第427話 顔合わせ 


時間も時間で追加公演をふくめ、ここで山田コレクションのエンディングを向かえた。

 プラチナバンドを開通(?)した山田を見てるとこのイベントは大成功といっていい。

 主役は主役らしく、主催者の俺を置き去りにしてアスって娘の配信を家で観るため颯爽と家に帰っていった。

 

 ただ、山田の妖精については寄白さんの謎の一言で状況が一変している状態だ。

 現状はよくわからないけど、山田は依然としてアスって娘推しのまま。

 ただ こういうイベントは開催やることに意義がある。

 そう、なんでも初回にはちょっとした課題が残るもんさ。

 ふふ。

 第二回『山田コレクションin六角市、六角駅前』があるのかどうかもわからない。

 だいたい山田は「陰」と「陽」で生きていくんだから第二回を開催する意味はないかもしれない。

 そもそもエネミーにカッコイイ山田おれを見てくれ精神で開催したのが『山田コレクションin六角市、六角駅前』のはずなのに現在、アスって娘に夢中なんだからやる意味はないか。

 俺らもそれぞれバスで家に帰るためバス乗り場に向かっている最中だ。

 元きたところを戻るんじゃなくて駅構内を見学がてらグルっと一周するようにして南口まで向かう。

 駅内は飲食店も多く、啓清芒寒けいせいぼうかんのノボリ旗だけじゃなく多種多様な宣伝物がある。

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 HPAヘクトパスカルをプロデューサーに迎えた豪華メンバーによるコラボ曲がついに完成!!

 最強布陣で臨む珠玉の一曲を聴き逃すな!?

 【A子 feat. B-男 feat. C助 with DJ-D  inspire E美 feat. F太】

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 あいかわらずHPAヘクトパスカルのプロデュースも健在。

 珠玉なのに、まったく聴く気にならない。

 それはなぜか、いったい誰が誰に何してんだかまったくわからないから。

 売れてんのか? 

 【コンコース内でイベント開催決定。シークレットメンバー登壇予定】 

 お、六角市にくるのか? 誰がくるのかわからないけど。

 六角市もちょいちょい有名人くるようになったな。

 音楽のつぎは飲食系のポスター。

 

 【ほとんど棍棒こんぼうみたいなゴボウのサラダ】

 それ本当に食べてーか? 武器でも使えるくらい硬いゴボウってことだろ? よくゴボウは食物繊維が豊富だときく。

 でもこの棍棒ゴボウは食物戦意せんいが豊富っぽい。

 このゴボウからは戦う気しかかんじられない。

 野菜でありながら野菜界の頂点とってやるという気概が溢れてる。

 

 俺が鉄だったなら都庁の避雷針になってやるって目標に近い。

 まさかゴボウがライバルになるとは。

 これは一目置いておくしかない。

 【(元)チンピラ・ゴボウ。ヤンチャしていたゴボウが改心した。体に優しい一品】

 この店はゴボウ専門店なのか? ほー元チンピラが改心か、これは体に優しそうだ、ってなるか!?

 キンピラ・ゴボウに進化するにはまだまだだな。

 

 なんかまたあの体育館裏の三年カップルの関与が疑われるな。

 出店してんじゃねーか?

 

 ガイヤーン推しの店とかさまざまな店を経てコインロッカーについた。

 【最近、市内で変質者が出没しています。ご注意ください】がある。

 たしかにロッカーに荷物入れてるときは油断しそうだ。

 いいところにポスター貼ってあるわ。

 班長さんセレクトかもしれない。

 エネミーのやつが下目で遣いで見てきてる。

 ノーノー俺は無罪。

 「沙田。うちがどんなパフェ食べたいか? あてるアル」

 そっちかよ。

 あのときのまだ言ってるのか? 

 「チョコパフェとかだろ?」

 「どうアルかな?」 

 「さだわらし?」

 「ん?」

 「暗くなりはじめたけどまだ帰るには早いよな?」

 寄白さんに呼び止められるなんて、これはまさか、あの帰りたくないのってやつか? あれなのか? 

 「そ、それは」

 よ、寄白さんの体が南南東あたりを向いた。

 寄白さん、今日、十字架のイヤリングを手にひっきりなしにその方向を向いてましたよね?

 「これからまだ時間あるよな?」

 「え?」

 それってイヤリングが指し示していた方向ですよね? 出るんですか? なにかそのアヤカシ的なのが? 

 「あ、な」

 「まさかないっていう気?」

 「いや、そりゃ、あますよ」

 がっつり噛んだ。

 「じゃあ。いくよな?」

 ですよね~。

 「どこに?」

 九久津と社さんがいなくてもいいかんじのやつ? 

 「南町」

 「み、南町まで?」

 「そう」

 じつはただエネミーを送ってくだっけっての話じゃない、よな? ここはまだ北口付近。

 俺は憂鬱に南口まで歩いた。

 反対にエネミーは呑気なままだった。

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 白衣にボブシニヨンの細身の女性が頭を下げた。

 「妖花研究者の己己己己いえしきさきと申します」

 「はじめまして。魔獣医の子子子こねしたけるです」

 礼を返したのは寄白の父親と魔獣医の子子子こねしだ。

 「子子子こねし先生。こちらこそよろしくお願いいたします。寄白さんにはわざわざ迎えにきていただきまして」

 「もう夜ですし。ただ顔だしなら明日でもよかったんですけど」

 「いえ、早めに施設の見学をしておきたかったので。ご無理を言って申し訳ありあせん」

 「いえいえ。でもまあ、プロメテウスのチューニングが終わったのもちょっと前でして。いま、ここには私と子子子こねし先生と己己己己いえしき先生だけしかいません」

 寄白の父の雰囲気が一変した。

 「最近は世界中が悲劇に覆われ、ますます先生たちのような力が必要になります。皮肉ですが、それに対応するための施設に良い人材が集まってくる」

 三人の目の前には巨大な建造物のようであり機械的な物体が鎮座していた。

 その容積に反比例してとても静かに稼働している。

 「お、完全起動したようですね?」

 寄白の父が【プロメテウス】の中心を指差した。

 これは常時運転状態を示すマークで【プロメテウス】には”火”を想起させる人工の光がっていた。

 

 「いわゆる”火”が入ったという状態ですね?」

 子子子こねしも目を輝かせた。

 「式典前なのに起動させていいんですか?」

 己己己己いえしきの疑問ももっともで、寄白の父がそれを受けた。

 「ええ。オリンピックでも開会式前に一部先に行われる競技がありますよね? そんなかんじです。【プロメテウス】はファンヒーターのようにスイッチを押してわずかなあいだで点火ということができませんから。記念式典のデモンストレーションですぐに使用できる状態にしたということです」

 子子子こねし己己己己いえしきが同時にうなずく。

 「記念式典で行うプロメテウスでのデモンストレーションの解析は国立六角病院の検体を使用するということで決定しています。これはY-LABの所長と病院長と私の三人で決定させていただきました。ああ、そうそう先生がたそれぞれの個人設定をHDDやSSDに保存することもできますから」

 寄白の父の解説がつづく。

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