第437話 加勢


 五体の泥田坊たちが右の腕が二本あって左の腕が一本の一つ目泥田坊の周りを囲むように集まりはじめた。

 やっぱりあいつを中心にして編隊を組む気か?

 ただでさえ最初に出現した三つ目の泥田坊より賢くなってるんだから組織化されたらやばいんじゃ?

 寄白さんはなおも明後日のほうを見てる。

 「雛ー!!」

 え、どこに向けて叫んだんですか? なぜ社さんの名前を?

 五体の泥田坊のうちの一体が走りだして右の腕が二本あって左の腕が一本の一つ目泥田坊の顔を殴りつけた。

 な、仲間割れ、か?

 でも右の腕が二本あって左の腕が一本の一つ目泥田坊はたいしたダメージは受けてない。

 右の腕が二本あって左の腕が一本の一つ目泥田坊は握っていた泥の塊をその泥田坊に投げつけた。

 よっぽどの硬度だったのか腹を貫通していった。

 他の泥田坊も、右の腕が二本あって左の腕が一本の一つ目泥田坊に攻撃を加えている。

 現状だと右の腕が二本あって左の腕が一本の一つ目泥田坊VS四体の泥田坊だ。

 なにがおこったんだ?

 右の腕が二本あって左の腕が一本の一つ目泥田坊は、右の二本の腕と左の腕、同時に泥を出した。

 左右の腕で泥を混ぜてより大きな泥の塊を作っていく。

 寄白さんはこっちをチラ見した。

 「さだわらし。そいつらは放っておいっていい。私が見てる先にもう一体出現した」

 「え、でも」

 「大丈夫だ。私を信じろ」

 なにか策があるんだろう? けど俺が寄白さんと一緒に前を見るってことは右の腕が二本あって左の腕が一本の一つ目泥田坊と仲間割れしてる四体から目を離すってことになるんだけど。

それはそれで怖い気が……。

 ん? おおー!!

 「沙田。どうアルか?」

 「エネミー!? やっぱりおまえはできるやつだ。劣等能力者ダンパーだなんだって自分で決めつける必要ないじゃん」

 「そうアルか?」

 「ああ」

 

 「でもうち三センチくらいしか浮いてないアルよ」

 「たとえ三センチでも浮いてたら、それはちゃんとした飛翔能力なんだよ。真上に三センチ飛翔んでるうえにその状態をキープしてるってことなんだから」

 「ふふ~ん」 

 エネミーがドヤった。

 「自転車だって子どものときは最初転び転びだけど、乗れるようになったらそれで日本一周だってできるようになるだろ?」

 「沙田。うちの能力に期待してるアルな?」

 「めちゃくちゃ高く飛翔べるようになったらそれはエネミーにしかできない能力だと思うけど」

 って、うしろどうなってる?

 四体の泥田坊が右の腕が二本あって左の腕が一本の一つ目泥田坊を囲んで攻撃なぐりつけていた。

 なんでか知らないけど完璧な仲間割れだ? ん? でも寄白さんはそっちを気にするなっていってたから寄白さんはその理由を知ってるってことだよな? 

 なんで仲間割れしてるのかも不思議だけど、それを事前に知ってる寄白さんももっと不思議だ。

 なぜ?

 

 四体のうちの一体が、右の腕が二本あって左の腕が一本の一つ目泥田坊に蹴られて真後ろにふっ飛んでいった。

 え? でも重量に反したような動きで前に反り返った? なんだあの泥田坊? まるでなにかに引っ張られたようだ。

 それでも、右の腕が二本あって左の腕が一本の一つ目泥田坊が四体のうちの一体に突進していってそのまま体を押し潰した。

 残りは三体の泥田坊だけか。

 そのあいだにも他の二体の泥田坊も蹴飛ばされて二体が重なるようにふっ飛んでいった。

 あ、ヤバい!?

 右の腕が二本あって左の腕が一本の一つ目泥田坊が、左右の腕で泥を混ぜてより大きくしていた泥の塊を投げた。

 二体の泥田坊がその泥に押され田んぼのなかで砕け散った。

 あいつそうとう強くないか? あるいはあの大きな泥の塊が相当な威力だったのかだ。

 四体残っていた泥田坊ももう一体しか残ってない。

 右の腕が二本あって左の腕が一本の一つ目泥田坊が残りの一体に向かって右の腕二本と左腕一本の計三本の腕で殴りかかった。

 最後の泥田坊の体の三か所がべっこりと凹んでいる。

 右の腕が二本あって左の腕が一本の一つ目泥田坊は攻撃の手を緩めない。

 最後の泥田坊の体もボロボロと崩れていった。

 ただ右の腕が二本あって左の腕が一本の一つ目泥田坊の体にもわずかな傷ができていた。

 五体いたのにあれだけのダメージしか与えられなかったのか?

 

 目も鼻も口もなくて、ただ頭と手と足があるだけの五体の泥田坊が全滅した。

 けっきょく仲間割れで、右の腕が二本あって左の腕が一本の一つ目泥田坊だけになった。

 これは俺らにとってプラスだよな? でも寄白さんが見てるほうにもなにかいる。

 俺はそうとう油断していたことに気づく。

 俺の背後から迫ってきていた泥田坊に気づけなかった。

 なんで?

 その泥田坊も最初の五体の泥田坊と同じで目も鼻も口もない、ただ頭と手と足がある泥田坊だった。

 振り返ったときに目も鼻も口もない、ただ頭と手と足がある泥田坊がさらに三体腕を振り上げながらものスゴイ勢いで走ってきていた。

 ど、どうすんだこれ? とりあえず防御態勢を。

 これ俺の体を盾にしてエネミーを守るしかないか? 全身の筋肉に力を込めろ。

 あいつらに殴らたときの衝撃を減らせるように。

 あとはしょうがないけどいきあたりばったりだ。

 くる。

 ど、どこを攻撃ぐってくる? は? とおりすぎていった?

 こいつらも右の腕が二本あって左の腕が一本の一つ目泥田坊狙いなのか?

 そもそもこいつらどっから走ってきた?

 {{影縫かげぬい}}

 右の腕が二本あって左の腕が一本の一つ目泥田坊の動きが止まった。

 いや正確には足だけが地面に張りついてるようだ、左右の三本の手をバタバタさせている。

 「いっきにいけ!!」

 寄白さんが目も鼻も口もない、ただ頭と手と足がある泥田坊に指示をだした。

 アヤカシの仲間? 

 「沙田ー!? いまのでビビって田んぼ落ちたアル」

 エネミーなんで? おいおい。

 「いや、それは落ちたっていわないだろ? 畦道からはみ出たってだけ」

 そう。

 エネミーはちゃんと浮いていた。

 

 「どうりで足がガクってしなかったアル」

 「だろ」

 エネミーもちょっとずつだけど成長してきてるな。

 ん? かすかだけど俺の視界に紐のようなものがチラチラと……なんだろ?

 あ、そっか。

 これはいとだ。

 だとしたら。

 あの目も鼻も口もない、ただ頭と手と足がある泥田坊は社さんの式神だったのか?

 

 だから頭と手と足がある泥田坊は、右の腕が二本あって左の腕が一本の一つ目泥田坊と戦ってたんだ。

 なら俺らっていままで数的有利だったの?

 寄白さんもうすでに先手を打ってたってこと? てか社さんと打ち合わせ済みかよ!?

 

 もしや泥田坊を前に俺がパニくってると敵側の泥田坊も油断するからか?

 右の腕が二本あって左の腕が一本の一つ目泥田坊は両足が地面に縫われたようで動けずにいる。

 そこに社さんが新に追加した式神四体が攻撃を加えていた。

 あれは「土」属性の式神だな。

 相手は抵抗できずに殴られっぱなしだ。

  {{六歌仙ろっかせん在原業平ありわらのなりひら}}={{氷}}

 右の腕が二本あって左の腕が一本の一つ目泥田坊の、腹が凍った。

 しだにそれが足先まで広がっていった。

 「沙田くん。そいつは任せて」

 社さんの声がきこえた。 

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