山田はショッピングにいき寄白さんも駅の外に出ていってしまった。
ん? 山田の献血が終わってるんだからここでの用事ってもう終わってるじゃん。
なんだこの謎の待ち時間? まあ、行ってしまったものはしょうがない。
ふたりが帰ってくるまで待ってよう。
「エネミーそれ無限だな?」
「そうアルよ」
現役女子高生がわずかな隙間時間スマホに触れることもなくあやとりに使ってるのってレアだよな。
なんかあやとりがスゲー複雑な形になってるけど。
もはや幾何学模様。
そんな現代っ子の俺を俺のスマホが呼んだ。
誰だろ? スマホを手に画面をタップすると校長からのメールだった。
ちょうど会議が終わってこれを送ったようで内容は銀行も証券会社も含め株式会社ヨリシロ全体で日々の安全体制の見直していくということだった。
まあ、じっさいそう簡単に警備員を増やすってこともできないだろうからそれくらいしか対策のとりようがないか。
でももっと驚いた情報がメールに書かれていた。
それはアニメトロンのIR。
正式名称はインベスター・リレーションズ。
これはさっき証券会社で校長に教えてもらったばっかりの情報。
俺はメール内のURLをタップした。
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××××年×月××日
各位
会社名 株式会社アニメトロン
レコード会社、出版社、芸能事務所との合同企画のお知らせ
当社はレコード会社、出版社、芸能事務所と合同で三寒四温プロジェクトの発足を決定いたしましたのでここにお知らせいたします。
1、ワンシーズンから新ユニット結成(メンバー等の詳細は後日発表)
2、連動アニメ化企画
3、連動映画化企画
4、連動出版化企画(コミカライズ等)
以上
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三寒四温プロジェクトってどういうこと? しかもワンシーズンからまた新ユニット作るって? 啓清芒寒できたばっかりじゃん。
いままさに啓清芒寒が献血キャンペーンやってる最中ですけど。
ノボリ旗がはためいてますけど。
ここでさらに新ユニット作ったら人気がバラけるんじゃ? それにこれってアニメトロンが出したIRだよな? アニメの制作会社でワンシーズンの事務所関係ないじゃん。
ただ、合同企画って書いてあるからいいのか。
思わず俺は校長に電話していた。
「あ、校長」
『沙田くん。見てくれた?』
「はい」
『なら、わざわざ電話じゃなくてもいいのに』
「いや、なんというか反射的に通話ボタン押してました」
『そうなんだ。で、IR見た?』
「はい。意外と簡単な文章ですね?」
『そこは会社によってまちまちね。IRを出す時間もいろいろだけどほとんの会社は市場が閉じた三時過ぎに出すのよね~』
「え、なんで三時過ぎてからなんですか。決まりでもあるんですか?」
『IRって株価にものすごく影響を与えるからそれを考慮して市場が開いているときにはあまり出さないものなの。それに投資家にIRをよく読んでもらって明日以降の取引に役立ててもらうって意味もあるから』
「へーそうなんですか」
IRを出すってことは価格の変動が大きくなるってことか。
『うん』
「じゃあ、このIRからすると明日アニメトロンの株は上がるってことですよね?」
『そう簡単じゃないのよね~』
なんで? やっぱり株ってムズい。
ワンシーズンが新しいユニット作ったら音源をはじめそれ関連のグッズとか出て会社の利益になるんじゃ?
「なんでですか?」
『今朝啓清芒寒のメンバーの失言があったばかりでしょ? それに追加メンバーの出来レース疑惑とかゴタゴタとかも』
「はい」
『だから火消しのためにアニメトロンが前倒しでIRを出したって意見が大半なのよね』
政治的すぎる。
これが織り込み済みってやつか。
たしかに企画の中身が具体的じゃない気はする。
「なるほど」
『市場関係者の話じゃこの三寒四温プロジェクトに名を連ねている会社はいっせいにIRを発表したかっただろうって意見が多いの。そっちのほうがインパクトも大きいしメディアに大きく取り上げるはずだから。そうなるとおのずと三寒四温プロジェクトに関連する会社の株が連動して買われるって見立て』
「じゃあ下がるんですか?」
『そうとも言い切れないわね』
やっぱりね~。
ですよね~。
「はー」
『IRの中身的には良い内容だからとりあえず買っておこうって株主も多いと思うわ』
そんなの絶対わかんねー。
「もう、そうなると誰にもアニメトロンの株が上がるか下がるかわからないですね?」
『そうね~。ただPTSを見れば明日の株価がどっちに動くかの判断材料にはなるわね』
PTSこれもさっき校長が言ってたな。
夜間取引ってやつだ。
そういうところも見ないとだめなのか。
「やっぱり僕には株の世界は合わないみたいです」
『そうよね~。沙田くん、あ、エネミーちゃんもだけどふたりアニメが好きだからなんとなく教えてあげたいなって思って』
そっか校長は「株」がどうのこうのっていうよりアニメ会社に動きがあるってのを言いたかったのか。
「ありがとうございます」
『みんなはどうしてるの?』
「えーと。寄白さんは巡回中で山田は買い物中でエネミーはあやとり中です」
『自由ね~。まだ駅前にいるの?』
「はい。まだいますよ。あ、そうだ校長。美亜先輩がアイドル活動してましたよ」
『本当!?』
校長の声が弾んでる。
美亜先輩も悩んで悩んで退学したんだから、そのあとの動きが知れて嬉しいはずだ。
「衣装とか見ると本物のアイドルだって思いましたもん」
『良かったー。もし美亜ちゃんと話せたら頑張ってねって伝えておいて』
「はい。わかりました」
って俺が言っていいのかどうか。
『そうだ、沙田くん。さっきモグラ泣かせで万引きあったのって知ってる?』
「え、あ、知ってますよ。街で噂になってましたから」
『噂が広がるのって早いわね? 犯人はもう逮捕されたんだって』
え!? ス、スピード逮捕。
「それは知りませんでした」
『でしょ。きっとさっきの刑事さんたちよ』
班長さんたちさすがだな。