが戸村さんと認識している人物ね」

 社さんも同じように画面を大ききしていた。

 戸村さんがこの画像を九久津に提供し、それを俺らに送ってくれたんだ。

 双子だという証明にもなるし。

 ここまで情報を教えくれるなら、戸村さんはやっぱり良い人、いや良い魔障専門看護師。

 あおいちゃんもなついてたし、あおいちゃんの人面瘡剥離術はうまくいったかな?

 

 「九久津くんを尾行できるなら戸村伊万里さんが救偉人というのも納得ですね」

 「そうね。さあ、みんなそろそろ帰ろうか?」

 校長は社さんにそう返して手を――パンと叩いた。

 「そうですね」

 「雛もありがとね。ここ南町だけど六角神社いえまで株式会社ヨリシロうちのタクチケ使ってね」

 「はい。ありがとうございます」

 「あそこに停まってるタクシーね」

 「はい」

 社さんは俺らに手を振ってからそのタクシーまで歩いていった。

 けどエネミーがいない一人の社さんはレアだ。

 あとでエネミーが騒ぎそうだけど。

 九久津が【Viper Cage ―蛇の檻―】を使って俺らに共有のメッセージ送ってきた以上、絶対にエネミーの目にも入ってるし。

 「私は市役所の人とすこし話があるから。沙田くんと美子はふたりで帰ってね。でも外の空気を吸うだけ気晴らしになるのね~。なんか夜の空気っていいわ~。株主総会の準備で煮詰まってて」 

 校長はその場で深呼吸をした。

 日常生活の気晴らしする前のストレス状態ってのも魔障未満なのかも。

 怖気だけじゃなく、弱気とか根気とかも結局「気」。

 気持ちだもんな。

  

 川相さんは十三年ものあいだ気晴らしできずにずっと空気を吸えなかった。

 苦しかっただろうな。

 校長は市役所の人とすこし話してて川相さんは六角市のNPO『幸せの形』というところからも社会復帰の道を探っていくみたいだった。

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