第400話 「IR」と「PR」


 「同業種の有名アニメに関するアイアール、織り込み済み、アメリカってそれはいったいなんですか?」

 「例えばワンシーズンなんかが新曲を出すとき世間に向けてPRってするわよね?」

 「ああ、はい、しますね。ワンシーズンじゃなくても他のアーティストも新曲発売したときとか」

 「そうよね。PRの正式名称はパブリック・リレーションズっていうの。要は大衆に向けの広報ね。反対にIRはインベスター・リレーションズで投資家向けの広報のこと。PRのほうがより広い相手に広報活動することになるのよ」

 「へーPRはよくききますけどアイアールっていうのは初耳でした」

 「耳慣れない言葉だからね。PRなら小学生だって知ってるものね。IRっていうのは株主や投資家に経営状態や財務状況、業績の実績、今後の見通しなどを広報することで株主はみんなIRを気にしてるの。だから同業種の有名アニメ会社がIRを出した場合そっちに買い注文が先行しアニメトロンの株が下がる場合だってある」

 さらにややこしいな。

 でも。

 「もしかしてこのIRっていうのは社員なら知りえる情報で、そのIRを他人に漏らしてがその会社の株を誰かが買ったらインサイダーになるんじゃないですか?」

 「そうそう!! 沙田くん。やっぱり飲み込みがいいわ」

 これは能力者としてものなのかどっちなのかわからないけど。

 ただ人間褒められると嬉しいのは間違いない。

 「織り込み済みっていうのはなんですか?」

 「それはホルダーたちがそうなることを前もって予測してる場合。その場合なら逆に株が下がることもあるの。失望売りなんて言葉もあるくらいだから」

 そうなるともはや誰も株の予測なんてできないじゃん!!

 「例えばどんなときですか?」

 「えっとね~そうね~。中華ファンタジー・異世界ガンマンのDVDとBDが発売されるという噂が先行していていざIRでそれを周知しても、期待外れってなってしまうとか、かな」

 そ、それはシビアすぎるな。

 でも、それが織り込み済みか。

 自分は円盤出るのなんて最初からわかってたぜ、そこにサプライズがないなら株を売ってやるって人もいるのか。

 「アメリカっていうのは?」

 「これはアニメがどうのこうのっていう前にアメリカの景気が悪くなると世界中がそれに引っ張られる。万が一アメリカ国内で国家を揺るがすような事件があれば、最初にニュヨークダウが下がり日経平均も連動して下がる。同時に世界中の株も下がり世界同時株安となる。かつてアメリカの国債が格下げになったときも世界に影響を与えたの。アメリカの大統領を筆頭に連邦政府が介入するような争いがあればみんな現金化しておきたいって心理で株を売りはじめる。それにアメリカの世界的に有名な銀行が倒産ともなればそのときもみんな株を売に走るわね。株が下がれば下がるほどまだ下がると思ってみんな損切りする。それがパニック売り。まあ、そんなときならいかに日本の有名なアニメ制作会社が新作の制作発表をしようが焼け石に水ね。よくオリンピックの開催地が決まると建設系とか、オリンピック銘柄っていう会社の株が上がると言われてるんだけど、そのときにアメリカで大きなテロでもあればオリンピックの恩恵も吹き飛ぶでしょうね」

 アメリカ怖えーナイン

 影響力ありすぎる。

 「もはや円盤が出る出ないじゃなくて人の生活にかかわる問題になるから株が下がるんですね?」

 「そういうこと。自分の明日の生活がどうなるかわからないってときはしょうがないわ。有事そうそう起こらないけどニューヨークダウや米国雇用統計、消費者物価指数なんかの指標は注目していなきゃいけない。なんだかんだいっても世界の中心はいまだアメリカ。それを快く思わない国も増えてきてるみたいだけどね」

 リアル世界史だな。

 てか明日で世界が終わりますってときは株ってどうなるんだろう。

 やっぱ紙切れなのか?

 

 「なんとなく理解できました」

 「良かった。えっ、グリムリーパーってGRナイフの親会社だったの。これってうちの小売業にも影響あるかも」

 校長はスマホの画面を拡大している。

 「影響。どういうことですか?」

 「簡単に言えばGRナイフが欲しい人がナイフを買えなくなる。買えなくなるっていうのは店内に在庫がなくなることだからそれを売る店側にも影響を及ぼしてくるってこと。この売る側が株式会社ヨリシロうち

 株やっぱりいろいろ絡みすぎ。

 これは一筋縄じゃいかないな。

 「買いたいのにGRナイフ売ってない。なんだこの店はってことで株が下がるんですか?」

 「う~ん。このていどじゃ株式会社ヨリシロうちの株には影響はないだろうけど。品揃えとして店舗運営に影響あるかなってくらい。お客さんに迷惑かけちゃう」

 「そうですか」

 「あっ、アニメトロンの株がストップ安になった」

 また新たな用語が。

 「ストップやす?」

 「そう。よくSエスに安いって漢字で表記されるんだけど株がもうこれ以上下がらないところまで下がったってこと」

 「えー!! 株ってゼロになるまで無限に下がっていくんじゃないですか?」

 「それじゃ一日で株の価値がなくなってしまう会社が出るかもしれないってことよね?」

 「よ、よく考えると、そ、そうですね」

 「ストップ安っていうのはね。一日で下がる株価の上限があるの。当然、上もあってそれがストップだか。こっちだとSエスに高いで表記されることが多いかな」

 「ブレーキみたいなものですね」

 「そうそう。暗号資産の業界では同じ意味でサーキットブレーカーって呼ばれてるわ。だから上下の値幅が制限されるの」

 「ということは株価が一日でゼロ円になることはないんですか?」

 「そういうこと。ホルダーを守らなきゃ、誰も株を買わなくなっちゃうから」

 「あの~。よく株が紙くずになったみたいな話がありますけどあの話はいったいなんですか?」

 「あれは短期間で大幅に価値が落ちたっていう比喩ね」

 「そうなんですか? でも、株が下がってマイナスになったとか借金したとかって話もきいたことがあるような」

 俺の株に対する怖いイメージはそれなんだけどな。

 「それは信用取引のことね」

 また新しい言葉が出たぞ。

 つーか、校長なんでも知ってるな。

 ……てか校長はこう見えても株式会社の社長だ。

 「信用取引は証券会社から資金を借りてトレードする方法だから借金が残ることもある。信用取引の場合は期限が決められていて塩漬けができないから締め日になれば強制決済されて取引が終了になる。その場合にはマイナスになることもある。マイナスは証券会社に返すお金ね」

 に、日本も怖えー。

 てかやっぱり株は怖えー!! 

 そういう取引方法もあるかよ。

 でも、なぜアニメトロンがそんなことに?