六角市市役所にある第七会議室で六角市教育委員長の升と六角第二高校の校長
五味のふたりが並び立っていた。
「保護区域が何者かに襲撃されたということですか?」
「鷹司くんからの報告じゃとそういうことじゃな」
天窓から射し込む日差しは穏やかでこの場の雰囲気とは相成れない。
升は白髭の先の毛並みを揃えながら深刻そうに空を見ていた。
「何者なんでしょうか?」
「いまだ不明。防衛省が動いておるらしいが……」
「では現在、六角市に防衛省の職員がきて調査中ということですか?」
「そういうことじゃな」
「捜査権は防衛省にあると」
「そうじゃ」
「近衛くんは?」
「六角市の地下から不可侵領域の調査中じゃ」
「保護区域とは方角的に真逆ですね?」
「じゃから対処が遅れたんじゃよ。あるいは不在を狙われたか」
「なるほど。それを行った人物は六角市の保護区域の存在を知っている人物ということになりますね?」
「ああ。守護山の保護区域はAランク情報じゃからな」
「升教育委員長を除き六校長のなかで保護区域のことを知ってるのは私と六角第四高校の市ノ瀬校長。ただ市ノ瀬校長、それに近水総理のふたりは眠ってしまっている」
「じゃな。株式会社ヨリシロの株主総会が終わっても六校会議の開催は難しいかもしれんのぅ」
五味も同意の意味でうなずいた。
「シシャの反乱のときに寄白校長に事情を訊いた時点では市ノ瀬校長が不在でも六校会議開催できるかと思ったのですが……」
「市ノ瀬校長と総理の両者につけられたモニターの波形がシンクロしていると聞いておる」
「そうですか……。風邪をこじらせたは通じなくなりましたね」
五味は眉をひそめた。
「寄白家、九久津家、真野家の三家は六角市の保護区域のことは承知しているのでしょうか?」
「そこは聞いておらんな。なんせ教育委員会は三家と当局の軸役。ワシらが知らないことを三家が知っていることもあるし、当局が知らないことをワシらや三家が知っていることもある。手持ちのカードは同じではないからのぅ。Cランク情報がAランク情報を越えることもある」
「そうですね。偶然知った他愛のない情報が後日重大な情報だったということもありますし」
「ボナくんに告げた座敷童のことや、ワシが橋渡ししたバシリスクのDNA解析情報だって海の向こうで何かにつながるかもしれんしのぅ」
「……今回の件。もしかすると寄白校長の言っていた蛇というやつでしょうか?」
「どうじゃろうな? この世界は悪いやつが現れそいつが倒されたあとに順番で次が現れるわけじゃないじゃろ?」
「そうですね。それこそが私たちが同一カードを持たない理由」
五味はかつて繰に披露した手元の資料に目をやった。
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市ノ瀬校長【“いち”のせ】(一)=六角第四高校 1⇔4
仁科校長【“に”しな】(二)=六角第三高校 2⇔3
佐伯校長【“さ”えき】(三)=六角第六高校 3⇔6
寄白校長【“よ”りしろ】(四)=六角第一高校 4⇔1
五味校長【“ご”み】(五)=六角第二高校 5⇔2
武藤校長【“む”とう】(六)=六角第五高校 6⇔5
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「寄白校長たちは”対安定”の本当の意味を知りません。私たちは寄白校長に偶数高の校長には奇数の苗字を含む校長が着任し、奇数高の学校には偶数の苗字が入る校長が着任していると教えました」
「知らんほうがいいこともあるじゃろ? いずれもこの街のため。六芒星の一点を崩したとてビクともせんわい。別に悪い仕様ではない。そしてそれは近衛くんの意図するところでもある。寄白校長に教えた対局にあるモノでバランスをとる術式は嘘ではないしのぅ」
「対安定とは六角市の六芒星と近衛くんが六角市の地盤に設けた結界との調和のこと。六芒星と四神相応。どちらか片方の防衛機能が欠けても、もう一方で最低限街を守護れるようにした分離守護システム」
五味は万年筆を手にキャップをはずした。
「寄白校長に見せたこの資料では調和が保たれていない。サイコロならば一の裏が六、二の裏が五、三の裏が四、四の裏が三、五の裏が二、六の裏が一で合計値七が定石。だから」
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市ノ瀬校長【“いち”のせ】(一)=六角第六高校 1⇔6=7
仁科校長【“に”しな】(二)=六角第五高校 2⇔5=7
佐伯校長【“さ”えき】(三)=六角第四高校 3⇔4=7
寄白校長【“よ”りしろ】(四)=六角第三高校 4⇔3=7
五味校長【“ご”み】(五)=六角第二高校 5⇔2=7
武藤校長【“む”とう】(六)=六角第一高校 6⇔1=7
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「本来はこれが各高校と苗字の完全なる調和」
五味は資料内の高校名と対応している数字に変更を加えた。
「寄白校長はこれに気づけんかったのぅ。いや、気づかなくても無理もない。それに害もない」
「ええ。この分離システムは知ってる人が知っていればいいものですから」
「常識的にこのシステムのことを知っていればいつ秘密が漏れるやもしれんしのぅ」
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