第412話 事後処理


 戸村さんが銀行にきてからどこか別の場所で話を訊くということで、班長さんとあの薄い青色のツナギの男は銀行から出ていった。

 薄い青色のツナギの男はすこし抵抗するような素振だったけど、そこに検美石さんも戻ってきてそのまま班長さんと一緒に歩いていった。

 連行ってかんじではなくて、横に並んで歩いてたからきっと別の場所であらためて逮捕しますってことではないと思う。

 戸村さんも窓口でなにかを告げ、そのまま引き返していった。

 俺も校長も最初に戸村さんと挨拶を交わして以来その後話す機会はなかった。

 警察としての対応で精一杯で、いま俺たちに構ってる暇はないんだろう。

 つぎに戸村さんが戻ってきたときは銀行の窓口で【最近、市内で変質者が出没しています。ご注意ください】のポスターを広げていた。

 行内に貼ってというお願いだろう。

 でも、窓口の人が銀行の入口を指差すと、そこにはすでに【最近、市内で変質者が出没しています。ご注意ください】が貼ってあった。

 戸村さんと窓口の人はまた何か会話をして窓口の人がそのままポスターを受け取った。

 別のところに貼るのかもしれない。

 ただどうするのか正確なことは俺にはわからない。

 こんなときに【最近、市内で変質者が出没しています。ご注意ください】のポスターを渡すなんてどういうことだよ、と思ったけど、戸村さんはすでに行内にポスターがあるのを知っていて、ただ銀行ここに日常を戻すためにやった気がした。

 そのあと戸村さんは窓口の人の後ろからやってきた責任者っぽい人と言葉を交わしてからは戻ってきていない。

 いまごろ班長さんたちと合流して捜査とかしてるのかもしれないし、事後処理についての話をしてるかもしれない。

 

 そうこうしていると行内に業務再開のアナウンスがあった。

 行内にいた客もみんな自由になったみたいだ。

 だからといって帰っていく人は皆無で中断してしまった用事を済ませる人がほとんだ。

 窓口で番号札をもらっていたり、書類になにを書いていたり、印鑑を出したりしている。

 俺と校長は銀行ここで揉めごとあるからってきただけだから、このまま証券会社の建物に戻ることにした。

 「校長。ようやく落ち着きましたね」

 「そうね。でも黒杉工業ってとんでもない会社なのかもしれないわね?」

 「そうですね」

 いや、校長、駅前であんなビラを撒かれた時点でヤバイ会社ですよ。

 「校長って六角中央警察署の署長さんこと知ってるんですか?」

 「それなりにね。六角市の名士たちでゴルフなんかをやったりしてるんだけど署長さんも参加してるって話」

 やはり「ちょう」は友を呼ぶのか。

 まあ、類は友を呼ぶでもいいんだけど。

 結局は、そういう「」のところで繋がってるんだな。

 しかもゴルフやってるってまさに・・・ってかんじだし。

 「へー」

 「警察署の一日署長でワンシーズンのメンバーを呼びたいって言ってたこともあるわね」

 アイドルを一日署長で呼ぶっておもいっきり個人趣味じゃ?

 「沙田くん。いま、なんてミーハーな人って思ったでしょ?」

 「え?」

 読まれた。

 俺、言葉として口には出してない。

 開放能力オープンアビリティの虫の報せを使ってるわけでもない。

 

 「図星ね?」

 「え」

 ま、まあ、これくらいなら俺の表情でわかるか。

 「署長さん。芸能人を使えば六角市の警察のことをアピールするのに効果的って発想なのよ。しかも若い子の啓蒙にもうってつけ。けっこうしっかりした人よ」

 「そうなんですか」

 

 それなにり考えてる人っぽいな。

 署長が公私混同で推し活やってるとかだったらヤバイもんな。

 さっきの班長さんの上司なんだから、まあ信頼はできるな。

 「黒杉さん。むかしはれっきとした二部上場企業だったけどな~」

 「え? 上場企業に二部なんてあるんですか?」

 「一部上場企業の下にね」

 一部だけじゃないんだ。

 まあ、「一」があれば「二」もあるか。

 「へー。黒杉工業っていまは上場会社じゃないんですか?」

 「うん。そうよ」

 「それって何か事件をおこしたとかですか?」

 「ううん。自分から上場廃止にしたのよ。二部でも会社を上場させたのは市場の資金を集めたかったんじゃないかな。でも上場企業だと外部の意見をきかなきゃいけないからそれがイヤで上場廃止にしたのかも。でもそうすると会社って閉鎖的になっちゃうからね。あ、労災隠しの件、いまの黒杉さんってそれも関係あるのかしら? 意外と経理面が大変とか」

 「ということは単純にお金がないってことですか?」

 「まあ、あくまで可能性のひとつね」

 

 「そうですか。でもまさかそういう工事とかする会社にも上場企業があるなんて」 

 「それはあるわよ。超有名な会社が」

 「そうなんですか」

 知らないな。

 なんとかハウスとか?

 「オリンピックなんかの施設やトンネルを掘れるような建設会社って日本には指で数えられるくらいしかなくて、そういう工事全体を取りまとめる建設業者をゼネコンっていうのよ」

 「ああ、ゼネコンって言葉はきいたことあります。あれって建設会社のことだったんですか」

 ほー、ゼネコンね。

 仮にエネミーに沙田、ゼネコンって知ってるアルか、と攻めてこられても、俺はもう知っている。

 すでに知ってしまっている。

 どうだ、エネミー。

 そういや寄白さんとエネミーと山田、証券会社でいま何してるんだろ?

 

 「そう。ゼネコンは社名に”組”とか”工務店”とか”建設”ってつくから上場企業ってイメージはないかもね」

 トンネルか。

 考えたことなかったな。

 あれだって誰かが掘って造ったものだ。

 崩れないように山に穴をあけるってそれはすごい技術が必要だよな。

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