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・まず能力者になると身体能力が飛躍的にアップする。
(格闘家、ボクサー、レスラー、スプリンター等々、さまざまな分野のプロが出す最大値と同等の力を自在に使いこなせるようになる。ただし能力者それぞれの資質によって俊敏性がいちばんだったり、筋力がいちばんだったりする)
・能力者の極限の集中状態はゾーンと呼ばれる。
・星間エーテルは「魂」そのもの呼び名のことでもある。
・命の危機を感じると、自己防衛のために星間エーテル(魂)が抜け出すこともある。
(それを条件反射でコントロールできる能力者もいるらしい)
・星間エーテルが肉体からの開放された場合そのまま消滅するものもあれば宙を漂いつづけるものなど過程はさまざまで仏教用語の※中有と呼ばれる状態を維持する。
※四十九日で転生するという意味ではなく魂が浮遊しているということ。
・信託継承は星間エーテルによるもの。
・星間エーテルは希力や負力と性質が近く星間エーテルとも結合する。
・希力が強いと星間エーテル、つまり魂が清くなる。
・負力が強いと星間エーテル、つまり魂が穢れる。
・希型星間エーテル(希力の量が多い星間エーテルのこと)
(歴史上の救世主として扱われる人物の転生体は希型星間エーテルを宿していることが多い)
・負型星間エーテル(負力の量が多い星間エーテルのこと)
(歴史上、悪名高い独裁者などの転生体は負型星間エーテルを宿していることが多い)
・転生のパラドックス
過去がどんな偉人でもどんな悪人でも、転生後の時代によっては改心や心変わりがある。
●星間エーテル移動(外側)
・負型星間エーテルが人の外側にまで及ぶと=呪縛、怨念などとなる。
・希型星間エーテルが人の外側にまで及ぶと=守護霊などとなる。
●星間エーテルの移動(内側)
・信託継承はこの現象によるもの。
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ホワイトボードは横三列にわたってびっしりと文字で埋め尽くされていた。
本当にこういう学問を習いにきたみたいだ。
四階での寄白さんの人間離れしたスピードとか、俺が気づかないうちに俺の背後に九久津が迫ってきていたあれも能力者だからできたことだったのか。
能力者のデフォルトの力。
「レオナルド・ダ・ヴィンチ。彼の職業は芸術家、発明家、画家、建築家、数学者、彫刻家、音楽家、地質学者、解剖学者などさまざまあるよね?」
只野先生はホワイトボードを前にしてさらに話を弾ませる。
担任の鈴木先生も授業中ときどきこんなふうになる。
たぶんあれも違う意味でゾーンだと思う。
「ダ・ヴンチって芸術家や医者、音楽家は知ってましたけどそんな幅広い分野の専門家でもあったんですね?」
「そうだよ」
只野先生は人差し指を山にしてコンコンとホワイトボードを叩いた。
「僕はこう思うんだ。ダビンチは転生を繰り返し、その都度、各分野のスキルを積み上げてきた。それがこれだけ多岐に渡る突出した才能と知識」
あっ!?
俺も前世でピアノが弾けたら今世でも案外簡単にピアノを弾けるんじゃないかって、それに近いことを思ったことがあった。
俺はまったく鍵盤楽器ができないからどうやったらあんなに指が動くのかわからない。
いつも合唱コンクールときのピアノ担当はすげーと思ってる。
最初は指一本で鍵盤を叩いてそれがすこし上手くなって人生を終える。
つぎの人生は子どものころから五本指で弾けて人前で曲を披露するくらいにはなる。
そのつぎの人生では作曲までできて音楽家になる。
最後は著名なピアニストとして脚光を浴びる。
そんな転生があるのかもしれない。
簡単にいえばそういうことだ。
たった一度きりの人生みたいにいうけど上手くいかない人生でも考えかたによってはそんなに思いつめなくてもいいのかもしれない。
つぎに繋がる希望があれば。
これくらいポップに考えてたほうが今世でも、案外簡単に壁は壊せるかもしれないし。
きっとそうじゃないか? もうあとがないって追いつめられた状態よりまだチャンスはある。
そんな心のゆとりがあれば物事は絶対に上手くいく。
子どものころから不思議だった。
登山家はどんな契機があればエベレストを目指すのか? そもそもどうしたらあんなに険しい山に登ろうと思うのか? たしかこれ寄白さんにコールドスプレーされた日の保健室でも思ったな。
無意識でそう思ってるんなら俺の中にある死生観みたいなもんか。
最初はほんのささいなハイキングだったものがその魅力に憑りつかれて何度も転生するうち最終的には山の最高峰を目指したくなる。
有名な問答があったよな。
――山に登る理由は?
――そこに山があるから。
野球、サッカー、バスケ、バレー他にもなにかのスポーツ。
デザイン、音楽、文学、絵画、プログラム、将棋、囲碁なんかの時代の天才はそういう人たちなのかもしない。
転生を繰り返して自分を高めていく。
それはなんにだって当てはまる理論だ。
なら人は産まれて死んで終わりじゃない。
つぎに産まれるときには無意識でも前世のコツがわかるしどこで失敗したのかもわかる。
それを来世で生かすことができる「要領がいい人」や「生きかたが上手い人」っていうのもそういうことかもしれない。
生物間での互換性があるなら途中で動物や植物を挟んで休憩したっていいっていうのはこのことか。
只野先生は新しい魔障の治療法を確立させて大勢の人を苦しみから救った人だ。
この理論も誰かの新薬になるかもしれない。
「ルーツ継承は血脈によって継ぐ能力の遺伝。信託継承は外部から魂を受けとって能力を受け継ぐこと。あっ、ルーツ継承ってのは」
「それは教えてもらってます。でも僕は能力者なのにルーツがわからないんです」
「そうなの? じゃあミッシングリンカー?」
「ミッシングリンカー? なんですかそれ?」
「いつどこで能力に覚醒したのかわからない人の総称。ミッシングなんて呼ばれてるけどそれは言葉の綾でね。ああ、えっと、ミッシングは直訳すると”あるべきところにない”って意味ね」
「はぁ……?」
「ミッシングリンカーはミッシングリンクのことね。つまり連続性の中にある欠落点。沙田くんのようにどこで能力に目覚めたかわからない人たちのことをいうんだ」
「ああ、そういう意味ですか」
「ミッシングリンカーはタイプCとタイプDとタイプGの三つに大別される」
「じゃあミッシングリンカーはミッシングリンカータイプCとミッシングリンカータイプDとミッシングリンカータイプGがあるってことですか?」
「そう」
「ただね。タイプDに関してはデフォルトの頭文字のDをとってるからルーツのはっきりしたふつうの能力者ってことなんだよね。ミッシングリンカー、イコールどこで能力に目覚めたかわからない人なのにタイプDの場合はルーツがはっきりしているのにミッシングがつくというなんともわかりづらいネーミングになってるんだ。ただ、どんな学術でもややこしい単語は多かったりするけどね」
「なるほど。ってことは能力者のほとんどがタイプDでそれ以外がタイプCかタイプGになるってことですか?」
「そういうこと。まあ、これに当てはまらなくても自分がファーストルーツになることもあるし」
「あっ!? そ、そうでした」
そっか、そうだ。
いちばん最初に能力に目覚めるのがファーストルーツ。
ルーツが判明しているのが「ミッシングリンカータイプD」ならファーストルーツに目覚めた能力者もそこが始点だから「ミッシングリンカータイプD」になるってことか。
「じゃあタイプCとタイプGの違いはなんですか?」
「ミッシングリンカータイプD」以外って時点で必然的にもっと別の力を持つ能力者ってことだよな?
「そこはブラックボックスになっていて当人たちにしかわからないんだよ。まあ、タイプ別になってるってことはなにかしらの共通点で括られてはいるんだろうけどね。僕は能力者でもないただの人だからね、そのあたりはちょっと……」
「そうですか……」
バシリスクのときに崩壊した亜空間に向かっている最中で近衛さんが只野先生は非能力者っていってたな。
それなのに魔障専門医になったなんてますますすげー!!
それはやっぱり、罰当たりをきっかけにした恩師の「よつかりや」先生って人の影響なのか? よほどの出来事でもないと魔障専門医になるなんて人生の決断なんてできないだろう。
「まあ。簡単だけどざっと説明するとこんな感じかな。魔障による影響は現代医学での説明することは難しいからね」
「そ、そうですよね」
「それとこれが役に立つかわからないけれど……」
「なんですか?」
「アヤカシの闇落ち。ブラックアウトってあるでしょ?」
「はい」
「ホワイトアップに対する反対は本来ブラックダウンなんだよ」
「はぁ、それになにか違いでも?」
「ブラックアウトとは外側にいくこと。厳密にいうならホワイトアップ状態とブラックダウン状態の外側にいくことの両方をブラックアウトというんだ」
「じゃあブラックダウンであるならまだ元に戻る可能性があるってことですか?」
「そう。確率はかぎりなく低いけどね。この精神状態は能力者にも当てはまるから覚えておくといいよ?」
「はい」
魔障医学……奥が深い。
こんな複雑な学問をマスターしなければ魔障専門医になれないんだからどんだけ難題なんだよ。