第261話 禁断の黙示録 ―青い五角形―


 参加者たちはひとつの円卓テーブルに八人ほどで座っている。

 子どもが隠れ場所に選びそうな白いテーブクロスの上にはビールやウィスキーの酒類、お茶や、炭酸飲料などの飲み物と簡易的なオードブルが並べられている。

 宴会場にそんなテーブルたちが無数にある。

 席についている者たちはグラスを片手にそれぞれがそれぞれで話に花を咲かせている。

 救偉人の勲章は欲しい人にとっては命よりも大事なもので食事が喉を通らないほど勲章に見惚れている者もいた。

 

 にぎやかに祝賀会がおこなわれているなか一条と二条はまた席を外し宴会場の外に出ていった。

 例のごとく人のいない場所を探しふたりは非常階段近くの窪みで右と左で向かい合っている。

 「やっぱり望具保有者セイクレッド・キュレーターは俺たち側にいそうだな?」

 「表立って活動できないけど暗幕の中にいるかも?ってことでしょ。行動を制限されて雁字搦がんじがらめなのかもしれないけど『円卓の108人』に味方がいてくれるなら心強いわ」

 「なあ、二条。ハンは望具保有者その正体を知ってんじゃねーか?」

 「どうだろ」

 腕を組んだまま二条は首を傾げた。

 一条はその反応を見てすぐに答えを出す。

 (ってことでもな、い、か)

 「そうそう。一条。さっきの答え」

 「答え?」

 「ハンと私の貸し借りよ」

 「ああ」

 (ずいぶんと素直に答えるんだな)

 「文永ぶんえいえき弘安こうあんえき。それだけいえばあとは想像つくでしょ?」

 「はっ?」

 (文永ぶんえいえき弘安こうあんえきって。それは蒙古襲来もうこしゅうらいの。……元寇げんこうか?) 

 二条はそれ以上は口を噤んだ。

 「それって?」

 (あっ、二条の能力は気象攪拌者ウェザ・マドラー……あれってそういうことだったのか? 元寇のとき世の中は北条氏の世界。そう北条時宗ほうじょうときむねが幕府の実権を掌握していたはずだ。征夷大将軍である源氏は傀儡政権かいらいせいけんで以降もお飾り。だが、その北条も時代の敗者になって次代の足利氏あしかがしへと流れていく。てか、二条おまえも表の歴史に出てんじゃねーかよ!? 『円卓の108人』のこといえねーじゃん!? まあ、二条自身が歴史にクレジットされてるわけじゃねーけど) 

 「あんたが思ってるとおりよ」

 (二度にわたる”神風”は二条の能力……。それでも日本側は子ども含めて大多数の犠牲者がでた。それで犠牲者ゼロの無血開城なんてたとえを……まだ刀を振り回していたあの時代に血を見ないなんて解決なんて稀だからな。でも元寇から江戸の無血開城までは六百年でも教科書ならほんとすぐそこか。まあ、ミッシングリンカーの俺たちならではの時間の感覚でもあるんだけど)

 「そういうこと、か」

 (って、でもそうなった具体的な経緯がわかんねー。まあ、いっか。すげー簡単な粗筋でいえばモンゴル軍が日本に攻めてきたところを二条の能力で追い返したってことだし)

 「ところで一条、アンゴルモアの尻尾は?」

 「あれもすでに滅怪で消滅してるはずだ」

 「ならいいけど。数か月遅れて国内にドーンってことは?」

 「俺をなめんなよ」

 二条はそういいながらも、ただなにか口実を探っていたただけで一条の職務しごとをなにも疑ってはいない。

 

 「話は変わるけど。一条。ありがとう」

 「はっ、なにが?」

 「アンゴルモアをバラバラにしたあと時間を稼いでくれて」

 「その礼をいま? 二ヶ月遅くね? ジーランディアの浜辺でいえよ。それこそUFO見てるときにでも」

 「すぐに図に乗る。でも私はこの救偉人の勲章でさらに仕事がしやすくなったわ。あそこで倒れたことを恥だなんて思わない」

 「誰も思ってねーよ。てか救偉人の勲章って思ったより小せーな? こんなもんにそんな公権力ちからがあるとはな?」

 「携帯に便利だからでしょ。だってこれがあればアヤカシ関連の施設の七割は無許可で侵入できるのよ」

 (けどこれにジーランディア上陸の権限まで付加されてるかは疑問だけどな)

 「そんなに優遇されるんだ俺たち」

 (マジで役に立ちそうだな)

 「そうよ。この小さな青い五角形にそれほど価値があるってこと。そして私たちはそれに見合うアンゴルモア退治しごとをやり遂げたのよ」

第五章 END