七不思議制作委員会のときに山田が自分のことを――この学校の重要人物だ。覚えておくといい!!って言ってたあれはマジなのかもしれない。
山田は将来、偉大な何かを成し遂げる人物なのか? そうなのか? これは一目置いておくしかない。
山田はなぜか警察の班長さんと検美石さんの背中に向かって敬礼をしていた。
山田、それじゃあ新人警察官みたいじゃん。
山田の顔の陰も、目の下の隈もヤベーファッションもある意味潜入捜査してる署員みたいでかっこいい。
すこし嫉妬してしまった。
クラッシュ加工の蜂の巣なんてまるで銃撃戦で九死に一生を得た『中華ファンタジー・異世界ガンマン』の主人公みたいじゃねーか?
「誤解があったようだが先生はおまえらを信じてたぞ」
鈴木先生が集会のときのように手で集まれの合図をしている。
俺たちもいつもの習慣でついつい鈴木先生の元へ寄っていく。
二校だって先生がやるジェスチャーは同じだろう、エネミーも一緒に集まってきた。
でも鈴木先生、俺たちを信じてたわりにいつもよりもさらにハイトーンが高くなってたんですけど。
あれってちょっと焦ってましたよね? まあ、雨降って地固まる(?)ってやつか。
「先生こそここでなにしてたんですか?」
俺は率直な疑問を投げた。
「いや、おまえたちに言ってもな」
鈴木先生はなにかを隠していた。
「ただ寄白がいるしな。うん」
自問自答してる。
んで寄白さんがここにいたらなんか都合が悪いのか?
「どういうことですか?」
「まあ、簡単にいえば寄白校長に株券の相談をしてたってことだ」
あっ!? そっか俺が校長室の更衣室に隠れてたとき【駅前通り】のリサイクルショップ『モグラ泣かせ』株券を売りにいったけど売れなかったって例の話か。
そういえば株式会社ヨリシロ系列の証券会社も【駅前通り】にあるんだっけ。
学校も証券会社も営業時間帯や休みの日がかぶるから臨時休校にでもならないと鈴木先生も株を売りに行けないのか。
とはいえ、この話は俺と校長だけが知ってること。
ここは私そういうのわかんな~~いのノリでいこう。
「株ってあの毎日上がったり下がったりするあれですか?」
「そうだ。おまえたちにしてみれば疚しくかんじるかもしれんがな」
「へー。ほー」
「ほら。沙田みたいな反応になるだろ? 株の話題なんてのはたいてい大暴落とか大損だからなら」
「す、すみません。株って難しいですからね」
とはいえ俺は校長に頼み込んで株主総会に参戦することになってるから株についての知識を増やすに越したことはない。
「先生だってよくわかってないぞ。寄白校長のアドバイスがなきゃなにをしていいのかわからなかった。まあ、先生の用事ってのはそういうことだ」
「わかりました」
でも鈴木先生がここにいるってことはその株の話は無事解決したってことだよな。
これは校長に直接訊くしかないか。
あっ、なら校長も近くにいるってことじゃん。
ヨリシロ系列の証券会社ってどのあたりにあるんだろ?
「おまえらも臨時休校になったとたん駅前に遊びくるなんてな。まあ、高校生だしそれもしょうがないか」
「はい。朝なんて駅の玄関前で佐野にも会いましたよ」
「佐野に? ここにいないのか?」
「ばあちゃんの家にかたづけけるって言ってました」
「ああ。そういえば佐野のおばあさん家は双生市にあるっていってたな。おばあさんが亡くなって間もないからご両親の代わりにかたづけ手伝ってるんだろうな。佐野とも仲よくしてやってくれよ」
「それは、はい。もちろん。僕が転入してきたときも佐野が声をかけてくれましたから」
「そっか」
鈴木先生は俺にそう返しエネミーに向き直した。
「きみは六角第二高校の娘だね? そういえば六角第二高校も校舎の改修してるんだったね?」
鈴木先生にとっては他校の生徒でも六角市の公立校なんだから大きな括りでいえば生徒みたいなもんか。
「リアス式階段がったがたがたアルよ」
「リアス式階段?」
「がたがたの階段のことアルな」
「うまいこと言うね。こいつらと仲がいいのかい?」
「仲良しアルよ」
「先生。エネミーと私は親戚のようなものですので」
「寄白の? へーそうなのか。そういえば寄白と似てるといえば似てるような……」
いやいや鈴木先生、そりゃーこのふたりは「使者」と「死者」だから。
教えたいけど教えられないというこのジレンマ。
「前死者」の真野さんなんて寄白さんと双子のごとく同じ顔だったからな。
鈴木先生が会ったら腰抜かすかもな。
「この娘が九久津の交換留学の代わりじゃないのか?」
おっ!? 鈴木先生、絶妙なところを攻めてくるな。
「いや、たぶん、違うと思いますよ」
寄白さんでも焦るんだな。
「そうか。九久津はいつ帰ってくるんだろうな?」
担任なのに九久津のこと知らないってそれは無理もないか。
「先生でも知らないんですか?」
「ああ、親御さんからもなにも連絡がこない、というよりも校長経由でしか情報がこない」
「そうですか。もうそろそろじゃないんですかね」
「そうか。まあ先生はこれで帰るけどおまえらも臨時休校だからってあんまり羽目はずしすぎるなよ!?」
「はい。わかりました」
寄白さんがエネミーの横に並んで頭をさげた。
「山田もおまえもなんかわからんがその格好は学校でしちゃダメだぞ」
「でしゅ!!」
どっちの意味のでしゅだよ!?
それは「イエス」にも「ノー」にもとれるんだよ。
良くても悪くても「ヤバイ」と同じなん、だ、よ……ん? これって山田発信の言葉じゃないのか? ネットでバズったら山田の手柄になってしまう。 ふつうの俺ではできない芸当だ。
やっぱり一目置いておくしかない。
「じゃあな」
鈴木先生は指の先で車のキー回しながら『専用駐車場』という看板のほうへ歩いていった。
一分も経たないうちに『専用駐車場』から鈴木先生の新車が出てきた。
俺たちに片手を上げて合図すると【駅前通り】から颯爽と走り去っていった。
株を売って支払いのたしになったのか? 警察の人にも声をかけられたし、鈴木先生にも会うしとんだロスタイムだ。
「そうだ。株式会社ヨリシロの関係の証券会社があるからそこでトイレを借りればいい」
寄白さんがそう言って株式会社ヨリシロ系列の証券会社のある方を指差した。
それはちょうど鈴木先生が車を停めていた『専用駐車場』からちょっと行った先にあるビルだった。
ああ、駐車場があるんだからそりゃあ建物も近くにあるよな。
いきなり山田がその格好でコンビニに凸るよりも、そっちのほうが絶対いい。