第376話 通達


 フランス当局からトレーズ・ナイツのナンバー2、ボナパルテが来日してフランスという国が公文書で「蛇」のことを日本へ伝えたと聞いた。

 公文書っていうんだからそれはメモやなんかとは違ってちゃんとした文書だろう。

 用紙かみの右下には「France」を崩したデッカイ芸術的な紋章のような印がドーンと押してあるはず。

 俺らが日本当局に言うよりもフランスという国を通じて日本という国に情報が伝達つたわればたしかに世界に「蛇」が存在しているという真実味が増すはずだ。

 そこからさらに他国へと「蛇」の話が拡がるかもしれないし。

 

 これが俗にいう「正式なルート」を通じてってやつだ。

 これで日本当局にも「蛇」の存在をちゃんと知ってもらえるな。

 良かった。

 

 でもこれって結局、校長がフランスの能力者の精鋭トレーズ・ナイツになったヤヌダークと親しかったからだ。

 元をただせばそれはやっぱり、九久津の兄貴の功績だろう。

 俺らも俺らでちゃんと【Viper Cage】の中身をまとめておかないと……。

 俺は制服のポケットからスマホを出して画面のなかの【Viper Cage ―蛇の檻―】のアイコンタップした。

 すぐにアプリが起動する。

 何回か操作をして電子共有ノートを開く。

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 【寄白繰】:

 ・1、蛇は真野絵音未を唆したかもしれない。

 ・2、蛇は人体模型をブラックアウトさせたかもしれない。

 ・3、蛇はバシリスクを操っていたかもしれない。

 (バシリスクは不可領域を通ってきた)

 ・4、蛇は日本の六角市にいるかもしれない。

 ・5、蛇は金銭目的で暗躍しているかもしれない。

 ・6、蛇は両腕のない藁人形(忌具)を使って、モナリザをブラックアウトさせたかもしれない。

 ・7、蛇は二匹(ふたり)いるかもしれない。

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 あれから新情報はないか……。

 社さんも「蛇」の情報をちゃんと精査して取捨選択してるくらいだ。

 みんなもそうしてるはずだからおいそれと信憑性の低い情報を追加できるはずがない。

 俺は俺で探ってみても今のところ「蛇」の情報は何もない。

 

 エネミーの「私がどんなパフェを食べたいのか当ててみるアル?」を日本当局に送るわけにもいないし。

 俺らの周囲まわりで嫌な動きをしてるのはなんとなく感じるけど蛇がそう簡単に尻尾を出すわけがない。

 引き続き情報収集を頑張るだけだ。

 あと近衛さんが今、六角市にいるらしい。

 市内のソーラーパネルをチェックしてるのか他のことかもしれないけどアンゴルモア討伐に行った一条さんと二条さんみたいに国民だれかのために働いている。

 

 俺が知らないところでやっぱり世界はいろいろと動いてた。

 なんせいつのまにかY-LABに救偉人の魔獣医が着任てるくらいだし。

 「校長。Y-LABにきた魔獣医の子子子こねしさんって人のこと知ってますか?」

 「ああ、その話ね。お父さんから聞いてたわよ。ただ名前はWeb初めて知ったけど。魔獣や幻獣の遺伝子解析をする機器が導入されるって話もね。それと妖花の研究者もY-LABに着任るのもきいてる」

 魔獣や幻獣の遺伝子解析をする機器? 妖花の研究者? なんだそれ? 俺はそんな情報は知らねー。

 事情通がいた!!

 正式名称”YORISHIROヨリシロ LABORATORYラボラトリー”。

 国と株式会社ヨリシロヨリシロの第三セクターの関係者ってこういうことか。

 内部情報に詳しすぎる。

 ワンシーズンの新メンバーのリークも本物の関係者ならあながち嘘じゃないかも。

 「Y-LAB。ますます無敵になってきますね?」

 「そうなのよ。心強いわ」

 さあ、そろそろ朝のホームルームにそなえて教室に戻るか。

 「校長。そろそろ教室にいきます」

 俺は美亜先輩の手紙を折り目の上からさらにきつく押して校長に差し出した。

 「あっ、ありがとう。もうそんな時間?」

 校長はシャンパンゴールの腕時計を眺めた。

 俺にも時計回りの【ⅩⅡ、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、IIII、Ⅴ、Ⅵ、Ⅶ、Ⅷ、Ⅸ、Ⅹ、ⅩⅠ】のローマ数字が見えた。

 秒針がどんどん進んでいく。

 

 「はい」

 校長が腕時計から視線を外すと俺の顔を見ながら、再度確認ためなのか――沙田くん、本当に株主総会に来るの?と訊かれた。

 俺は保育士に名前を呼ばれた園児のごとく――はい。と答える。

 「わかった。準備はしとくわね」

 「よろしくお願いします」 

 俺は校長室を後にし廊下を歩きながら株主総会の前に臨時休校を活用してまずは山田のファッションチェックだなーと思う。

「山田コレクション」を先に開催せねば。

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 「なるほど」

 升はいまだ健在なダイヤル式の黒電話の受話器に向かった言った。

 『はい。以上が中間報告です。六角市のレッドリストの保護区域はいまだ防衛省チームが警戒中』

 「鷹司くん。承知した」

 『連絡が遅くなり申し訳ありませんでした』

 「なにを、なにを。お主は今や総理に変わって一国のおさ

 『ご理解いただき感謝いたします』

 「ボナパルテくんがきたときに座敷童わらしのことを訊かれたんじゃが?」

 『ああ、その件でしたらすでに済んでおります』

 「そうかい。そうかい」

 『それと蛇についての文章をいただきました。私のほうではメモの走り書き程度の認知でしたが外交ルートで情報がきた以上、この件についてはこれから重要事項として扱っていきます。升さんもご存じだったとか?』

 「わしも寄白校長から話は聞いておった……。最初は寄白校長の気づきからじゃったがな。わしも鷹司くんへの直接の報告も考えてはいたのじゃが、わし自身にもこれという決め手がなく逡巡していたというのも本心じゃよ」

 『そうでしたか。升さんの現在のご意見は?』

 「日に日に嫌な予感が増していく、と、いったところかのう」

 『わかりました。こちらも注視していきます』

 「ああ。頼んだよ。後ろで誰か呼んでいるようじゃが?」

 『すみません。秘書官ひしょです。これから日銀、金融庁、財務省との会議がありまして』

 「では、これくらいで」

 『はい。失礼いたします』

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