第444話 防御


俺のツヴァイと同時にみんなも目の前の強化型泥田坊に焦点を絞る。

 う、うそだろ!? 

 あいつあんなにガタイいいのになんて速さなんだ? 急激にスピードを上げて田んぼの泥を飛び散らせながらこっちに向かって走ってきている。

 なんか走りかたが人体模型と似てるな。

 ってことはあいつやっぱり完璧なフォームで走ってたってことか。

 

 このままだと最初に強化型泥田坊の対峙あいてするのは寄白さんだ。

 俺は俺が思うよりも早く行動してた。

 でもそれはおれであって俺じゃない。

 そしてそれが当たる感覚もあった、ような?

 ――バシュ。

 強化型泥田坊が一瞬で消えた。

 効いてる。

 しかも瞬殺。

 「さだわらし。やるな?」

 寄白さんは強化型泥田坊がいまのいままで居たところからいまだに視線を外さないでいる。

 油断大敵ってやつね。

 「エネミーが名づけた。暗黒物質ダークマター

 「なかなかの威力ね」

 社さんも五本の指に弦を巻き付けていていまだ臨戦態勢だ。

 「うちを師匠と呼べアルよ」

 エネミーが小憎らしく、ドヤっている。

 「エネミー。こんなときになに言って」

 エネミーの顔の表情がみるみる崩れていく。

 え? なんだその顔は? しかも真顔、っつ痛ってー!?

 

 俺は脇腹に衝撃をうけた。

 な、蹴られてる。

 しかもいま消し去ったはずの強化型の泥田坊に。

 あいつ消えてなかったのか? なんで? エネミーの驚いた顔がさらにオーバーに変化した。

 「さだわらし!!」

 「沙田くん」

 よく見りゃ、こいつさっきより一回り小さくなってる。

 なら暗黒物質ダークマターが当たった瞬間中身だけ飛び出してきたのか?

 ああ、くっそ!!

 俺がこんなことしてるっつのーに、いまごろ家でワンシーズン祭りしてる、であろう山田に腹立ってきたわー!! 

 この怒りを力に変えろよ、俺。

 社さんが強化型泥田坊の中身を弦で縛りあげた。

 フォローしてくれて助かった。

 ミイラ男みたいになった強化型泥田坊の中身は弦のなかでもぞもぞと蠢いている。

 全身を包まれたら実力も発揮できなさそうだな。

 この対決は社さんの弦に分があるか。

 「さだわらし。どうやらさっき瞬殺したのはそいつの抜け殻のほうだったみたいだな」

 やっぱりそうか。

 てかそんな泥田坊がいるかよ?

 もう、なんか種を越えてきてるんじゃねーの!?

 ん? よくる見ると俺の脇腹から交差した手のひらが飛び出していた。

 この状態で写メったら完全に心霊写真だよな。 

 ここっていま強化型泥田坊に蹴られた場所。

 この手で多少ダメージを和らげられた。

 俺を守ってくれたのか?

 ツヴァイはあっちにいるだろ。

 ならこの手ってドライの手なのか? こういう防御方法もあるのか。

 知らなかった。

 防御本能? これも俺の俺なりの反射神経なのかも。

 

 只野先生が教えてくれた「希型星間エーテルが人の外側にまで及ぶと=守護霊などとなる」

 ってやつ。

 これも一種の守護霊みたいなもんなのかも。

 

 肩に手が乗った心霊写真があったとしても解釈は様々ある。

 この場所に未練を残した地縛霊です。

 生霊があなたの肩に手を伸ばしてるんです。

 あなたに怨みを持つ悪霊が肩を掴んでるんで、肩の病気や怪我に気をつけてください。

 マイナスの答えが多い反面、中にはこれはあなたを守る守護霊です的な心霊写真もある。

 おそらくはそのパターン。

 俺はなんだかんだいままで直接こんな攻撃を受けたことない。

 ここ最近なら、バッハのときにビビって間接的に腰打ったくらい。

 いったんツヴァイを俺の体に戻そう。

 闇雲に出現させていても意味がない。

 ドライを俺の守護として使えるならツヴァイだって敵と戦ってないときは俺のなかにいたほうがいい。

 こうやって自分の戦いかたを覚えていくんだ。

 いまは攻守の守。

 防御に徹していよう。

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 猿飛はある一本の木の真上に片足で立っていた。

 器用に思えるその態勢も、防衛省に属し黄金井の補佐をする猿飛にとっては日常茶飯事だ。

 黄金井に指摘されたスーツ姿もいまは見る影もない。

 黒装束で、目元だけが出た頭巾で顔を覆っている。

 

 木の天辺をぴょんぴょん跳びはねて、猿飛の目の前の木の上に立ったもうひとりの黒装束の者。

 「才蔵さいぞう。どうだった?」 

 「黄金井さんは依然、戦闘中。相手は相当強いな」

 「俺たちはどう動く」

 「時期尚早」

 「なぜだ?」

 「田んぼのほう偵察してきた」

 「俺もここから見てたよ」

 「佐助。ならわかるだろ? あの田んぼに何体もの泥田坊が出現している」

 「たしかにおかしいな」

 「田んぼが一瞬光ったのを見たか?」

 「当たり前だ」

 「あれは六角市の高校生がやったもの」

 「どういう意図で」

 「あの光った範囲が泥田坊の出現エリアということだろう」

 「なるほど。あの空間にまだまだ泥田坊が出現るってことか」

 「そういうこと。俺たちも防衛省の人間として注視しておくに越したことはない」

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