{{韋駄天}}
右の腕につむじ風の剣を巻きつけた九久津が飛ぶようにしてアーマー型の泥田坊に向かっていった。
早えーし。
この地面の抉れかたどうなってるんだよ? ただ単に土が柔らかいからってだけじゃないぞ。
寄白さんはこっちを見ることもなく上半身を屈ませた、空いたスペースに九久津が飛び込み風の剣を真横に振り斬る。
アーマー型の泥田坊もそれをなんなく躱す、アーマー型の泥田坊も自分が九久津の攻撃を躱しきった、と錯覚したのか。
甘いな。
真上からゴーレムが降ってきた。
寄白さんもこの隙を見逃さず十字架のスピアでアーマー型の泥田坊の両足を払う。
――ズシン。
ゴーレムは全体重をかけてバランスを崩したアーマー型の泥田坊の頭部目掛けて頭を潰す。
よし!!
あのゴーレムってろくろ首みたいな大きな顔の上から降ってきてたけど、あれも九久津の召喚したアヤカシだよな?
え、あ、あれ? 九久津が寄白さんのところにもいる社さんのところにもいる。
いや、ちがう、分身?
寄白さんのほうにいた九久津が煙のようになって消えた。
ん? 一瞬、九久津がギョロ目の雲みたいなアヤカシに変わった。
あれが九久津に化けてたのか。
九久津はいったいどれだけのアヤカシの召喚してるのか。
社さんのほうの九久津も泥田坊と戦っていて、ゴーレムがそれをサポートしていた。
社さん自身は戦いに参加せずに田んぼに向かって弦でなにかをやっている。
きっと九久津が社さんに「蓋」の存在を教えてそれを探ってるんだ。
って、いまここにいる俺たちはどうするかだよな。
「エネミーはここにいたほうがいいんじゃない?」
「うちもあっちいくアルよ」
「でもまた泥田坊にドーンってされてゴロンゴロンってなるぞ?」
「それはそれでバイブスヤベーアルよ」
俺にはわからない謎の感覚バイブスが横回転でも反応するらしい。
「ってことはゴロンゴロンしてもやむを得ない、と?」
「あながち」
あながちの意味あってるのか?
お、九久津が相手にしてた二体の泥田坊も泥になって散らばった。
これで終わったのか? なんてそんな簡単なことはないよな。
体感、二十秒ほど、あたりが静まり返る。
実際は静寂じゃなくて虫の鳴声と蛙のゲロゲロという鳴声が聞こえていた。
なんのアクションのない二十秒は長いな。
いまだ鳴声以外の、静けさがつづく。
誰もが身構えたままで、それからまた二十秒ほど経ってようやくみんな構えを解いた。
誰がそうしようと言ったわけじゃなく寄白さんの元にみんなで集まる。
エネミーはポヨンポヨンしながら歩いていた。
もう、べとべとの動きに適応したのかも?
「さあ、どうする?」
寄白さんはいまだスピアを手にしたままで、みんなに問いかけた。
エネミーの現状を見ても、すでにご存じというかんじで、みんななにも言わない。
そりゃそうだよな。
べとべとの護衛のことみんな知ってたんだから。
九久津がなにかを確認するように自分の手を見ている。
俺はそれがなんとくなく気になった。
「九久津どうした?」
「最後の泥田坊への接触の感覚が弱かった気がする……」
「気のせいだろ?」
「いや」
「だって九久津が泥田坊の体に一撃入れてから、そのあとすぐに泥田坊の体が崩れたの俺はちゃんと見てたし」
「これは俺にしかわからない紙一重の感覚なんだ。レギュレーション判定が緩い」
まあ、感覚で言われたら、それはもう本人にしかわからないけど。
「九久津」
寄白さんが九久津の名前を呼んだときだった。
「美子ちゃん。それどういうこと?」
十字架のスピアを指差した。
「これはイヤリングが武器化したものだ」
「美子ちゃん。そんなことできたんだ?」
「はじめてだ」
「俺も初めて見たもん」
「たぶんイヤリングに忌具を収納れたからだろう」
「ああ、なんかそういう相乗効果みたいなのがあるのかもね?」
「たぶん。こんな機会はいままで一度となかったからな」
「でも、早いとこ、上に藁人形とスーサイド絵画の報告はしないとね」
「ああ」
「みんな!!」
虫の鳴声と蛙の鳴声に社さんの声が割って入った。
ん? なんだ。
社さんの声、と、同時に俺の眼にもそれ、いやあれ、あれらの存在を確認した。
勢揃いってことか。
しばらく静かだった時間は、あれらの出現にかかった時間。
静かであればあるほど、それはあれらの数の多さを意味する。
二十や三十できかないぞ、あの数は。
俺たちが最初に会ったシンプルな泥田坊が田んぼのなかで真横に並列んでいた。
あそこまできれいに並ばれるとそれはそれで壮観だけど。
やっぱり早いとこ百年の蟲毒の蓋を探して破壊しないと。
{{混成召喚}}≒{{狂骨}}+{{カマチタチ}}
なんか無数の骨の幽霊が現れた。
この幽霊、なんて典型的な幽霊の足(?)をしてるんだ。
いや、幽霊は足がないから幽霊なんだけど、あの尖がった先っぽの足(?)
一反木綿と同じ足(?)
だから浮いてるのか?
その骨の幽霊たちは風に乗って、大量の泥田坊を撃ち抜いていった。
九久津はあれらに向かって先制攻撃をしかけた。
スゲー乱れ撃ち。
みんな木っ端みじんに吹き飛んでいった。
この泥田坊だとそんなに強くないタイプか。
え、また、出た。
違うな、九久津が一列目を全部倒したから、二列目が前に出てきたってかんじだ。
何体いるんだよ? 三十、四十、もっとか。
マジで蓋を壊さないと、延々とつづくぞ、これ。
そんな俺の不安をかき消すように、その大量の泥田坊たちは波に攫われた砂の城のようにボロボロと崩れていった。
お、おおー!? やったぞ!!
もしかして九久津が召喚したアヤカシの乱れ撃ちが田んぼのどこかにあった百年の蟲毒の蓋を壊したのかも。
それで負力の供給が断たれた!!
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