三つ目の泥田坊の頭は俺からずっと遠くのほうで細い長い直方体の光とともに消えた。
それでもあそこは田んぼの中。
なおさら田んぼの広さが際立つな。
一つ目の泥田坊はどうなった? 一つ目の泥田坊は何も見えなくなったからなのか闇雲に手を動かして、まるで宙を泳いでいるみたいだった。
でもあいつの手のひら。
「寄白さん!! そいつまだ泥を投げようとしてる」
「大丈夫。投げてもその状態じゃ明後日の方向へ飛んでくだけだ」
「ま、まあそうか」
一つ目の泥田坊はすでに顔がないんだから狙いを定めて泥を投げることができない、それにあの泥は俺でも叩き落せるレベルだ。
寄白さんは十字架のイヤリングを掲げた。
三つ目の泥田坊の体が旋風のように旋回して十字架のイヤリングに吸い込まれていく。
あの十字架のイヤリングは戦闘に使うから常に一定量の負力を溜めておかなければならない。
寄白さんはもうひとつの十字架のイヤリングを手にした。
「照度変更。光度変更。輝度変更」
{{ルミナス}}
今度はさっきの細く長い光の直方体とは違って、太く長い直方体の光が現れた。
まるで除夜の鐘を鳴らす木のように太く長い直方体の光はいったん後方に下がって勢いをつけたまま一つ目の泥田坊の腹に命中した。
――バシャン。
一つ目の泥田坊の体が背中から田んぼに落ちていった。
一つ目の泥田坊の手からも泥の塊がボロっと落ち、そのまま両手はダランと田んぼに埋まっていった。
一つ目の泥田坊の退治成功か?
うお!?
一つ目の泥田坊は急激にガバっと上半身だけ起こした。
でも腹から胸までべっこり凹んでる。
寄白さんは三つ目の泥田坊を取り込んだほうの十字架のイヤリングに持ち替えた。
「照度変更。光度変更。輝度変更」
{{ルミナス}}
最初と同じ細く長い光の直方体だ。
寄白さんは光の細さを調整してるんだ。
細ければ細いほど一つ目の泥田坊の体に接触する面が小さくなるんだから刺さりやすくなる。
「沙田。うちまたビビったアル」
「まあ、あんなのが突然起き上がったらビビるそれはしょうがない」
一つ目の泥田坊は右手と左手の両手から出した泥を合わせて、ひとつな大きな泥の塊を握っている。
あいつあの状態でまだ攻撃の手を緩めないのか?
細く長い光の直方体がすでに潰れている泥田坊の顔の真ん中に突き刺って貫通した。
一発目の攻撃でだいぶ凹んでたから貫通させるのも簡単だったのかも。
だから寄白さんは前もってふたつの十字架を用意してたのか。
二体を相手に効率よくどうやって泥田坊を退治するのかを考えた結果がこれだ。
一つ目の泥田坊は上半身が真後ろに倒れる前に急激に体を捩ってさっきよりも一回り大きな泥の塊を放った。
急な動きで体を捩じったから脇腹のあたりが千切れている。
飛んでいった泥は俺にもエネミーにも寄白さんに当たることなく闇夜に消えていったた。
どこかの田んぼの中に落ちたんだろう。
ふぅ。
やっとこれで二体退治成功か、と油断してはいけない。
寄白さんは退治したばかりの一つ目の泥田坊を十字架のイヤリング吸い込んでいた。
――ビタン。
聞き間違いか? な、なんかいま泥が壁のようなところにぶつかったような音が聞こえた。
一つ目の泥田坊が投げた泥が田んぼに落ちただけだよな?
でも胸騒ぎがする。
なんだ? 俺の視界をひも状の物が横切っていった。
くそ。
開放能力の夜目を使ってる俺にはそいつがはっきり認識できた。
とうぜん寄白さんもだろう。
寄白さんは一つ目の泥田坊を退治したっばかりなのに真顔でそいつを見ていた。
エネミーは防衛本能からなのか寄白さんのほうへ駆けていった。
たしかに今の距離感なら寄白さんのほうへ行くのが正解だ。
目は一つでも右の腕が二本、左の腕が一本の泥田坊が舌なめずりしていた。
今回の泥田坊は口もあって長い舌もある。
俺の視界を横切っていってのはあいつの舌だ。
この泥田坊の舌はおそらく泥田坊自身の体よりも長いだろう。
いま退治したばっかりの一つ目の泥田坊が投げた泥はこいつの体あるいは舌に当たったんだろう。
寄白さんが俺にまだⅡもⅢも使うなっていった理由がわかってきた。
泥田坊何体出てくるのかわからないからだ。
でも寄白さんなりに何か考えがあるはず。
俺はとりあえず戦闘のサポート役でいよう。