(ああ~チーズティーか。沙田くん、よくわかったな。エネミーのこういう部分がわかるのって沙田くんか美子くらいよね。ツインテールの美子もこんな感じだけど。それにしても六角第一高校がまだ昼休みでよかったわ)
「エネミー。ティーズチーのチー抜きっておいしいの?」
「おいしいアルよ。雛、味見するアルか?」
「じゃあ一口だけもらおうかな?」
社は自分の目の前にある飲み物のカップをずらした。
同時にエネミーもテーブルの上でチーズティーを押す。
「飲むアル。それに雛も『アニメトロン』制作の『中華ファンタジー・異世界ガンマン』観るアルよ。必見の価値アルよ」
「一見の価値でしょ。ありがと」
社はエネミーから飲み物のカップを受けとる。
「そうともいうアル。一回で終わったアルね」
「えっ、そうなんだ」
「打ち切りアルよ」
「早いのね?」
「アニメの世界は弱肉強食アル」
「どんな世界でもそうよ。産まれるってことだって弱肉強食の生存競争に勝ったってことでしょ?」
(沙田くんに返信だけしておこう)
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そのとおりだったわ。
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やっぱり。
二校は改修工事だから、昼からオフか。
いいな~、学生が休みの次に憧れる午前授業。
午前で終わる授業、いいな~。
俺はあと二時間授業があるうえ、帰りのHRでは鈴木先生の熱弁があるはず。
すこし押すだろうな。
掃除の時間に食い込むかもしれない。
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エネミーはストローをくわえたままでチーズティーを注文した店にある三つのレジをながめていた。
「雛。子どもは親を選んで産まれてくるってほんとアルか?」
「えっ、ほんとよ。なんでそんなこと訊くの?」
「違うアルよ」
エネミーはぶんぶんと首を振った。
「どうして?」
「だってうちはお母さんは怖いアル」
「そりゃあリモコンなんて投げたら怒るわよ。それだけの理由で真野家に産まれたのが間違いっていうならエネミーのほうが間違ってるわ」
「雛、レジ見るアル。どのレジか選べないアルよ」
エネミーはそのままレジの方向を指差し、ストローをくわえたまま足をゆらゆらとバタつかせた。
「えっ?」
(そういうことか。お客がレジに並んでいても最後の決定権は店員さんの――お待ちのお客様、こちらにどうぞ。になる。たしかに自分ではどのレジで会計するかは選べない。真ん中のレジと右のレジと左のレジどれも同じレジ、それを生まれる家庭に例えると同じように見えるレジでもまったく環境が違うのかもしれない。……もっともエネミーは死者という特別な存在。七十億のなかのひとり。それでもすくないながら世界にはシシャのシャドウシステムで生きる日陰の存在がいる。アンゴルモアが具現化した××××年にヴァニッシュ公国はシステムを停止してるけど)
「あの客は、あっちのお姉さんレジのほうにいきたかったかもしれないアルよ」
「それはあるかもね」
(私が能力者として六角神社に生まれたのも、私自身で社家を選んだから? それとも”隣のお客様”で、社家に生まれた? それがなければ産女の戦いで怪我をすることもなかった……)
エネミーが両足をもぞもぞさせている。
「どうしたの?」
「椅子で太ももの裏擦ったアルよ」
「ええ、大丈夫? とりあえず席、移ろうか?」
「そうアルな」
チーズティー片手に席を移動してたエネミーが先に座り、それを見届けた社も飲み物をテーブルに置き椅子に腰かけた。
「ねえ、エネミー。エネミーはさ、そのテーズティー。じゃなくてティーズチーのチー抜きを頼んだのはそれ飲みたかったからでしょ?」
「そうアルよ」
「エネミーはちゃんとお店を選んで飲みたい物を頼んだ。でも三つのレジのどこでお会計するかはわからなかった」
「そうアルよ」
「それってエネミーの意思でちゃんと選んでるってことよ。だから子どもは親を選んで生まれてくるんだよ。ただエネミーのいったとおりレジのアタリハズレによっては哀しい境遇の子どももいるんだと思う」
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戸村伊万里は昨日と同じホテルの部屋で2in1の液晶画面をのぞいた。
画面のなかでいくつもの数字とアルファベットが混ざり合って上から下に流れている。
(もう半日過ぎたか……)
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