俺は昨夜の戦闘で背中と腰をとくに強く打った。
しかもその怪我をしたのが戦いとは無関係なのがハズい。
それで今、現在寄白さんに治療してもらっているというか遊ばれている……。
寄白さんはスプレーのノズルをカスタマイズし砂場で遊ぶ子どものごとくカーテンに試し撃ち(?)をしている。
これってれっきとした治療の一環……の……はずだよな? 俺の特異体質は「シシャ」との戦闘以来きれいさっぱり消えた。
ラプラスの覚醒と引き換えに消失たんだと勝手に思ってる。
まあ、いわゆる体質改善? でもいまだに意図的にⅡ・Ⅲを操るのは難しい。
それで昨日ミスってこの怪我、それが午後になって痛みはじめて保健室にきたというわけだ。
ふだん常駐してる保健室のおばちゃんは職員会議で不在だ。
それにしても昨夜は不思議だった。
七不思議よりも不思議かもしれない。
「六角第一高校」の七不思議はすでに決定してるはずなんだけど……。
《走る人体模型》
《ストレートパーマのヴェートーベン》
《段数の変わる階段》
《誰も居ない音楽室で鳴るピアノ》
《飛び出すモナリザ》
《七番目を知ると死ぬ》
これに追加して俺の創った七番目、《学校の七不思議から人知れずに生徒を守ってる戦士がいる》だけど、まあ、よくよく考えるとこの七番目は寄白さんと九久津が日常的にしていることだったので撤回した。
俺はなぜそれを「シシャ」の反乱のときに気づかなかったのか? そして六番目の《七番目を知ると死ぬ》は、あとづけだけど七番目を探らせない抑止力にもなりそうだ。
他の生徒の安全を考えると俺らの行動は絶対に秘密にしておいたほうが良い。
市民の中にはすくなからずアヤカシ存在に気づいている人がいることも知った。
話は戻るけど、問題は「六角第一高校」の七不思議その二、《ストレートパーマのヴェートーベン》だ。
七不思議のひとつである《ストレートパーマのヴェートーベン》が昨日の夜はふつうのバッハに変わっていた。
学校の七不思議ってのは大まかな括りで《うちの七不思議はこれです》ってのはあまり関係ないらしい。
「六角第一高校」内でも七不思議以外のアヤカシも出現するし町中にだってアヤカシは出現する。
ヴェートーベンのときに寄白さんと九久津が話していた邪魅ってのもこの六角市に出たアヤカシの名前だそうだ。
ただ町中でのアヤカシとの遭遇や戦闘を回避するための措置はとってあるらしい。
《小学生のとき交差点で車が突然消滅したときにも感じた。あれは異次元に消えたんだろう。》
俺がむかし体験したその出来事も、もしかしたら誰かがアヤカシとの戦う前の前兆現象を見たのかもしれないということだった。
とりあえず俺はアヤカシについての情報が乏しくて、らしい、らしい、の憶測しかできない。
いろいろと疑問が膨らんで校長に相談したところアヤカシに関する資料をもらうことになった。
まあ、その校長は現在教育員委員会の特別監査に呼ばれていて学校にいないんだけど……。
でも、資料はすでに俺の手元にある。
「よ、寄白さん。あ、ありがとう。も、もう治った……ような気がする」
寄白さんがコールドスプレーを試し撃ちしてる隙にさっさと保健室から逃げよう。
「ダメでしてよ」
「えっ?」
そ、そう簡単には逃げられないか?
「まだ治療が残ってらしてよ」
寄白さんは最初よりも噴射口が数ミリも大きくなっているコールドスプレーを俺に向けてきた。
これって銃口を突きつけられてる感満載なんだけど。
「いや、でも、さ、さっきまでの寄白さんの治療が完璧だったから腰の痛みは完全に治った。もう、完全治癒だよ!!」
「むぅ?」
お、おっと怪しんでる。
なるほど怪しめば怪しむだけ頬っぺたが膨らんでいくのか。
「ほ、本当だよ。きっと寄白さんの献身的な看病が功を奏したと思うんだ。俺は、うん」
「よかったです」
寄白さんの顔が満面の笑みに変わった、と、同時に頬っぺたが縮んでいった。
こ、これで大丈夫だろう。
「ほ、ほら、俺は、あ、あの、九久津の家にいかないとさ」
「そうですね。お気をつけていっていらしてください」
「あっ、はい。どうも」
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