第456話 危機一髪


 このあいだにも寄白さんと九久津はだいだらぼっちの攻撃を躱しながらも、俺の動きを牽制している。

 

 ただ、俺が寄白さんと九久津にまったくを攻撃しかけないのを知っているからなのか、俺は比較的スルーされている状態だ。

 と、いっても、俺に対してふたりとも注意を怠ることはない。 

 だいだらぼっちの攻撃はいまのところ単調で、田んぼにパンチするか、踏みつけるかくらいしかしていない。

 あいつでさえ、俺のことを敵とも味方とも思ってないみたいだ。

 

 だいだらぼっちは、それ以外、田んぼの中のある特定の範囲をただ歩き回ってるだけ。

 なんか田んぼを耕してるみたいだ。

 歩いては、田んぼにパンチしたり、踏みつける。

 なんの意味があるんだ、あれ?

 逆に攻撃してこないのも怖いな。

 俺が先制攻撃をしかけるにしても、まずは寄白さんと九久津に俺の現状を知らせないと。

 数秒後に寄白さんと九久津が俺を見上げた。

 どうやら社さんの言葉が寄白さんと九久津に伝わったようだ。

 俺は、吠えた。

 ちょっとした言葉でふたりに知らせようとしただけだけど。

 やっぱり口から人間の言葉は発せない。

 だから、俺は手を上げて返す。

 寄白さんも九久津もいまだ、半信半疑かもしれないけど、それぞれがそれぞれに驚きながら手を上げて合図してくれた。

 寄白さんも九久津も俺のことを信じくれている。

 なんせ、いまの俺に背中を見せてるんだから。

 能力者にとって背後をとられるっていうのは命取り。

 社さん経由ではあるけど、ふたりの行動は俺の言葉を信じてくれてるってことでもある。 

 ただ、九久津の兄貴が力を貸してくれてるってことは、この状況がヤバイってことだよな?

 ツヴァイドライの完全体が出現できなかったのって、俺の体の中でなんかごちゃごちゃやってるからなのか?

 田んぼの中をぐるぐる歩き回っていた、だいだらぼっちは、ソーラーパネルの群れに近づいていった。

  ――バキ、バキ。

 すこしだけ腰をかがめてソーラーパネルを端を板チョコでも割るように捥ぎとった。

 手にしたソーラーパネルが気にいらないのか、田んぼにそれを投げ捨て、また草でも毟るように右上のソーラーパネルを引き剥がした。

 あ、エネミーが作った鳥の墓が、だいだらぼっちに踏みつぶされた。

 今度はそのソーラーパネルの形が好みだったのか、だいだらぼっちは両手を器用に使って、歪なソーラーパネルを二つに折って、さらに四つ折りにして、まるで紙でも丸めるように軽々と球状たまにしていった。

 なんて握力だ。

 だいだらぼっちは、さらにソーラーパネルをおにぎりのように握り強めに固めている。

 自分の手の泥を混ぜてソーラーパネルを泥団子のようにしていた。

 あんなガラスやら金属やらの塊をさらにガチガチに固めて、ほとんど大砲の玉じゃねーか。

 あれを生身の人間がくらったら、一発で終わりだよな。

 真正面からトラックに衝突ぶつけられるようなもんだ。

 だいだらぼっちは、握っていたソーラーパネルの球体たまをアンダースローで投擲げた。

 

 このまま地を這うようにして地面スレスレで俺たちのほうへ球体たまが飛んでくるか?

 いや、ぐんぐん右肩上がりで空に向かっていく。

 ノーコン? あいつミスったか? 球体たまは空の彼方へ飛んでいった。

 「だいだらぼっち一体なら戦いやすい。俺も美子ちゃんも二体を同時に相手しなきゃって思ってたから。沙田、俺と美子ちゃんをおまえの肩に乗せてくれ」

 九久津の言葉に俺は行動で返すしかない。

 俺が巨人になった、あるいは寄白さんと九久津が小人になったから、俺は肩の右と左にそれぞれを乗せた。

 ん? いまのピッチングが影響したのかなんなのか、だいだらぼっちの体にヒビが入ってきたような気が。

 だいだらぼっちの体のヒビがじょじょに広がっていく。

 「九久津。そろそろか?」

 「タイミング的にね」

 寄白さんと九久津が俺の頭を挟んだ両肩で会話している。

 だいだらぼっちが、その場で田んぼを一度強く踏みつけた。

 球体たまのコントロールに納得いかないとか、か?

 だいだらぼっちはまた、田んぼを踏みつけた。

 怒ってる? だいだらぼっちは、そのまま、また二回、田んぼをダンダンと踏んだ。

 田んぼには大きな穴が空いている。

 なんだ? なにがはじまるんだ?

 だいだらぼっちの足から伝わってきた衝撃の影響なのか、だいだらぼっちの体の表面からボロボロと土が落ちた。

 しかもヒビの近くから剥がれて落ちていってる。

 ヒビ割れただいだらぼっちの体の中身がかすかに見える。

 あれは石、いや岩か?

 あの、体って泥や土でできてるわけじゃないのか?

 ってことは、俺がもし本当に、だいだらぼっちだったなら俺の体もああなってたのかよ。

 俺のいまの体は九久津の兄貴がゼロの召喚術で召喚した泥田坊の集合体あつまりだからな。

 

 「こうなってこないと退治できないからな」

 こうなってこないと・・・・・・・・・、退治できないってどういうことだろ?

 あ、っと、その前に。

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 (なんだろう。さっきからこの焦げ臭いは? 山のほう、あのあたり何かが燃えたあと……)

 『社さん。だいだらぼっちが丸めたソーラーパネルを空に向かって投擲げたから念のため気をつけて』

 (え、本当だ。空からなにか塊が飛んでくる)

 ――沙田くん。ありがとう。

 「エネミー。私の後ろに回って」

 「わかったアルよ」

 エネミーはよたよたと社の背後に歩いていった。

 社は、前もってソーラーパネルを捉えるため、等間隔にあいだをあけて空にいくつもの弦を張る。

 ネット状の弦は、まるで打ち上げ花火のような形をしていて飛翔体を待ち構えていた。

 (きた)

 最初の弦が丸まったソーラーパネルの塊を包む。

 社は飛んできた威力を吸収しようと弦を操作した。

 ――ブチ。

 弦の破ける音がした。

(……私の弦じゃ強度不足。あんな威力で飛んでくるソーラーパネルの塊を止めるなんて不可能に近い)

 ――ブチ、ブチ。

(このままじゃ全部の弦を貫いて、ここまでソーラーパネルが飛んでくる)

 社は弦を追加して、ネットの強度を強めていく。

 ――ブチ、ブチ、ブチ。

 (こんなに何重もの弦を張ったのに。止められないかも、しれ、な、い)

 ――ブチ、ブチ、ブチ。

 社はネット状の弦を複数重ねたうえで、さらにそれをってソーラーパネルの塊を包む。

 そのままハンマー投げの要領で、弦を投げてソーラーパネルの落下軌道をずらした。

 ソーラーパネルの塊は弦と一緒に、守護山の山肌に突き刺さる。

 (危機一髪ね。あんな威力ならどうしようもない。ネット状の弦をいくつ広げても突き破られるだけ)

 人の世界でなにが起こっているかわからず、鳥たちはいっせいに飛び立っていった。

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