第411話 進展


 

 戸村伊万里は車内に2in1のタブレットを持ち込んでいた。

 (まさかあんなところで寄白繰に会うとは、まあ、六角市に滞在ればいずれどこかで会うことにはなっていただろうけど)

 画面の中にあるテキストファイルをタップする。

 (それに行内で黒杉の件が動いたのも意外だった。黒杉が労災隠しをしてる可能性を考えるとB勘ビーカンだってありえる話)


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 ■黒杉工業 代表取締役 黒杉太郎の被害者と思われる人物。

 ●川相総。元、黒杉工業勤務。

 六角駅前のロータリー前のビルから抗議文をまき飛び降り自殺。

 「罪を償え」はなにを意味しているかは不明。

 ネットでは、プランターに落下したため大事に至らなかったという情報もあるが、じっさいは頸椎損傷により即死。

 ビルのうえに残されていた遺書には、娘の川相憐の人生を心配する旨が書かれていた。

 遺書は指紋、筆跡鑑定により川相総の直筆だと断定されている。

※補足 手すりに真っ黒な絵があった(?)

 ●川相憐。元ショップ店員。

 

 川相総の娘で家に閉じこもっている。

 川相憐の母親は川相憐に宛ての採用通知(有名ブランドのパタンナーで採用)を勝手に開いて捨てた。   

 ※法的には「信書開封罪」

 その後、引きこもってしまった娘に罪の意識を抱き自殺。

 ●哀藤祈、黒杉工業に勤めていた若手社員。

 

 六角駅で飛び込み自殺。

 死の直前に自殺をほのめかしていた(遺書を書くためにノートを購入?)というコンビニ店員の証言あり。

 結局ノートは見つからずじまい、購入したのかも不明。

 インターネット等で購入した可能性もあり。

 (事件性が否定され捜査令状がおりていないために追跡調査はしていない)

 +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

 戸村刑事が六角中央警察署に研修(調査)にきた理由。

 内閣官房機密費の流れを探るため。

 ■関与が疑われる個人と組織(ソースは戸村刑事)

 

 ■関与を疑っている個人と組織(独断と偏見)

 ・黒杉工業

 →社員や関係者に自殺者が多い疑惑の大手建設会社。

 ・音無霞、黒杉工業(?)との会食で性的暴行を受けたと六角中央警察署に相談にきていた。

  被害届をすぐに撤回している。(黒杉工業の顧問弁護士が接触か?)

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

 ・鷹司官房長官(総理が入院中のため現在、内閣のトップ)

 ・四仮家元也(脳神経外科の医師、元、六角第一高校の校長、まだ六角市在住?)

 →官房機密費流用の鍵を握っている?

  かつて六角市にて佐野和紗という少年を保護したことがある。

 ・NPO法人『幸せの形』(孤児や遺児などの生活のサポートしている非営利団体)

 →官房機密費流用の鍵を握っている?

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 戸村伊万里は画面を下にスライドさせていく、ときおりルームミラーにも目を配り車の後方をチラチラと確認している。

 (そっか。このあとに班長さんが独断で哀藤あいとういのるの家を捜索したんだから、ここは直しておかないと)

 

 戸村伊万里はテキストファイルにある一文を指でなぞる。

 そのままタブレットの右下にあるキーボードのアイコンをタップした。

 画面の下半分を占領するようにアルファベットと数字が並んだ簡易キーボードが出現した。

 「(事件性が否定され捜査令状がおりていないために追跡調査はしていない)」の部分を「(六波羅班長が捜索したが収穫はなし)」に修正し上書保存する。


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 ■黒杉工業 代表取締役 黒杉太郎の被害者と思われる人物。

 ●川相総。元、黒杉工業勤務。

 六角駅前のロータリー前のビルから抗議文をまき飛び降り自殺。

 「罪を償え」はなにを意味しているかは不明。

 ネットでは、プランターに落下したため大事に至らなかったという情報もあるが、じっさいは頸椎損傷により即死。

 ビルのうえに残されていた遺書には、娘の川相憐の人生を心配する旨が書かれていた。

 遺書は指紋、筆跡鑑定により川相総の直筆だと断定されている。

※補足 手すりに真っ黒な絵があった(?)

 ●川相憐。元ショップ店員。

 

 川相総の娘で家に閉じこもっている。

 川相憐の母親は川相憐に宛ての採用通知(有名ブランドのパタンナーで採用)を勝手に開いて捨てた。   

 ※法的には「信書開封罪」

 その後、引きこもってしまった娘に罪の意識を抱き自殺。

 ●哀藤祈、黒杉工業に勤めていた若手社員。

 

 六角駅で飛び込み自殺。

 死の直前に自殺をほのめかしていた(遺書を書くためにノートを購入?)というコンビニ店員の証言あり。

 結局ノートは見つからずじまい、購入したのかも不明。

 インターネット等で購入した可能性もあり。

 (六波羅班長が捜索したが収穫はなし)

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 戸村刑事が六角中央警察署に研修(調査)にきた理由。

 内閣官房機密費の流れを探るため。

 ■関与が疑われる個人と組織(ソースは戸村刑事)

 

 ■関与を疑っている個人と組織(独断と偏見)

 ・黒杉工業

 →社員や関係者に自殺者が多い疑惑の大手建設会社。

 ・音無霞、黒杉工業(?)との会食で性的暴行を受けたと六角中央警察署に相談にきていた。

  被害届をすぐに撤回している。(黒杉工業の顧問弁護士が接触か?)

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

 ・鷹司官房長官(総理が入院中のため現在、内閣のトップ)

 ・四仮家元也(脳神経外科の医師、元、六角第一高校の校長、まだ六角市在住?)

 →官房機密費流用の鍵を握っている?

  かつて六角市にて佐野和紗という少年を保護したことがある。

 ・NPO法人『幸せの形』(孤児や遺児などの生活のサポートしている非営利団体)

 →官房機密費流用の鍵を握っている?

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 (修正完了。そして黒杉のことで進展があったといえば……令ちゃんが持ってきたあの就職支援セミナーの件か。協賛企業に黒杉工業の名前があったからって関係あるのかな? それにこのセミナーの講師って経済の文化人で有名な金融コンサルタントのあな栗鼠人りすとと 近猿こんさる丹人たんとのふたり 。この場合、黒杉工業側が著名人の名前に乗じて首都圏に自社の宣伝をしようとしたようにしか思えないけど)

 戸村伊万里は画像というタイトルのフォルダをタップしてから一枚の画像ファイルを選択した。

 タブレットの中央に一枚のjpegファイルが位置する。

 画像には鷹司を中心して時計回りに近衛、二条、藤原ふじわらあかね、九条、一条が並んでいた。

 なかでも藤原茜は九条に寄り添うように写っていて親密さがうかがえる。

 (藤原ふじわらあかね藤原ふじわら氏の血筋の。藤原家なんだから五摂家にとってもゆかりある人物なのは間違いない。ただ千九四十七年に華族かぞく制度が廃止されたように歴史的な主従関係にも相当な変化がみられる。もしかすると足軽あしがる出自の子孫が上場企業の代表取締役社長しゃちょうにでもなっていて、そこにかつての藩主の血筋の社員が働いているっていうことだってありえるかもしれない。歴史の不思議ね)

 戸村伊万里は親指と人差し指で画像を拡大させていき、指先を使い画面の中心に藤原茜がくるように合わせた。

 (だとしてもこのは鷹司官房長官、近衛このえよつぎ二条にじょうはれ九条くじょう千癒貴ちゆき一条いちじょう空間くうまにとって特別な存在。とくに九条くじょう千癒貴ちゆきと藤原茜はいちばん歳が近く兄妹のような間柄あいだがらだったときく)

 戸村伊万里はルームミラーを一瞥し車に近づいていくる人影を察知した。

 ただ、この車は「パトカー」であり、一般人であれば避けてとおりたい車種に違いない。

 戸村伊万里はタブレットを隣の座席に置き左側の後部座席のドアを開いた。

 「いや~疲れた。今日はやけに人が多いね?」

 その人物はベージュ色のハンチング帽を脱ぎ黒と白のギンガムチェックのゴルフバッグを放り込むように座席に乗せた。

 ――いたたた、と腰をトントン叩きながら車に乗り込み、全体重をシートに預ける。

 戸村伊万里はそれを見計らいドアを閉めた。

 その人物はちょうど戸村伊万里と対角線上に座っていて、目をつむりながら首を真後ろに寝かせふたたび疲労の言葉と吐息を一緒に吐いた。

 「ワンシーズンの娘がラジオで六角市のことを話題にしたからですよ。それに主要メンバーではないですが駅前きているそうです」

 「駅前?」

 「献血のイベントです」

 「そういうことかい」

 「はい」

 「伊万里くん。これお土産」

 その人物は白と黒のギンガムチェックのゴルフバックを開きゴルフクラブとゴルフクラブのあいだに押し込まれていたビニール袋をとりだした。

 「なんですか?」

 (唇の跡のあるコーヒーカップ?)

 「見てのとおり」

 「この紙コップって誰ですか?」

 戸村伊万里はビニール袋の上からすでに乾ききっている茶色の唇の跡を指差した。

 

 「黒杉太郎。六波羅に連絡したら取り込み中だったから。これは伊万里くんに任せるよ。伊万里くんも六波羅たちと打ち解けてきたようだし、私も伊万里くんのことを信用してるってことさ」

 (それってこの段階で先回りして黒杉のDNAを採取しておくってことか。紙コップなら指紋もついてるはずだから一挙両得。署長もずいぶん攻めるわね。署長が黒杉太郎とゴルフをしていたのはいつかこれを手に入れるためだったってわけね)

 「そういうことですか?」

 「そういうこと。六波羅あいつらの覆面めんパトの横を通ってきたんだけど。私に気づきもしなかったな」

 「現在、任意で話を訊いてる最中ですからね。署長。でもこれって違法に収集した物ですよね?」

 「伊万里くん。私は今日、黒杉との勝負で勝ってしまってね」

 「え? それが」 

 「私がただ地元の名士たちとつるんで遊び歩いてるだけだって思うかい?」

 「いいえ。それは……」

 「今日、試合のあとに黒杉たちとテーブルを囲みながらお互いに、ああだこうだ言っていると黒杉のやつがヒートアップしてきてホットコヒーをこぼしたんだよ。湯気の立った熱々のコーヒーが私の目の前にツーっと流れてきてね」

 「は、はぁ」

 「あれはわざとだよ。私は、そこで恐ろしくなったんだよ。これはある種の恫喝じゃないかって思ってね。こんな怖い思いをすれば心身に不調をきたして仕事を休むことにもなりかねない。こんな酷い目に遭ったんだ。これを警察・・にいうなら争った証拠が必要じゃないかと思ったわけだよ」

 (なるほど)

 

 「そういうことですか」

 (署長は自分が勝負に勝ったことで敗者の黒杉が気を悪くして、わざと熱いコーヒーをこぼされたという解釈ね。そうやって脅されたからそのときに使用した凶器・・の紙コップを持って帰ってきた)

 「六波羅にちょろっときいたはなしだと。黒杉に労災隠しの疑惑が出てるってね」

 「はい。六波羅さんたちが銀行の揉め事の仲裁にいったときに偶然その話になったようです」

 「瓢箪ひょうたんから駒か」

 「はい」

 「これは私個人、警察の勘でも、黒杉ならそれくらいやっているだろうというのが率直な感想だ。叩けば埃はまだまだたくさんで出てくるはずだ」

 「同感です」

 

 (これが署長の年の功か。たくさんの人が集まってゲームに興じていればいつか小競り合いくらい起こるもの。それを見越していた)

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