第56話 アヤカシの起源


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 沙田雅:それで?

 九久津毬緒:美子ちゃんは寄白家の正当後継者で能力者専門校の特待生だった。

もともと内閣に【アヤカシ対策局】ってのが設置されていて、それがいわゆる【当局】ってやつ。

 アヤカシと戦うとなると国家ぐるみじゃなきゃ、とうていたちうちできないから。

 

 【アヤカシ対策局】は、各省庁にも出先でさき機関があって分室ぶんしつとして日本でゆいいつ各省庁にまたがってるんだ。

 ついでにいうと七不思議制作委員会の上部組織は文科省。

 沙田雅:やっぱ七不思議制作委員会の上もあったか~!?

 九久津毬緒:ああ。文科省がトップ。そして能力者を教育する機関として水面下で専門校を開校してるんだ。

 日本はその文科省を機軸に動いてる。

 他にも厚労省はアヤカシなどから受ける魔障ましょうなどの研究を行ってて救護部は厚労省の管轄。

 国交省と総務省はアヤカシの出現地や退避ルートの解析なんかをしてる。

 だから解析部は国交省と総務省に籍がある。

 そんなふうにいろんな機関が連携して日本を守ってるんだよ。

 沙田雅:なんか複雑すぎる。国の機関っていわれても俺にはよくわかんねー。

 九久津毬緒:う~ん、簡単にいうなら生徒会が内閣で各省庁が図書委員会、風紀委員会、放送委員会とかって感じ。

 沙田雅:その例え学生にはわかりやすいわ~。

 九久津毬緒:だろ。それで俺は美子ちゃんがくる前までは雛ちゃんと組んでた。

 まあ、美子ちゃんと俺は寄白家と九久津家で幼馴染だけど、六角神社の娘でじつは雛ちゃんと美子ちゃんも幼馴染だし。

 沙田雅:そういうことか。九久津はなんで専門高校にいかなかったんだ?

 九久津毬緒:基本的に入学資格が家系だから。そいう家系に生まれないといけない。

 沙田雅:寄白っていう名前が合格通知みたいなもんか?

 九久津毬緒:そう。まあ家系プラス能力もあってこそだけど。

 だから専門高校にいける人は一握りなんだよ。

 逆に家柄がよくても、それに耐えうる心技体がなければ入学はできない。

 沙田雅:なかなか大変だな。てか、なんでバディを交代したんだよ?

 三人で戦うって選択肢はなかったのか? 

 そのほうがそれぞれの負担も減りそうだけど。

 九久津毬緒:雛ちゃんが大きな怪我をしたのもあって「上」がいろいろと考慮して交代を決めた。

 沙田雅:アヤカシとの戦いで?

 九久津毬緒:そう。

 沙田雅:アヤカシってやっぱ危険なんだな。

 九久津毬緒:当たり前だろ。繰さんならアヤカシについてもまとめてくれてるはずだけど。

 沙田雅:そっか。じゃあ読んでみる。

 九久津毬緒:ああ。また、なんかあればチャットで。

 沙田雅:わかった。

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 アヤカシと戦うってことは常に危険と隣り合わせなんだよな。

 じっさい俺も昨日バッハでヤバかったし、まあ、腰を打ったくらいですんだのは不幸中の幸いか、ただあれはバッハとは直接関係ないんだけど。

 でも……モナリザとの戦いを思い出しても怖く感じる。

 九久津も兄貴を亡くしてるんだし。

 てか、寄白さんは本当に自分から望んで専門校に進学したのか? 寄白家という逃れられない運命を受け入れてしょうがなくとかじゃないのか……。

 校長が六角第四高校よんこうを解体したのもいろいろと我慢してる寄白さんを思っての部分もあったわけだし。

 俺はモヤモヤしながらもつぎのページをめくった。

 おっ、この厚さなら、ここで資料も終わりっぽい。

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明治初期 編纂へんさん アヤカシの起源  

(改稿済み 最新版)

一、アヤカシとは人を中心とした生物が放つ「負」の力=「負力」を元に誕生する。

 上記による生物とは微生物、植物なども含まれる。

 (すなわち全生命体である)

二、「負」の力とは主に動的な「憤り」や「殺意」「憎悪」「怨恨」、

 静的な「憐憫」「悲哀」「執着」などに二分される。

三、アヤカシの躯体くたいについて。

 人のイメージが躯体を創造する。

 たとえば『ぬらりひょん』 

 <老人><頭が大きい><知的>などのキーワードをもとに、大まかな鋳型が創造される。

 (鋳型とは人が描くイメージが形を成したものである)

 この段階ではまだ、ぬらりひょんという概念にすぎずそこに負力が入って初めてアヤカシぬらりひょんとして誕生する。

 すなわちイメージが先行して本体が出現するということである。

 よって人間同様、ぬらりひょんという種の中に外見が完全一致するものは存在しない。

 つまり、ぬらりひょんでも目の大きさも違えば、鼻の形も違うということになる。

 (例、江戸時代と現代を比較した場合、身体的特徴からぬらりひょんと判別はできるが骨格などに明らかな違いがみられる等)

 例外として、一卵性双生児(双子)のように完全一致に近い容姿のアヤカシは存在する。

 また二卵性双生児のように、まったく別外見の同一種も存在する。

 原則的に上級アヤカシで知名度の高い個体が同時代の同時期の同空間に存在できるのは一体のみである。

 これはそのひとつの個体へ独占的に負力が流れるためであり、よそでは鋳型が形成されないからである。

 アヤカシの内面はどの負力要素がどんな割合で構成されるかによって異なる。

 動的な負力が多いほど獰猛で狂暴、等。

 静的な負力が多いほど温厚、冷静、狡猾、等。

 負力の比率によっては両性質を併せ持つアヤカシもいる。

 なお静的な負力は人の性格のように様々。

 一見、対局に位置する温厚と狡猾も静的な「負」として扱われる。

 抑えきれないような爆発的な感情が「動」、内に秘めるような感情が「静」となる。

 動的な負力によって体現したアヤカシは思考が欠落した状態が多い。

 鋳型によっても、相性の良い「負」の構成要素がある。

 例、牛鬼などは鋳型ができあがった時点で、すぐに「動的な負」を蓄積する。

 例、学校七不思議に代表される<誰もいないのに鳴るピアノ>は鋳型自体が校内に存在しているために必然的に「静的な負」を引き寄せる。

四、想像力と創造力の相乗効果。

 

 例として日本ではコックリさん(キツネ憑き)。

 その正体はきつねいぬたぬきを当て字にした動物霊だという説や、ただ単に瓶のふたの動く音が――コックリ。コックリ。と聞こえたからという説などがある。

 海外に目をむけると欧米の悪魔憑きがある。

 このことからも上記の現象はそれぞれの文化と対象者の生活圏に密接な関係がありやはり概念=人の思念がもたらす結果だといえる。

 昨今の海外事例ではスレンダーマンが顕著である。

 スレンダーマンについては、作者が創作した事実を認めたにもかかわらず体躯を得て体現してしまった例だ。

 強力なミームは近い将来、絶大な脅威になりえるだろう。

五、アヤカシの上級・中級・下級のランク分け。

 上級・中級・下級のランクづけは負力の内容量で区別される。

 ※1ある一定の値に対し低級アヤカシ、中級アヤカシ、上級アヤカシ、排他的アヤカシとして分類される。

 排他的アヤカシとは他のアヤカシを排除するという意味ではなく低級、中級、上級に含まれない便宜上の区分である。

 よって排他的アヤカシの中でも上級の強さを持つ者や、下級ていどの力しか持たぬ者もいる。

 特別種のアヤカシが該当する死者は排他的アヤカシである。

 なお死者をランクで分類するなら下級である。

【追加分】下記を追加訂正する。

日本で初めて死者のブラックアウトが確認された。

現在も検証中ではあるが簡易検証でも分類区分は上級アヤカシ相当とみられる。

※1一定の値とは負力とネームバリュー等を数値化したものである。

上級アヤカシとは、ある一定以上の負力を内包することである。

たとえば十が低級、百が中級とするなら、千以上は上級となる、ゆえに一万も百万も上級に分類される。

このことから上級に分類されるアヤカシであっても、天と地ほどの差が生じる場合がある。 

※ただし悪魔にかぎりゴエティア・ソロモン七十二柱の階級が存在するため、まったく別の生態系とする提案がなされている。

 なぜなら悪魔は負力の多寡たかよりも、イメージが具現した時点ですでに災いをもたらす存在だからである。

 いうなれば悪魔はイメージの時点で災厄の象徴だからだ。

 万国共通認識として悪魔は絶対的な悪である。

六、ホワイトアップとブラックアウト。

 ホワイトアップはアヤカシの躁状態で主に陽気になる。

 ブラックアウトはアヤカシの鬱状態で獰猛になり他者に危害を加える。

 明らかなエビデンスは示されてはいないがホワイトアップ状態とブラックアウト状態のアヤカシの数はつねに等しいとされている。

 ゆえにホワイトアップ状態が多数派の場合、ブラックアウト状態のアヤカシが増えバランスを保とうする。

 逆もまたしかりである。

 必然的にどちらかの総数が増加すれば反対の総数も増えることとなる。

 この現象について、一説にはブラックホールとホワイトホールの干渉によるものという迷信的な話があり、有史以来、一度もその現象が確認されないグレイグーと呼ばれるカタストロフィーを引き起こす可能性が示唆されている。

 グレイグーは本来の意味であるナノテクノロジーの暴走ではなく、アヤカシのホワイトアップとブラックアウトが対安定し相転移説すると提唱する少数派意見もある。

 ブラックアウトした場合は即座に退治する。

 ホワイトアップの場合は要観察、どんな影響でホワイトアップしたかの原因究明が必要。

 ただしホワイトアップはなんの因果関係もなく陽気になるアヤカシが存在するため判断は容易ではない。

 以上、上記の内容に変更・追加を申し出たい場合は担当機関に変更点、追加点を記入し改訂申請書を提出すること。

 専門家との議論のうえ意見反映の可否を検討する。

以上

【機密区分C】

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