第128話 You are「シシャ」


「うちは真野しんのエネミーアルよ」

 ええええええええぇぇぇ!?

 真野ってその名字は紛れもなく、そ、そうだよな絶対にそうだよな? 死者だ。

 新しい「シシャ」。

 そ、そっか、深く考えればそうだ、最近寄白さん辛そうだったからいつまでもそのままにしておくことはない。

 なんたって寄白さんには負力の受け皿が必要なんだから。

 けどいつの間に誕生したんだ? ……六角神社であの儀式をやったのか? しかも今度はなぜ外国人? そういや俺が転校した日もクラスの話題にあがってたっけ?

 外国人の「シシャ」だっているかもしれないって。

 そ、それがまさか現実になるなんて。

 「でも寄白さんとは顔が違うような気が……? 前の真野さんは寄白さんと同じ顔だったけど?」

 「美子よりも若干ブスにしたアルよ。でも互換性はあるから大丈夫。まあ下位互換アルけどな。男はちょいブス好きね!! それにうちの名前はカタカナでエネミーアルよ」

 そういうとその娘は頬をふくらませた。

 な、なんて自虐的な。

 これもよく考えればわかることだ。

 前死者の真野絵音未、そう真野さんはもういないんだから同じ顔の「シシャ」がいるのはマズい。

 ただでさえ寄白さんと瓜二つだったんだから。

 そうなると顔は変えないといけない……どころか国籍ごと変えて名前もカタカナのエネミーにして、前「シシャ」との接点を消したんだ。

 ほぼ、すべての繋がりをなくした……。

 この娘の胸のエンブレムは「二」、つまりは「六角第二高校にこう」の生徒。

 前「シシャ」の真野さんは「六角第五高校ごこう」から「六角第三高校さんこう」に転入した。

 すべてバッティングしないようにずらしている。

 これって完全に当局の意図だよな。

 ただ見た目はぜんぜんブスでもないけど、寄白さんよりすこしハーフに近いってだけだ。

 性格は真野絵音未の真逆いったな。

 あの娘はなんつーか、この世界を忍んで忍んで暮らしてますって感じだったもんな。

 陰があるっていうか、いやもともと負力でできてるんだからそういうものなのかもしれないけど。

 これくらい大げさに変更しなきゃいけないってことか、車のフルモデルチェンジなみのチェンジ? この娘のいいかたならマイナーチェンジだけど。

 「ということでうちの正体は」

 エネミー・・・・はいきなり正体をいおうとした。

 まったく隠す素振りもない。

 「い、いや、それ以上いうな」

 「シシャ」本人が何者かいったらだめだろ。

 これは絶対的に俺の意見が正しいはず。

 「ふふふ。騙されたアルね? そんなのいうはずないアルよ。バカが!?」

 あ~寄白さんのツンツンが若干混ざったぞ。

 すでに俺は転がされていた。

 寄白さんの下僕の俺はエネミーの下僕でもあるのか?

 「おい、その代わりうちのことバズれ?」

 さっきからずっと気になってたけどエネミーの一人称はなぜうち・・なのか? それになぜ拡散を希望する? 「シシャ」はもっと潜めよ?ってこれもお国柄か……そいう仕様で誕生した「シシャ」なのか?

 「それもだめだろ」

 前に出すぎ。

 ハッシュタグは「#どうしてこうなった」だな。

 エネミーはときどき上から目線、かつタメ口でほぼすべての語尾がアルだった。

 「それもうそアルよ。ボーイチェリー?」

 ボーイチェリー? チェリーボーイを反対にした言葉。

 「さだわらし」は童貞を反対にした「さだ」と「わらし」だった。

 こ、この考えかたって……。

 エネミーは寄白さんと同じ童貞変格活用のイングリッシュバージョンを使ってきた。

 アーティストのデモテープかっつーの!?

 

 やっぱり寄白さんのツンツン状態と思考回路は同じじゃねーか!?

 ただスラングを逆にしてくるとはさすが国際派の「シシャ」。

 「また。エロいこと考えてるアルか?」

 エネミーを俺の顔を見てニヤリとした。

 なぜかものすごい企みをしてるようだった。

 頬が小刻みに揺れている。

 「か、か、考えてないし」

 「出会ったときも、うちのちっぱいガン見してたアルね?」

 ち、ちっぱいってそこは自分で認めるんだ。

 けど俺はそんなとこ見てねーぞ。

 漢字Tシャツの確認をしようとしてただけだ。

 断じてガン見などしてない……ってそもそも制服からインナーなんてよくわからんし。

 「ちちちち、ちがう。あれは漢字Tシャツを」

 「漢字Tシャツ? なにアルかそれ?」

 「あれだよ、ほら。日本語に直したらなんじゃそりゃ? ってなる漢字。成吉思汗ジンギスカンとか排球網バレーボールネットとかさ。字面先行のデザインTシャツ」

 俺が言い訳をしようとしてたところ――人間の男は半日エロいことを考えてるっていってたアルよ? とかぶせてきた。

 「だ、だ、誰が?」

 寄白さんならまだしもなんで俺はさっきからエネミーにこんなに慌てふためかされてんだよ。

 よ……寄白さんならっていいかたも変か。

 「テレビ」

 テ、テレビっ娘なのか。

 「それはリア充だけだ。リア充だけがエロいことを考えて生きてるんだ。だからみんなリア充爆発しろっていうのさ。俺みたいな一般人じゃとてもとても。だからリア王になってもやがて四大悲劇に巻き込まれるんだ……シェ、シェイクスピアの、ね?」

 こ、これで、乗り切れ俺。

 丸め込むんだ。

 「おい。――リア充爆発しろ。はもう古いアルよ」

 「えっ?」

 なんだよその返しは?

 

 「じゃ、じゃあなんて?」

 「ジュウーリア・ハツバククロ」

 ジュウーリア・ハツバククロ? 「ジューリア」は「充」と「リア」を反対にして「リア充」か。

 ハツバクが「ばくはつ」で「爆発」か。

 法則が掴めてきたぞ、けど「クロ」ってなんだ?

 

 エネミーは古文ようなレ点や一二点的な文法でむちゃくちゃに入れ替えてきた。

 あっ、クロは「黒」で「シロ」の反対か……呪文だな。

 いつのまにか「シロ」が「黒」に色が変わってるし。

「爆発しろ」の「しろ」を色の「しろ」にしてそれを「くろ」に変えたってことね。

 寄白さんも七不思議制作委員会のときも黒帯が三段だどうのこうのいってたしな。

 やっぱり思考を引き継いでるらしい。

 おそるべし「死者」と「使者」。

 おっ、いまさら気づいたけど外国人だとあだ名感覚で名前を呼べるな。

 俺さっきからずっとエネミーって呼び捨てだ。

 心の中でだけど。

 スポーツの海外選手を呼ぶように「エネミー」って気軽に声をかけられる。

 これは呼びやすい。

 前死者の真野さんの真野絵音未しんのえねみいだったら漢字が並ぶから「しんのさん」って感じだけど「真野エネミー」だとすらすら「エネミー」って呼べるこの不思議さ。

 字面じづらって大事だな。

 そりゃあ海外の人はフランクなはずだ~。

 

 漢字か片仮名かの違いなのに……。

 この口に出す言葉の難易度が御名隠みなかくしにも影響してるのかも。

 目上の人を敬称なしで呼ぶのが難しいように。

 言葉の制約はとてつもなく大きそうだ。