第415話 場所移動 


校長のところに銀行の偉い人と証券会社の偉い人が数人やってきて銀行での出来事について緊急会議をすることになった。

 あの薄い青色のツナギの男は警察の人に付き添われて行内に謝りに戻ってきたと言っていた。

 俺がさっき窓から見たかんじだとその警察の人っていうのは戸村さんだろう。

 これでいちおう銀行の件も一件落着か。

 

 校長も株式会社ヨリシロヨリシロの株主総会の準備があるっていうのにここでまた時間をとられるのは辛いな。

 俺は今日のわずかなあいだですっかり「株」に詳しくなってしまった。

 

 最初から勉強するぞ、ってわけじゃなくて社会勉強で得た知識。

 ふつうに生活してるのに毎日間接的に「株」に接してるってのがわかって楽しんで覚えられた。

 とくにアニメ会社の話なんてほとんど趣味だし。

 

 俺と山田とエネミーと寄白さんは会議に出席した校長を残して四人で左右対称に十三本並んだ白黒の柱のところまで戻ってきた。

 そもそも「山田コレクションin六角市、六角駅前」は参加者が四人のプチイベントだ。 

 俺たちが駅に向かう途中栗毛ちゃいろの髪を頭の後ろで束ねた女の人が紙幣さつの入った透明なポーチを抱え銀行のほうへ歩いていった。

 銀行が平常運転に戻ったのを知ったからだろう。

 とはいえ銀行が閉まるまでそんなに時間は残ってないからけっこう慌てていた。

 駅までの道すがらもやっぱり人が多かった。

 俺は人とぶつからないように気をつけて街中にあるいろんな看板を見て歩いた。

 やっぱり「株式会社」のつく会社が多いがした。

 気がしたってのは「株式会社」のつかない店もそれなりあったからだ。

 駅についてからスマホで調べてみたけど飲食系チェーン店の親会社のほとんどが一部上場企業だった。

 全国的にチェーン店として有名だけど親会社はあまり聞きなじみのない会社が多いことを知った。

 山田はここに着くまでのあいだエネミーになんでキノコが好きなのかとずーっと詰められしどろもどろしていた。

 けっきょくあのキノコ列伝は山田が後で食べるためにとっておいたもので山田はただのキノコ好きだと判明した。

 山田美味しい物は後で食べる系なのな!!

 

 「山田コレクションin六角市、六角駅前」を終え山田とエネミーも友だちくらいにはなっていた。

 いや、むしろ山田とエネミーの距離が縮んだのは誰が見てもあきらかだろう。

 俺プレゼンツ「山田コレクションin六角市、六角駅前」の成果はあったぽい。

 だがいまいち手ごたえはない。

 試合に負けて勝負に勝った気分だ。

 寄白さんと目が合うと寄白さんは十字架のイヤリングをひとつ握りしめトコトコ歩いていった。

 持っていた十字架のイヤリングはおそらく藁人形の腕とスーサイド絵画を収納しているイヤリングだろう。

 寄白さんにもなにかしら動きがありそう。

 エネミーはキラキラ二次元の【道路工事どうろこうじちゅう】の

痛い看板=痛看いたかんのほうへ行ったと思ったら看板を素通りしてビルの中で上下しているエレベーターを見上げている。

 そうだった。

 忘れてた。

 エネミーはプロのエレベーター(?)だった。

 いま俺たちはみんなバラバラの位置にいる状態だ。

 ワンシーズン効果いまだ炸裂中で四季がラジオで話題にした「J」のロゴの柱周りにいちばん人が多い。

 「J」の柱を背景に写真を撮ってるカップルもたくさんいる。

 やっぱり呪いの話はもう完全に消え失せたな。

 世界中の負力より希力が増えるのは良いことだ。

 

 柱以外のところでもあっちこっち写真を撮っていて騒がしい。

 ん? スマホを見たあとに駅の中に駆け込んでいく人もけっこういる。

 ガラスのドアがバインバインしてる。

 電車の時間か?

 

 寄白さんはイヤリングを方位磁石のようにして、いまタクシー乗り場のところに立っている。

 俺のいるこの位置からだと寄白さんは『Y-交通』のタクシーの陰に隠れてしまっていて見にくいけど六角市の南南東あたりを向いているみたいだ。

 

 六角市の南南東って守護山の南側だよな。

 あっちだって山のふもとは当然、自然が多いし田んぼもある。

 野生の熊だって生息してるくらい手つかずの森林がある。

 でもいまだとソーラーパネルがたくさんあるかもしれない。

 とりあえず市内に熊がでないことを祈る。

 山田が自分のスマホ画面を眺めていた。

 ん? 山田と目が合った。

 山田がじょじょに俺との間合いを詰めてくる。

 なんだよ?

 「沙田殿。見るであーる」

 

 山田の”あーる語”が復活した。

 スマホはすでにスキル売買アプリの画面になっていた。

 山田のこの行動はダブルブッキング疑惑で寄白さんにこれを見られたくないだろうし、Yワイ・RENKAさんアドバイスを参考したという負い目でエネミーにも見られたくないからか。

 山田は寄白さんとエネミーがこの場所から離れたところにいるのを再度確認した。

 スキル売買アプリにはすでに開封された手紙のアイコンがあった。

 山田がその手紙のアイコンをまたタップするとYワイ・RENKAさんのユーザーネームと今日の日付と時刻とメッセージがある。

 「【マウンテンだ】さんならこれからも大丈夫。自信を持ってね」という文と笑顔の絵文字。

 Yワイ・RENKAさんからの心のこもった応援。

 こんな昼でも夕方でもない中途半端な時間にYワイ・RENKAさんが山田にメッセージを送っている。

 帰国したてのファションのプロが仕事の合間の貴重な時間を使ってこのメッセージをだと!?

 

 山田は俺に親指を立ててからさっそく画面をタップしはじめた。

 山田からモテ系男子の雰囲気が漂っている。

 なんかわからんけどまた、俺、試合にも負けて勝負にも負けた気分だ。

 山田が遠くに行ってしまう。

 山田おまえの家もあんま株持ってないなって同じように喜びあったのついさっきだろ? 返信を終えた山田がまた勝ち誇った顔をしていた。