第244話 独り部屋


 静かになった部屋で俺は独りよくよく考えてみる。

 九久津の兄貴は分身わけみを使っていた。

 その分身わけみの一方の星間エーテルが俺に入ってきたと、な、れ、ば、あっ!? 

 昨日、たしか只野先生がホワイトボードにそんなようなことを書いてたな。

 【・命の危機を感じると、自己防衛のために星間エーテル(魂)が抜け出すこともある。(それを条件反射でコントロールできる能力者もいるらしい)】

 そうだ星間エーテルをコントロールできる能力者がいるかもしれないんだ。

 九久津の兄貴は救偉人でふつうの能力者以上の人間だ。

 そんな人なら星間エーテルを操作できるかもしれない。

 この説は近いんじゃないか? ……だとしても顔の傷の理由か……それはよくわからないな。

 星間エーテルが自己防衛のために体から抜け出す可能性があるとしても……九久津の兄貴はいったいどこでどんな危険な目にあったのか? 命の危機があったのなら顔に怪我をすることもあるだろうけど。

 う~ん、だめだ、ぜんぜんわかんねー。

 けど、この推理はいい線いってる気がするんだけどな。

 俺は社さんとの通話を終えたままのスマホの画面をスライドさせて、また、【Viper Cage ―蛇の檻―】に切り替えた。

 

 俺と社さんが電話で話しているあいだも当然のようにエネミーたちのやりとりはつづいていた。 

 エネミーの俺への返答は――そうアルか。残念アル。だった。

 最初の書き込みからもう十分以上経過ってるけど、やっぱり九久津からの返信はなかった。

 

 今は、国立六角病院びょういんだし。

 時間も時間だ、スマホの電源も切ってるだろう。

 俺は社さんとの通話で使ったぶんの時間を遡るように【Viper Cage ―蛇の檻―】を下にスクロールしていった。

 ほとんどがエネミーのエネミーによるクイズと混乱した校長の真面目な回答だった。 

 俺と社さんが電話してるうちにいったいなにがあったんだよ? 寄白さんはというとシャワーという一言を残して退出状態だ。

 やっぱりもう家に帰ってたか。

 

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 【真野エネミー】:うちが好きな食べ物はジュラ紀なら親子ドン。中華ドン。鉄火ドンアルな。

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 丼物どんぶりものがプテラノドンとかの仲間になってるし。

 ジュラ(の時代)にそんな美味しいものはねーよ!?

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 【寄白繰】:そんな時代にお米あったのかな? 稲穂くらいはありそうだけど。

  でも親子ドン? 鶏肉を卵でとじた親子丼じゃなくて? 中華ドンは、えっと、八宝菜とかの仲間じゃないのかしら? 鉄火ドンはマグロ切り身のどんぶりじゃ?

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 こ、校長、大変だな。

 真面目さが完全に裏目に出てる。

 校長それはただのエネミーのノリでそんな深い意味なんてないんですよ。

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 【真野エネミー】:寝るアル。

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 エネミーの裁量でお送りしていた【Viper Cage ―蛇の檻-】の最後はエネミーの一方的な一言で終わっていた。

 いちおうすべての投稿に目を通したけどまるまるエネミーの独り舞台だ。

 今日一日の最後の最後にこれか~さらに頭がオーバーフローだ。

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 【寄白繰】:おやすみなさい。

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 校長も律儀に返してるし、これって当局に提出しても意味不明だよな? むしろこんなのを提出していいのか? ああ、ちょっと俺も頭休めようーっと。