第55話 もうひとりの能力者


 俺は今、九久津と一緒にバスに乗ってる。

 郊外のルートを通っていくからそれなりに時間はかかるけど、この乗り換えで九久津の家の前までいける。

 六角駅では先客に後部座席をとられて、俺はしかたなくうしろからふたつめの窓側に座った。

 九久津は窓越しの陽射しを嫌がって俺の横に座っている。

 六角市は本当にソーラーパネルが多い。

 

 イケメン優等生は混雑したバスの車内でも日課の数式を解いてた。

 なにもこんなときまで。

 窓側は眩しいから、そりゃあ勉強も進まないか。

 カーテンを引いても木漏れ日がノートに当たるし……九久津って将来は当局の幹部でも狙ってんのか? そうこうしていてもバスは進んでいく。

 六角駅を出発してから早くももう、三つのバス停を過ぎた。

 乗客はますます増える一方だ。

 郊外にいく人は意外に多くて、つり革に掴まってる乗客までいる。

 紙袋と服が擦れる音やトートバッグが手すりにぶつかる音が車内の混雑さを物語っている。

 駅の柱にもたれて再発した俺の腰の痛みもだいぶ落ち着いた。

 なんだかんだ冷やしたのが良かったのかも……なにげに氷の五芒星に治癒能力があったとかじゃないよな? まあ、今は座席がクッション代わりになって負担を和らげてくれてるからな~それが功を奏してるのかも、さあ、また資料でも読むか。

 俺はスクールバッグから資料を出してさっきのバスで折り目をつけた目印を探した。

 シャープペンを走らせる九久津を横目に、資料の中からやっと目的の個所を発見した。

 ここで俺が九久津といるメリットが最大限に発揮される、なんたってなにか疑問があればすぐに訊ける

 資料をめくったとたんに俺は固まった。

 うぉぉ!? 

 紙からも目を逸らしてしまうほどの美少女!!

 これは学生生活で二、三回言葉を交わすだけで勝者と呼ばれるほどの美少女!?

 こ、この娘は誰? 

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 【社雛やしろひな

 

 「六角第二高校」の二年生。

 

 実家は六角神社。

 能力:【ドール・マニュピレーター】

 備考:半年ほど前に大きな怪我をした。

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 な、なにぃ!? 

 この六角市に俺たちと同世代の能力者がもうひとりいたのか。

 しかも「六角第二高校にこう」の生徒であり六角神社の娘さん? ……仕事なのかどうかはわからないけど、まさにうってつけの仕事。 能力者ってことはいずれ会えるな。

 よその学祭にいくようなワクワク感!!

 他校の女子が三割増しかわいく見えるのはなんでだろう? いや、この娘はなんつーか最初っからチートな気がするけど。

 モノクロ写真なのにとてつもない美人が写っていた。

 ストレートの髪に長いまつ毛、それにも大きくて鼻筋も通っている。

 この紙質でも勝手に美肌補正してしまうほどだ。

 手足も長くて「六角第二高校にこう」の制服がまるで撮影のための衣装のようだった。 

 モデルとはこういうスタイルの人がなるんだろうな。

 高校は違えど同学年だから美人……というか美少女か。

 校長はここにもCランク以上の情報をぶち込んできたっぽい。

 「あれっ? 雛ちゃん」

 九久津からさも親し気なイントネーションが聞こえた。

 この美人と九久津の距離感はいったい? まさか、こ、これはイケメンはモテるって宇宙的法則なのか? ニュートンでも発見できなかった、し、新法則……いや違うな、法則もなにもごく自然なことだ。

 

 だってイケメンはかっこいいもの、だって女子はイケメン好きだもの。

 リンゴが下に落ちるくらい当たり前じゃん!!

 寄白さんという妹属性とこの資料の美人。

 九久津両手に花か? 戦国武将かよ!?

 けど、武将っていくさのときは男にもイクって話だし。

 意外とBLビーエルの歴史も古いんだな。

 もう、心ムチャクチャじゃん!!

 鈴木先生は社会の授業でときどき話が脱線してハイトーンボイスの豆知識を披露することがある。

 本当かどうかはわからないけど上杉謙信が女だったとか源義経がチンギスハンになったとかそういうたぐいの話だ。

 でも、そういう話のほうがおもしろかったりする。

 本当の歴史なんて誰にもわからないんだから。

 てか俺の思考も脱線中!!

 「この美人とはどういう関係で?」

 「美人?」

 「沙田よくわかったな!? 美人だって」

 「この写真を見た男なら誰でも美人というだろうよ」

 「へ~知ってたんだ」

 く、九久津なにをいってる? 勉強しすぎか? 九久津はわけのわからないこといってきた。

 「ど、どういうこと?」

 「美人は顔のパーツが黄金比で形成されてるからさ。反対にかわいいってのは抽象的表現で人それぞれの主観だから」

 お、黄金比? なんつーか九久津らしく学術的に返された。

 

 「そ、そういうことじゃなく。この娘とはどういう知り合いかって訊いてんだよ?」

 「前のバディ」

 「えっ!?」

 「美子ちゃんが転入してくる前の俺の相方」

 「あっ!? そっか。寄白さんも六角第一高校いちこうに転入してきたっていってたっけ~。だからシシャ候補になったって」

 俺の想像よりもいたってふつうの答えだった。

 「そう」

 「寄白さんってどこから転校してきたんだよ?」

 「国営の専門高校から」

 「……ん? どこそれ?」

 「美子ちゃんは能力者専門高校を飛び級で卒業して六角第一高校うちに転入してきたんだ」

 「えっ、そうなの?」

 「てか沙田。こういう話をここで話すのはちょっとマズいからチャットアプリに切り替えよう」

 「あっ、ああ、わかった」

 そっか能力者やアヤカシについての話は一般の人に聞かせられない。

 俺はさっそくスマホのアプリを起動させてチャット画面に文字を打ちこんだ。