第397話 一部上場企業 アニメトロン


 俺たちはそういう大企業に囲まれて暮らしてるってことか。 

 「そうね~」

 校長はひとり呟きながらスマホの画面をこんこんタップしている。

 「えっと、これなんかどう」

 校長が俺に見せてきたのは有名アニメ会社『アニメトロン』の情報だった。

『アニメトロン』は作画がきれいで有名なアニメ会社で日本では三本の指には入るほどだ。

 つい最近一話で打ち切りになったあの『中華ファンタジー・異世界ガンマン』の制作会社でもある。

 

 「えっ? アニメトロンも上場企業なんですか?」

 「そうよ。沙田くんもエネミーちゃんもアニメ好きでしょ?」

 「でしゅ。でしゅ」

 「えっ、山田くんも好きなの?」

 「でしゅ!」

 「そうなんだ」

 校長、山田の言ってる言葉わかるんですか? なぜか校長の山田自動翻訳機能が炸裂してる。

 必要最低限の言葉の山田ぼくを理解してくれる校長先生大好きになってまた校長に靡くとかしないよな?

 「いまの子ってみんなアニメが好きだものね」

 「まあ、そうですね。物心ついたときからアニメがありましたから」

 「趣味なんかの会社を調べていくと自然と株の知識が身につくわよ。若い娘でも好きなファッションブランドの株主優待をもらうために株を買ってる娘もいるくらいだから」

 「株を買うと買った人に何か良いことがあるんですか?」

 「そうね。まずはなぜ会社が株を売るのかから説明していこうかな」

 「はい」

 「会社が株を売って多くの人が買ってくれると会社の利益になるのはわかるわよね?」

 「はい。そしてその株を不特定多数に売買ができる会社っていうのが上場企業なんですよね?」

 「沙田くん。飲み込みがいいわね。だいたい合ってるわ。ただ正確には会社の利害関係のない不特定多数の人に売買できるって言ったほうがいいかな」

 「え? じゃあ株を買えない人もいるんですか? 未成年とかですか?」

 「ううん。株を持ってる赤ちゃんだっているわよ」

 赤ちゃんが株を持ってるだと!?

 俺はすでに〇歳の子どもに負けてるのかよ!!

 「赤ちゃんがどうやって株を買うんですか?」

 「それはもちろん親経由だけど」

 そ、それはそうか……。

 「赤ちゃんでも株を買えるのに逆に株を買えない人ってどんな人ですか?」

 「それは会社の利害関係にある人」

 「利害関係?」

 「例えばこのアニメトロンの社員とその家族、会社関係者はアニメトロンの株を買うことはできない」

 「えー!? 自分の会社なのにですか?」

 「そうよ」

 「どうしてですか?」

 「単純に会社の内情を知ってるから」

 「社員ですから会社のこと知ってて当然じゃないですよね。でもそのなにが問題なんですか?」

 「例えば大ヒットアニメの続編が作られる場合、社員ならその情報をいち早く知ることができる」

 「うらまや・・・・しいアル」

 エネミー水分不足でもう口回ってねー。

 「エネミーちゃんの感想はもっとも。でもそうなった場合、情報が解禁されたときにアニメトロンの株価はだいたい・・・・上がる。株っていうのは基本的に株主や世の中にとって有益な情報だった場合に株価は上がるから」

 「それはなんとなくわかります。会社が悪いことをしたら株は下がる印象です」

 「そのとおり。じゃあアニメトロンの社内で新作アニメを制作しますっていう決定がされた時点で社員たちがアニメトロンの株を買ったらどうなるか」

 「ああ、そっか!! 前もって株を買っておけば新作アニメの制作発表をした時点で株が上がる。そのあとに売れば儲けることができるんですね」

 「そのとおり」

 なんか株が上がる仕組みとしてはわかりやすいな。

 まあ、これは校長が参考にしている株をアニメトロンにしてくれてるからだろう。

 だから俺たちでも興味を示せる。

 「でもそれをインサイダー取引っていうの」

 「インサイダー取引ってきいことあります。あれもなんか悪いことやってんなーってイメージでしたけどそういうことなんですね」

 「そうよ。だから上場企業に勤める本人、その家族、アルバイト、パート、派遣社員たちにいたるまで自社の株を買うことはできない。友だちとか知人に会社の重要な情報を教えてもインサイダーになるからね」

 「なるほど」

 「ということで人が株を買う理由その一。株で収益を上げることができるから」

 「そういうことか」

 「理由の二はさっき言った株主優待と株主配当をもらうため」

 「ということは株を買うとなにかオマケみたいなものがもらえるんですね」

 「そうよ。ちなみに株式会社ヨリシロうちのホルダーなら株式会社ヨリシロうち系列会社で使える商品券がもらえる。ああ、ホルダーっていうのは株を保有してる人たちのことね。アニメトロン株を持ってる人ならアニメトロン株のホルダー」

 「ああ、株を保有ってるとそういう商品券みたいなのがもらえるんですね」

 「まあ商品券だったり割引券だったり飲食系の株なら詰め合わせセットとか。ファッションブランド、化粧商品ブランドならノベルティグッズだったり。私が校長室で使ってるカップとソーサーもそうなのよ」

 校長室にあるあの校長センスの食器も株を持ってることでもらったものだったんだ。

 たしかあのコーヒーカップは二本の金色のラインが入ってるんだよな。

 そういう知識があることで手に入れられる物っていうのも多いんだろう。

 「株を買うことでしか手に入らないレアアイテムですね?」

 「そう。それでしか・・・・・手に入らないっていうのがちょっとした優越感なのよね。株主配当はそのままお金のことね。ある一定数の株を一定期間持っていれば株の評価額の何パーセントかが配当金としてもらえる」

 「良いことづくめじゃないですか」

 「でも株は下がることもあるから配当金や優待をもらっても買ったときよりも株価が下がって損をするデメリットがある」

 ああー、一般の人がなかなか株を買わないリスキーな部分ってこういうところか。

 鈴木先生のように安定志向の人ならそりゃ株なんかに興味を持たないわけだ。

 株って完全な賭け事ではないけどなんとなくギャンブルっぽいし。

 

 「だからあんまり一般には浸透してないんですね?」

 「かもしれないわね。アメリカならコンビニ感覚で株を買うからね。アメリカは投資が日常なのよ」

 アメリカ怖えーエイト

 「日本とアメリカでそこまで生活スタイルが違うのに驚きです」

 「株を買うっていうのは会社を応援するっていう意味もあるけど大きく分ければ、株の売買で利益を上げることと、一定期間株を保有することでもらえる優待と配当が目的かな。株主総会に参加したいって人もいるかもしれないけど。これが株を買う側の理由でつぎは株を売る側の理由ね。これは単純に会社の資金が増えるから。それに上場企業であるという社会的信用を得られるし社員なら上場企業に勤めているという

社員という誇りを持てる」

 俺が驚いたのと同時に寄白さんが建物の中から出てきて手招きをしていた。