{{Ⅲ}}
白装束の沙田がもうひとり現た。
「Ⅲか?」
九久津の目ではもうⅢの動きを捕えられないようだった。
ただ俺はこの一手さきⅡとⅢがどういうコンビネーションをみせるのかはっきりとわかっていた。
なんたってⅡとⅢは俺と俺なんだから。
校長は目を見開いて驚嘆いている。
死者は欠けた体を再利用してそれを触手のように変形させて伸ばしてきた。
うねるようにしてⅡとⅢに襲いかかっていく。
だが、ただでさえⅡに振り回されている死者は、突然目の前に現れたⅢに驚き、一段と迷うことが多くなっていた。
俺と校長が四階にきたときよりもだいぶ隙も多い。
すでにⅢが放射状の黒い衝撃波を放っていた。
よし!!
これが死者に当たれば相当なダメージなはずだ。
簡単に当たった!!
死者の体に蜘蛛の巣状のヒビが走りさらにそこからピキピキと裂け目が広がっていった。
死者の触手が完全に伸びきる前に瓦解けた。
無策な死者ではもう勝機はないだろう、俺はこの戦局を冷静に分析できていた。
「圧倒的だ」
九久津は寄白さんの態勢を仰向けに変えて抱きかかえた。
「美子ちゃん、見える? ついに覚醒したよ……」
「沙田……」
寄白さんはうっすらと瞼を開け、おぼろげにⅡ、Ⅲと死者の戦いを見たあとに、今ここに硬直る本体を見た。
俺の頭の中で声がする。
『おまえは沙田雅。真名は運命雅。そこにおわす御方は依代妃御子殿。そなたは妃御子殿に従え』
これってさっきこの場所で聞こえた声。
ってことは俺の頭の中に響いてるのがラプラスの声か? 依代妃御子って寄白さんのこと……? 俺は頭の中になぜか「依代妃御子」という字が浮かんできていた。
九久津に抱き抱えられてる寄白さんに視線を移す。
ⅡとⅢは周囲の真っ黒なオーロラを引き剥がして死者の前方と後方から挟んで包帯を巻くように包んでいった。
まるでふたりの子どもが回転式ジャングルジムで遊んでるようだ。
死者は蹴鞠で使う竹の鞠のように規則正しく包まれた。
ⅡとⅢは、左右から同じタイミングで球体をグシャっと押し潰した。
中からなにかが飛び出したり物体が破裂するようなこともなく死者はマジックショーのように消えた。
あれってたぶんどっちかの力が強すぎても威力の相殺はできない。
きっとⅡとⅢは同じタイミングで死者の消失点に同等の力を加えたんだ。
死者は断末魔のひとつもなくあまりにあっけなくその姿を消した。
同時にⅡとⅢも沙田の体へと戻ってきた。
周囲の景色が透過していき闇が徐々にクリアになると、四階は色をとり戻した。
いつもの「六角第一高校」の日常が還ってきた。