第393話 職務質問


 山田のメイクを落とすためどこかにトイレがないか探すことになった。

 ここからすこし先にコンビニがあるから、とりあえずみんなでそこに向かう。

 

 俺は寄白さんと話をしているから前を歩き、後ろは山田とエネミーのように自然と二手に分かれた。

 俺はあえて山田とエネミーたちから距離をとって歩く。

 振り返ってみると山田とエネミーがなにかを話してるのがわかった。

 『山田コレクションin六角市、六角駅前』は無意味だったんじゃ? 山田もふつうにエネミーと話してればふつうだったんじゃないか? そこは謎だ。

 

 どのみち山田はエネミーにクラッシュさせられてもエネミーと話せてる。

 怪我の功名か?  あまりのショックで山田のなかの妖精がまたしてもどうにかなったのか? まあ、これだけ距離をとればいいか。

 俺は山田とエネミーと一定の距離を保ってから俺は寄白さんにさっき戸村さんの双子のお姉さんに会ったことを伝えた。

 戸村さんが俺やエネミーのことを知っていたっていうことで戸村さんは当然、寄白さんのことも校長のことも九久津のことも社さんのことも知ってるはずだ。

 山田に戸村さんのことを知られてもいいけど能力やアヤカシのことを知られるのはマズい。

 『山田コレクションin六角市、六角駅前』とかやってるけど遡ればそれは山田のなかにアヤカシがいるかもしれないからだ。

 ただここ最近の山田は執着の対象が変化していくのが早い気がする。

 

 寄白さんはあっけらかんと俺の話を聞いている。

 まあ、そこまで重要な情報でもないしな。

 

 ――すみませんという声が俺のうしろで聞こえた。

 

 それは俺や寄白さんにかけられた声じゃない。

 振り向くと山田とエネミーの正面に立っている若い女の人がいた。

 

 「でしゅ?」 

 「ちょっといいですか?」

 「ぬはっ。ぬふっ!? ばふっ!!」

 山田が変な声をだしてる。

 あ~あ、これはまた、そのお姉さんになびいたもしれない。

 山田どうなってんだ? 単純に流されやすいだけか?

 「妹殿。このかっこうはやっぱりモテるでしゅ」

 山田は目の前に立っている若い女の人越しに寄白さんに向けてピースサインをした。

 ポジィティブ最強か?

 「こ、これが伝説の逆ナンといやつでしゅね」

 ぎゃ、逆ナンだと!?

 それは「決め打ち放課後予約オファー」「机から溢れだすキャパオーバーの山積チョコ」「保健室パンツ」を超える伝説のイベント。

 そんな幻のセレモニーが山田のもとにやってきたっていうのか? 俺よりも山田サモナーの寄白さんのほうが驚いてるけど。

 だよね。

 

 「えっ、私がきみに?」

 若い女の人が否定のニュアンスで山田に訊き返してる。

 「で、でしゅ」

 山田はおもいきりうなずいていた。

 自意識過剰どころじゃない。

 ただでさえ山田自身がクラッシュ加工されてるのに、その自信はどこからくるんだ。

 なんか売りつけられるんじゃね?

 「私はこういう者です」

 若い女の人は服の中から小さいなにかをとりだして印籠のように山田に見せている。

 

 「は、ひ?」

 山田が急に固まった。

 山田の動きを止める魔法の道具か。

 お姉さんはいったなにを使ったんだ? 見かねた俺と寄白さんも山田とエネミーのところまで戻る。

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  巡査  

  Kebiishi Ryo

  検美石 令

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 魔法の道具の正体が判明した。

 制服を着たお姉さんの顔写真入りの警察手帳。

 そりゃあ山田の動きも止まるわ!!

 完全に職質じゃん? ああ、山田のそのかっこうね? 警察の皆様、お疲れ様です。

 あっ!? この人、バスの待合所で【最近、市内で変質者が出没しています。ご注意ください】のポスター貼ってた人だ。

 やっぱり山田は変質者として認識されてるのか?

 

 警察手帳の中身の文字難しい漢字だ。

 なんて読むんだ? ローマ字でふりがながある。

 け、けび、けびしい。

 りょう。

 検美石けびいしりょうって読むのか。

 「こいつこんなかっこうですが。変質者ではありません」

 俺は山田の無実を訴える。

 なんだかんだいって同じ学校の同級生で友だちだし。

 

 「えっ? まあ、たしかに奇抜なファッションだけどね」

 「変質者発見ってことで声をかけたんじゃないんですか?」

 「平日なのに制服を着てるから。そっちの金髪の娘に声をかけたのよ。きみたちも制服ね?」

 じゃあ職質されたのはエネミーのほう?

 

 「うちアルか?」

 「そう。きみたち学校はどうしたの?」

 「俺。僕、一校の生徒なんですけど臨時休校です。二校も同じく臨時休校です」

 「そうなの。学校でなにかあったの?」

 「校舎の工事です」

 「なるほど。工事か」

 これで納得してくれたのかな? いつのまにか俺と寄白さんと山田とエネミーで検美石さんを囲むように円になっていた。

 う、腕、痛ったー!? なに? 誰かが勢いよくその円を崩すように割って入ってきた。