ちょっと前に寄白さんとエネミーが戻ってきた。
校長はすこし離れたところで書類の整理をしている。
俺はその間なんだかんだ株式会社や「株」というものについて詳しくなってしまった。
寄白さんは戻ってきたときにはツインテールになっていていまエネミーと謎の奇祭を催している。
寄白さんが一本指先を立てるとエネミーが寄白さんの周りを回る。
なんだこれ? まあ、こんなのにも慣れたけど。
――がちゃんとドアが開き山田も顔をのぞかせた。
こめかみや目の下の陰ったメイクもきれいに落ちていてふつうの制服姿の山田だ。
「山田けっこう時間かかったな?」
「なかなか頑固な汚れでしゅた。陰のある男は大変でしゅよ」
本物の陰のある男っていうのは素だからな。
あれこれ手加えてないだよ。
「キッチンの端かよ!!」
フライパンでして!? 焼き鳥の串の手元にある固い部分アルか!? 寄白さんとエネミーも乗かってきた。
でもエネミーはおもいっきり例え間違している。
焼き鳥の串の手元に残ってるのはちょっとしたコゲだろ?
「でも助かったでしゅ。職員さんに中性石鹸貸してもらいましゅた。某弱酸性でもお肌かぶれるでしゅよ」
マジか? 弱酸性って赤ちゃんでも使用えるのに。
山田あんなモチモチツルツルの赤ちゃんより弱えーの? 山田よ、洗顔に時間がかかったのはそれが理由だよ。
優しく優しく時間をかけて顔を洗ったんだろうな。
でもよくそんなんでクラッシュ加工と称しあんだけ肌を露出してたな? まあ、あれは寄白さんの美子イズムの美子スタイルか。
寄白さんの動きがピタリと止まった、と思いきや赤いリボンを解きそのままポニーテールに結び直した。
なにかが寄白さんの行動変容を起こさせたみたいだ。
「おい。山田?」
「でしゅ?」
「冷やしておけ」
寄白さんはデキるヘアメイクのごとくボトル型の携帯用コールドスプレーを山田のお肌に吹いた。
――お直し入りまーす。みたいにして小分けでコールドを吹いている。
――で、で、でしゅぅぅぅぅぅ!!
ぎゃ、逆効果じゃねーか?と俺が遠い目で見ていると、なぜか俺も巻き込まれ一発、凍らされた。
腰ならすでに治ってる。
高校生の回復力をなめんなよ。
でも俺がくらったのは眉間の少し上あたりだった。
ここって俺がちょいちょい厭勝銭くらってるからか? これは寄白さんによる救護措置らしい。
「寄白さん。なんできみはそうやってすぐ凍らせるかな?」
「なに?」
「いえ。な、なにも」
俺と山田はそれるがままでひとしきり凍った(?)
寄白さんもそれで満足したのか、またエネミーと謎の奇祭の後夜祭をはじめていた。
その祭りは自由か。自由参加か。
飛び入りOKか? てか山田もコールド吹かれるんだから別に人を選んでるわけじゃない。
俺だけ狙われてたのかと思った。
寄白さんはしばらく祭りに夢中なはず、この隙に山田にコンタクトをとる。
「おい山田?」
「な、なんでしゅ?」
「Y・RENKAさんはどうなった?」
「報告したでしゅよ」
「なんて?」
「引き分け、と」
ひ、引き分けだと。
なにが、どこが、引き分けた? 引き分けた感触なんてないぞ。
どういう勝負の判断だよ? まあ、いいか。
こんな平日の日中に山田の相談に付き合ってくれるなんて良い人すぎる。
でも山田はもう、エネミーとふつうに友だちくらいにはなってる気がするけどな。
服がどうのこのじゃなく山田もエネミーと一緒に寄白さんの周り回ってるし。
寄白さんは櫓か?
「みんな元気ね~」
仕事がひと段落したのか校長がやってきた。
「ところで姉上」
山田、凍らされ(?)すぎて校長の呼び方、姉上になってるし。
「なに? 山田くん」
山田はいまだ盆踊り的に寄白さんの周りを回っている。
「廊下のほうでなにやら揉めてたでござる」
ござる。
妖精も凍ってバグったのかもしれない。
妖精には意外と氷属性の技が利くとか、か?
「えっ!? ほんと? 私ちょっと見てくるわ」
「でしゅ」
校長は慌てたように小走りでドアに向かっていった。
山田よ。
事件があったならそれを先に言えよ。
なんとなく心配になって俺も校長の後を追い部屋から出た。
いまやパッタリと音信普通になった九久津の兄貴の影響じゃない、と思う。
前を行く校長のずっと先の廊下、この部屋を出た突き当りのところでネクタイとスーツ姿の会社員ふたりが話し込んでいた。
どうするとかそんな言葉がもれていた。
やっぱり何かあったぽい。
「あっ、社長」
社員ふたりが校長に気づいた。
校長はやっぱり証券会社のなかでも社長か。
ここも株式会社ヨリシロの系列会社なんだから当然か。
「なんか揉めてるって訊いたんだけど?」
「それが詳しいことまではわからないですけど……」
「ええ、でも教えて」
「併設の銀行でお客が大声で怒鳴ってるって」
「うそ。ここじゃなくて、銀行のほう。ちょっと行ってくる」
「でも、社長が行かれても。きっと支店長が……」
「だとしても株式会社ヨリシロの系列なんだから」
校長もそんなところまで首を突っ込なくてもいいんじゃないかとも思うけどそれでも行くのが校長なんだよな。
校長は左に曲がり奥にあるエレベーターまで走っていった。
エレベータ―の前の文字盤の下向きの三角形のボタンを押した。
俺もそのままついていく。
「沙田くんはみんなのところに戻ってて」
「いや、僕も一緒に行きます」
「でも」
「いいんですよ」
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