スマホの電波と同じようにあのふたりの配信もさらに途切れ途切れになっていった。
それも当たり前か。
ふたりの配信設備が悪いんじゃなくてこのスマホの電波が弱まってきてたんだから。
電波状況が悪くなってきても一部理解できる内容があった。
音楽プロデューサーのHPAの話だ。
さっき駅構内でもHPAプロデュースのフライヤーが貼ってあったな。
HPAは一話で打ち切りになった伝説のアニメの『中華ファンタジー・異世界ガンマン』のオープニング曲『啓清芒寒fromワンシーズン』の『口径4ミリ』のプロデューサーでもある。
だとしたらふたりが話してた内容は六角駅のコンコース内でおこなわれるイベントのこととか啓清芒寒のことなのかも。
あ、そっかHPAってジパング絵本大賞のゲスト審査員もやってたんだっけ。
じゃあ、あのあともずっとワンシーズンの新メンバーのことを話をしてのかもしれない。
なんにしても季節風・カミングスーンでおなじみ、なのかどうか知らんけどHPAは手広く活躍してるな~。
CMでも季節風・カミングスーン、Coming Soonでスーン、スーン言ってたしな。
音楽プロデューサーでもあるけどもはやテレビタレントに近い。
そのあとは完全に電波が途絶えて、それ以降のことはわからない。
たぶん予定どおりの内容で配信を終えたってことはないと思うけど、そこは美亜先輩がいつかラジオで話すかもしれない。
山田じゃないけどこんなときこそプラチナバンドだよな~。
ってプラチナバンドなら本当にこのあたりでも電波確保できるのかわからないけど。
俺たちはなおも伝家の宝刀タクチケを使って南町の守護山の麓のどこかを走っている。
ただ、もう鬱蒼とした木が見えてるんだから、さらにその奥に行くってのは考えづらいか。
このあたりに家、というか建物はほとんどない代わりに田んぼがある。
六角市にも田んぼなんてあったんだ? いま俺の視界に映る景色の半数が田んぼになっている。
ただ、その景色に似合わないソーラーパネルも多い。
これはいつものことか。
ん? 山奥なのになんか車がたくさんあるな。
でも、この車両って自衛隊とかが乗ってるやつじゃん? このへんに基地なんてなかったよな。
いや、じつはあるのか? なんかヤバそうな場所にきたような……。
「防衛省の車、か」
寄白さんも一瞬で車の外の異変に気付いた。
自衛隊が乗ってそうな車体とは別に黒塗りの高級車が二台山の斜面から数メートル先に停まっていた。
あのセダンのタイヤだってふつうのタイヤだぞ。
むしろ鈴木先生のSUVのほうがまだ走りやすそうだけど。
なんであんな高級車がこんな場所にきてるんだ……。
田んぼの泥濘にでも嵌ったらいっぱつで終わりじゃん。
{{千里眼}}
寄白さんが別の十字架イヤリングを片目に当てた。
なにしてるんだろう?
「寄白さんどういうこと?」
「わからない。私が国の、しかも国防機関の行動なんてわかるはずはないだろ? 土砂崩れで自衛隊がててきてるなら理解できるけど防衛省のお偉いさんの車がなんでこんなとこまできてるのかわからない」
「お偉いさんの車なのは間違いないの?」
「間違いない。私や九久津、雛も、当局の上層部やその人たち車種はだいたい把握してるからな。人も身なりや雰囲気でわかる」
そういや九久津の家にいくバスの中で、九久津は「KK」のバッジがあったにせよ国交省の、いや当局の人だってすぐに気づいてたもんな。
「見かけだけで?」
「ああ。外交官が乗る青ナンバーがあるだろ。青ナンバーは外交特権で道路交通法の規制外。一般人には見分けがつかないがあれと同じように当局用の車体もある」
「外交官って公民で習ったやつね。大使館とか領事館とか」
やっぱり特権階級ってのは世界中に存在するんだね。
「そうだ。それこそフランスのトレーズ・ナイツのメンバーが日本にくれば歩くフランス大使館さ。まあ、私たちが行こうとしてるのはもう少し先だからこの防衛省の動きとは関係ないだろ」
え、まだ先いくの!?
「じゃあその防衛省の人たちはアヤカシと関係ないんだ」
「いや、高級車だけ車体そのものに除怪あるいは滅怪レベルのコーティングがしてあった」
あーそれを見てたんだ? 便利ね。
その十字架イヤリング!!
でも、けっきょくそれって完全に対アヤカシ仕様の車ってことじゃん!!
なんでそんな車体がこんなところにいるんですか?
「なんで、お、危ねー!!」
走っているタクシーの前に人が割り込んできて体の前に手を出した。
運転手さんが慌てながらブレーキ―を踏んだ。
なんか誰かにタクシーを止められましたけど。