第460話 一刀両断(いっとうりょうだん)


 だいだらぼっちは、低空のアンダースローしかも横回転でソーラーパネルを投げた。

 あの低さって、人間なら胴体にあたる部分だ。

 俺は、九久津と寄白さんを肩に乗せたままで跳んで躱した。

 必然的に俺たちが避けたソーラーパネルは後ろに飛んでいく。

 そこには社さんもエネミーもいる。

 断層に埋まっている、だいだらぼっちの冷たい瞳と目が合う。

 あの瞳は鎖骨の水溜まりくらいに淀んでいる。

 だいだらぼっちの口角が上った。

 わ、笑ったよな。 いま?   

 だいだらぼっちは、またアンダースローで、さっきよりもさらに低い場所にソーラーパネルを横回転で投げた。

 すこしの間があって、そこから少し上、また人の胴体ほどの高さにも横回転のソーラーパネルを投げた。

 次は人の首や顔の位置くらいにだ。

 横回転のソーラーパネルを段階的にしかも左右にそれぞれに幅を持たせ高さも変えて投げた。

 最初の横回転の一投から、あとに三枚のソーラーパネル、合計四枚のソーラーパネルが飛んでいった。

 足元のソーラーパネルが中央まんなかに飛んできた、俺は横に躱す。

 胴体の位置のソーラーパネルは俺の左側、首の位置のソーラーパネルは俺の右側を通っていった。

 

 ヤバい。

 これって社さんとエネミーが最初の横回転のソーラーパネルを躱したとしても、時差で、その上の高さのソーラーパネルが飛んでくる。

 さらにその上の首の高さのソーラーパネルも、だ。

 社さんとエネミーのところまで、なまじ距離があるから社さんたちは逆に逃げ場がない。

 あ、あいつ。

 だいだらぼっちはソーラーパネルをアンダースローで投げる態勢から急激に上体を起こして空に上の縦回転のソーラーパネルを投げた。

 横回転のソーラーパネルに気をとられていたら、つぎは上から縦回転のソーラーパネルが降ってくる。

 『社さん、横回転のソーラーパネルも低空でそっちに向かってる。俺たちの脛とかそのあたり。さらに三枚、そこから段階的に膝、胴、首くらいの位置、しかも左右の振り幅も大きいから気をつけて。さらに時間差で縦回転のソーラーパネルも投げた』

 今回は九久津の召喚も間に合わない。

 ソーラーパネルの波状攻撃だ。

 社さんとエネミーは正確にどの位置にソーラーパネルが飛んでくるのかわからない。

 避けたところにソーラーパネルが飛んでくる可能性のほうが高い。

 ソーラーパネルが上から落ちてくるだけなら上だけを気にしていればいい、でも横回転のソーラーパネルも低い位置で同時に飛んでくる。

 {{グレア}}

 寄白さんが振り返り、氷柱のような光をソーラーパネルを追尾するようにして投げた。

 だめだ。

 後追いは不利だ。

 しかも氷柱のような形だと、ソーラーパネルひとつひとつにぶつけるのは至難の技。

 ただ、散逸わかれてるソーラーパネルに、物理的攻撃をするならあれしかないか。

 コマ型になった光だと、飛距離が足りない。

 氷柱型だと槍投げの要領で、ソーラーパネルの追うことはできる。

 寄白さんの技で破壊できたのはソーラーパネルたったひとつだけだった。

 あとのソーラーパネルは俺の遥かうしろ、ってことは社さんたちの間近。

 ど、どうすれば……。

 社さんたち八方塞がりじゃないか。

 俺のこの体はデカくなっただけでなんの役にも立たない。

 おそらく横回転のソーラーパネルが俺の足に当たれば足が持っていかれる。

 だいだらぼっちは縦回転のソーラーパネルを頭上に投げてるから、仮に俺が跳んでそれを掴んだとしても手のひらが真っ二つになる。

 だとしたら、もう本体が出てるんだから俺がだいだらぼっちを攻撃するしかないか。

 それでも、すでに飛んでいったソーラーパネルはどうしようもない。

 寄白さんと九久津も攻撃に転じれず一歩出遅れたってかんじか。

 社さん、エネミー無事であってくれよ。

 そうこうしている間にも、だいだらぼっちの投擲はつづく。

 もう待ってられない俺も反撃に出るしかない。

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(そんな振り幅のソーラーパネルはさばききれない。最終的にこの体はどうなってもいい。なんとかエネミーだけは。だいだらぼっちが投げた威力のままソーラーパネルが当たればきっとエネミーはべとべとごと真っ二つになってしまう。九久津くんだって、こんな状況を想定してべとべとを護衛にしたわけじゃない)

 

 社の眼前にさっと人影が回り込んだ。

 「エ、エネミー!!」

 (なんで)

 「うちがこのバインバインで止めるアルよ」

 エネミーはべとべとの中で両手を広げて、決して怯むことなく大の字で社の前に立っている。

 

 「うしろに下がっててっていったじゃない!?」

 (ソーラーパネルに気をとられていてエネミーの動きを見落とした)

 「この体ならバインってなって跳ね返るアルよ」

 (もう、そういう次元じゃないのよ。それ・・は)

 「エネミー。ダメ!!」

 ふたりの前方から、ちょうどエネミーの胴体の位置に高速で横回転のソーラーパネルが飛んできた。

 (ど、どうすれば。これを避けても上下左右でつぎのソーラーパネルがくる)

 

 ――バリン。

 

 社はそれ・・が砕け散るのを目にした。

 それ・・だけじゃなくそれら・・・が大きな音ともに次々と砕け散っていく様子をただ見ていた。

 「な……」

 社の両目の視線が、片目の視線とぶつかる。

 社は何者かの眼と目を合わせ逸らせないでいる。

 ようやくずれた視線の先にある黒い仮面の中にある半身の赤い蝶を見た。

 「なぜ、おまえは守れもしないのに人の前に立つ」

 ウスマが指揮棒のように剣を振った。

 上空にいくつもギロチンの刃が現れて、花弁ような形を形成して回転をはじめた。

 スクリューの要領で、空に上のソーラーパネルを砕いていく。

 (あれなら、ここにソーラーパネルが降ってくる前にすべてのソーラーパネルを壊せる。ギロチンを飛び道具のように使うなんて初めて見た。あれって私たちを守る傘と同じ)

 ウスマが刀を降るとギロチンの回転が止まる。

 合間を縫って、空気の裂く音が聞こえた。

 最後の縦回転のソーラーパネルが弧を描き落ちて来る。

 落下を待つこともなくウスマは刀を振りかざしてソーラーパネルを一刀両断した。

 縦回転のソーラーパネルのわずか三センチほどの厚みを刃先できれいにふたつに斬り裂いた。

 二つに分かれた破片が田んぼに落下する前に、さらに細かく切り刻む。

 /へへへ。最高だぜ!!/

 (刀が言葉を話してる。妖刀、しかも意志を持つ刀。それはもうレベルファイブの忌具。でもこの人とこの刀に助られた)

 「なぜ、おまえみたいな弱者が人を庇おうとする」

 「雛が危ないから、そうしただけアル」

 「ありがとうざいます。たぶん、こういう事態で体がひとりでに動くって感覚で後先はあまり考えないんだと思います」

  社は安堵しながらウスマに返した。

  「うちはただ雛を助けたかったアルよ」

  「助けたかった……」

  ウスマがオウム返しでつぶやいた。

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