第453話 巨大化 


 田んぼに舞う土煙がようやく夜風かぜに乗って流れていった。 

 なんとなくだけど俺の後ろから焦げ臭いニオイがしてきている。

 喉がイガイガするこの焚火のようなニオイはなんなんだ?

 だいだらぼっちは空手家の「押忍」のようなポーズをして守護山やまに向かって大きな雄叫びをあげた。

 俺、自身もその声を全身で受ける。

 体にとんでもない風圧をかんじた。

 声量こえの威力だけで体が後ろに持っていかれそうだ。

 だいだらぼっちは右手を振りあげて、ふたたび田んぼに一撃を加える。

 俺は飛び散る泥に一瞬、ほんの一瞬だけ、目を逸らしてしまった。

 俺の顔のすぐ真横をほとんど球状たまのエネミーが横切っていった。

 !?

 エ、エネミーがべとべとと一緒にだいだらぼっちに蹴られた。

 だいだらぼっちにとって目の前でうろちょろしてる丸いエネミーは目障りだったのか。

 ただ、だいだらぼっちは足を振り上げて蹴ったわけじゃないからエネミー自身はそんなダメージは受けてなさそうだ……。

 それでもエネミーはサッカーボールのようにべとべとごと飛んでいった。

 俺は左目でだいだらぼっち、右目でエネミーの様子を確認できるように態勢を変える。

 サッカーボールがゴールネットに吸い込まれるようにエネミーがべとべととともにネットに包まれた。

 あれは社さんの弦で編んだ網目模様のネット

  

 エネミーはべとべとご社さんの弦でキャッチされた。

 これでエネミーは大丈夫そうだな。

 ん?

 社さんは、無理に球体の威力を殺さずエネミーと一緒に、社さん自身も山のほうへと飛ばされていった。

 社さんってあんなに軽いのか。

 でも、あれじゃ守護山の山肌までは届かないだろう。

 俺の目測でも麓までもいかない距離だと思う。

 なんか、守護山やまのあそこから煙が出てないか? さっきの焦げ臭いニオイ。 気のせいか?

 どっちみち、エネミーはいまこの戦場から距離をおける。

 得策だな。

  {{六歌仙ろっかせん大友黒主おおとものくろぬし}}={{風}}

 お、社さん、風を使って着地点をコントロールする気だ。

 エネミーをいったん避難させるって意味もあるはずだ。

 この場は俺と九久津と寄白さんでなんとかするしかないな。

 シシャの反乱のときを思い出す。

 あのときもなんとかなったんだ、今回だって。

 ん? なんか九久津も寄白さんもやけに目線の下にいるな。

 だいだらぼっちが九久津に狙いを定めた九久津に向かって拳を振り上げた。

 

 く、九久津がやられる。

 まずい。

 

 よし!!

 俺の右の拳パンチがだいだらぼっちの頬に当たった。

 奴の顔が揺れた。

 けっこう効いてる。

 俺自身にもその手ごたえがある。

 「九久津。こいつ、いまお前を助けたようにみえたけど?」

 「美子ちゃん。その可能性もあるし。仲間割れって可能性もある。だいだらぼっちは上級だけど、IQが高いほうじゃないし」

 いや、ふたりともなに言ってんの? 九久津が危ないから俺がいまこの手で、だいだらぼっちをぶん殴ったんだけど。

 「脳筋タイプか。でもいまここに上級が二体いるのは間違いない」

 「美子ちゃん。しかも同種、ただ、もう一体は斑模様のだいだらぼっちだから。見分けがつきやすくてありがたい」

 は、なに? だいだらぼっちが二体いる? どこに? 俺は周囲を見回したけど、俺の眼に映るのは、俺と同じ視線の高さにいる、だいだらぼっちだけだった。

 他にだいだらぼっちなんていないぞ。九久津と寄白さんはなにを言ってるんだ?

 だいだらぼっち、え、あ!?

 お、俺はなぜ、いま目の前のだいだらぼっちと目が合ってるんだ?

 目線の高さが同じ。

 俺は最初、だいだらぼっちを見上げていたはずだよな。

 恐る恐るだけど、俺は自分の手元を眺めてみた。

 お、俺の手がど、泥でできている。

 なんだこれ? しかも腕や手の甲、それに掌にまで斑点がある。

 こ、これが九久津と寄白さんの言う「斑模様のだいだらぼっち」か?

 二体目のだいだらぼっち、それって、お、俺のことなのか?

 これ俺はなにかの魔障にでもったのか。

 なにがおこったんだ? このだいだらぼっちが最初に田んぼに掌底した、あのとき舞った土煙……。

 あの瞬間になにかが起こった。

 あ、俺は寄白さんを蹴ろうとした、だいだらぼっちの脛を、俺の足の裏で止めていた。

 俺の足も完全に泥だ。

 泥でできている。

 足の甲も脛も太ももも斑模様がある。

 間違いない、俺が「斑模様のだいだらぼっち」だ。

 「なんでこいつ私を助けた?」

 寄白さんがが不思議そうに俺を見上げていた。

 どうなってんだ?

 まあいい、みんなを助けないと。

 よくよく考えると俺が九久津と寄白さんを見下ろしている。

 ――寄白さん、俺の中で、俺の口からそう音が出るはずだった。

 でも、実際は目の前の、だいだらぼっちが発したような雄たけび。

 俺がいま出した声は野獣ような叫びになっていて、寄白さんと九久津には伝わらなかった。

 「九久津。やっぱり、このだいだらぼっちは、うちらを守ってないか?」

 「今の動きから判断すると、その可能性は高いかも。美子ちゃん。それとは別に、さっきから沙田の姿が見あたらないんだけど」

 「まさか最初の田んぼへの一撃でやられたのか?」

 「それはないと思う」

 「なら雛とエネミーと一緒にあっちに飛んでいったのかも」

 い、いや、俺はここにいるんだよ。

 伝えかたがわからないけど。

 この状況からしても、どうやら俺はだいだらぼっちになったみたいだ。

 でも、こうなる理由がわからない。

 まったく検討もつかない。