いまだ経済の話題を繰り広げている大型商業ビルの大型ビジョンの右上に現在の時刻が出ている。
そろそろエネミーも南町から駅に着くころだな。
俺はあらめて自分のスマホで時間を確認する。
正確なバスの到着時間が知りたくてブラウザアプリのブクマにあるバスの時刻表をタップした。
あと、三分後に到着か。
プラマイ三十秒で考えてもそろそろ動きはじめたほうがいい。
ただほぼ保護者の社さんが一緒に来ないのもめずらしい。
国立六角病院に用事があるらしいことをきいた。
九久津まだ入院してるのに大丈夫か? 偶然、ばったりなんてことも……。
まあ、それはそれでアオハルの一コマってことで。
社さん、私はこんなノリについていけないわ!!ってのもあるかもしれない。
うん、その可能性はおおいにある。
九久津と校長と社さんはこっちじゃないから。
エネミーはひとりで駅に移動中だから山田がエネミーと会う前に俺と山田は二手に分かれなければならない。
俺がさっそくミッションに移ろうとしたとき山田はすでにY・RENKAさんとの交流を終え誰かのSNSを見ていた。
ん? 誰かじゃなくてタイムラインか。
話題は啓清芒寒についてだった。
おお、あの娘の擁護派が増えてる。
なかには新メンバーの疑惑ことを言ってる人もいるけど、ほとんどが朝のワイドショーのあの娘を評価する内容だった。
この番組をリアタイしていた人がそう書き込んでいるのかもしれない。
意外と六角駅の前にいたりするかも、今、まさに俺の目の前にいる誰かとか。
みんなスマホを触っててわからない。
「山田、俺はエネミー迎えにいってくるから。あっちで寄白さんが来るの待ってて」
俺はロータリーの対面を指差した。
「了解でしゅ。沙田殿、頼んだでしゅよ」
「おう。つぎに会うときは完璧なファッションでエネミーと会うことになるな?」
「でしゅ」
山田は寄白さんに選んでもらった服を着てエネミーと会うという段取りのためロータリーを渡って一足先に繁華街のほうにいく。
スイーツパーラーなんかの飲食店を含めアパレル系の店もあっち側のほうが多い。
むしろ娯楽的な店はあっちにほぼすべて揃っているといっても過言じゃない。
山田はY・RENKAさんのアドバイスをベースにしながら寄白イズムを入れるみたいだ。
どんな格好になるんだ? 本当ならファッション系は校長に頼んだほうがいいのは間違いない……。
山田は――じゃああとで、というふうに手を上げて信号機のところへ進んでいった。
「山田コレクションin六角市、六角駅前」の開始だ。
俺はエネミーが乗っているバスの降車場に向かう。
近くにいた人が――ラジオがどうのこうのと言っている。
そっか。
この人の多さは啓清芒寒の献血のCMだけじゃなく四季のラジオの影響もあるんだ。
――えーそれって、その柱の前で告白するとふたりは恋人になれるっていう新スポットになるんじゃない?
四季のラジオのあの一言だ。
パルテノン神殿のような白と黒の柱の辺りはとくに人が多い。
俺と同じくらいの年齢の男女がスマホで写真を撮っている。
自撮り棒を使ってるやつもいるし。
そういうことか。
駅前が完全にバズった。
新スポット誕生だ。
ワンシーズンの四季の影響力はすごすぎる。
これじゃ美亜先輩とかアスって娘、他のメンバーも大変だよな。
美亜先輩とアスって娘がアイドル活動であれだけ悩むのも納得だ。
そこに啓清芒寒なんて新ユニットができてそのユニットが運営に推されているとなるとなおさら焦るよな。
……でも柱が動いたのはそういう理由じゃねーんだよ!!
あのときはマジで六角市が危機的状況だったんだから。
九久津と近衛さんがいなかったら六角駅もろとも六角市は破壊かったかもしれない。
って、誰もそのこと知らないから今、この駅前が賑わってるんだけど。
真相を知ってる俺からすればこの現実がもどかしい。
九久津なんていまだ国立六角病院にいるのに。
にしてもさらにまた人が増えてきたな。
今も『Y-交通』のタクシーがタクシー乗り場で数人の客を降ろした。
駅の中から出てくる人も多い。
これって他の街から六角市にきたってことだ。
まだまだ人は増えそうだ、もはや一大イベントだ。
バシリスクがきた日、動く柱にびっくりしたある女がある男の腕を掴んだのをきっかけに付き合うことになったらしい。
ラジオネームは匿名希望だった。
なんとなく「六角第一高校」の体育館裏でなんやかんやしてたあのカップルを思い出さずにはいられない。
証拠がない以上は真相は闇の中だけど、あの勘違い甚だしい三年女子だったとしたら柱が動いてなくても付き合う展開になってたような気がしないでもない。
あるいは【蜆とサメの混合ミックス】や【フキノトウの三階で摘んだ天然のラワンブキの果肉入りカプセル】を売るためのラジオを使ったステマだったとしたらそうとうな策士だ。
四季がやってるラジオ、そうとうな人が聴いてたはず。
もしかしてここにいる人たちが帰りにお土産で買っていく可能もある。
人が集まり土産を買って帰るなんて完璧に陽キャ参加のイベントじゃん。
この柱が動いたのは飛び降りた人の呪いだなんてもう誰も言わなくなっていた。
真逆の出来事になっている。
それどころか株式会社ヨリシロの仕掛けということも忘れさられて今度はアイドル発祥の恋愛ジンクス。
四季が意図したわけじゃないんだろうけど影響力の大きさをあらためて感じる。
だからこそ失言とかの場合も自分たちに跳ね返ってくる影響も大きいんだろう。
ここで写真を撮ると付き合えるとか柱に三回触ると恋愛運が上がるとか騒いでてもはやなんでもあり状態だ。
ただこれはこれで人の負力を抑制できるよな。
駅前にたくさん人が集まってきている影響なのか制服姿の警察官が何人も歩き回っている。
警備とか交通整理とかかな? とりあず治安を守ってもらってありがとうございます。
ただ経済効果はすごいだろうから六角市にとってもプラスだろう。
ワンシーズンによる町興し。
六角市はそこまで死んじゃいないけど四季によって六角市が興された、興されていった。
おっ、スーツ着てるけどあの人も警察かな? 制服の警察の人が頭を下げていった。
警察って制服の人よりもスーツの人のほうが偉いのか? しかもなぜか手に警棒を持って自分の手をポンポン叩いてるし。
ん? あの警棒って木製でも金属でもないな。
――兄より妹のほうがFOXの犠牲になったっていうさっきの話に戻るんですけどね。その国ではあまりにも救いがなくて、生まれた女の子の赤ちゃんにはマリアと名づけるそうなんですよ。
大型商業ビルの大型ビジョンではいまだに経済番組続行中。
マリアって聖母マリアか。
よく救世主の意味で使われる。
戦争の真っ最中ならここにいる人たちや俺たちみたいなことなんてできないよな。
ある意味、この賑わいは幸せなことか。
――終戦への祈りを込めて。
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