第442話 黄金井シャナVSウスマ


 ウスマが空気の変化を察知し迷うことなく空を見上げる。

 まるで輝夜かぐやの行列が通行でもしているように、月を分断する一筋の線があった。

 線は畝りながらウスマの頭上から急降下をはじめる。

 /ウスマきたぜ。あいつだ。あれ龍じゃねーか? 真っ二つに斬ってみてーな?/

 ウスマはすでに剣を抜いていて剣の先からは紫色の飛沫のような瘴気が煙っていた。

 「もっと引きつけてからだ」

 

 黄金井の目にはセミロングの髪に青いマントで顔の左半分を黒い仮面で覆い、仮面 の半分にはアゲハ蝶を縦半分に割った紅い模様があるウスマが映っていた。

 (こいつ、各国のブラックリストに載ってるウスマ。ただ、どの国もあまり情報は持ってないはず。半分の仮面はなにかの信仰なのか?)

 黄金井はいっきに地上に舞い降りる。

 木々はその身に風を受け歌うようにザワめいた。

 ――ザッ。

 ウスマは龍となっている黄金井が着地する瞬間を見計らい、己の体を反転させ、その勢いのまま黄金井の真正面から刀を振り下ろした。

 

 ウスマの一刀は正中切開するように龍となっていた黄金井の体を真っ二つに斬り裂く。

 ウスマの手に伝わったのはまるで霞を斬ったような感触だった。

  /ウスマ。うまく逃げられちまったな?/

 「はじめからわかってることだ」

  /なんだよ。それ?/

 (妖刀使い。それに半分とはいえシリアルキラーのデスマスクか。元号がまだ昭和だったころ四大災害魔障のひとつを引き起こした能力者……。忌具のカース指揮者コンダクターの影が見え隠れしている)

 黄金井は蜃気楼のようにウスマの前に姿を現した。

 「おまえは何者だ?」

 特殊部隊が着ているようなネイビーブルーの服とスマートグラス姿に戻った黄金井がフレームに触れながら問う。

 黄金井側のフレームには赤く「REC」の文字が常時表示されている。

 「何者でもない」

 /ウスマ自己紹介しなくていいのか?/

 「何者でもない者がこんなところでなにをしている?」

 「おまえはマリアを守れるか?」

 「は、なんのこと?」

 「その強さがあれば、あのとき・・・・あの空の下・・・・・でマリアを守れたはずだろ?」

 「マリア?」

 「戦火のなかで犠牲になる子どもをなぜ助けない?」

 (マリア。子どもの名前か)

 「俺は防衛省の人間だ。同意するよ。どんな場所であっても戦争の犠牲になる子どもがいていいわけがない」

 「ならどうしてマリアを守れない。ランダム進行性爆弾FOXからなぜマリアを守らない?」

 (FOX。ずいぶん前の兵器だな? いまは誰もFOXなんて使わない)

 「もし仮にうちの管轄内で幼い子どもが犠牲になったならそれは申し訳ない。ただそれが使用されていた時期俺はまだ入省もしてない。近代の迎撃システムがあれば、その子は犠牲にならなかったかもしれない」

 (おそらくはそのマリアって子がこいつの人格を形成した)

 「おまえはFOXからマリアを守れた・・のか?」

 「もし目の前にその子がいて、まさにいまこのときFOXが飛んできたなら、俺なら確実にそのマリアって子を守れたさ」

 (FOXに強いこだわりを持つ者。軍需産業グリムリーパー。モルスをやったのはこいつか?)

 ウスマの脳内がコンピュータウイルスにでも侵されたようにウスマの動きが止まった。

 「マリア」を守れたかもしれない可能性に言及した人物はウスマにとって初めてだった。

 

 「俺はマリアに守られた。なぜだ? なぜおまえがあのとき居てくれなかったんだ?」

 

 (こいつの心はいまだどこかの戦火に取り残されてるってわけか? 戦争とはどんなに時間が経とうが記憶から消えることはない。それはきっとなんど転生・・を繰り返したとしても、そうなんだろう。だとしてもこいつの行動理念がわからない。こいつをコントロールしている者の存在がいるはずだ。保護区域を破ったのはこいつじゃない。内憂外患ないゆうがいかんとはこのことだな)

 ――ビュン。

 黄金井がのけ反った。

 まさに紙一重だった、レンズからフレームが地に落ちた。

 わずかな時差でスマートグラス自体が黄金井の目元から落下した。

 

 黄金の耳の横で怪しい紫の刃が輝いている。

 /へへへ。あんた俺を避けるなんてすごいな/

「刀と話すのは初めてだ。妖刀のなかでも相当なレベルだな」

/おお、俺を褒めてくれるんて、サイコーだな。あんた/

 ウスマの仮面の半分の眼が冷たく黄金井を睨んでいた。

 (突然襲ってきやがった)

 「なんで俺を斬ろうとした。マリアを守れなかったからか?」

 「おまえにいう必要はない」

 (こいつに纏わりついている両価性の呪縛。おそらくはこいつは誰かの指示で動き、自分の感情を殺している)

 「もうスマートグラスが使いものにならないよ」

 (録画してたのに気づいてたんだろう)

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