第282話 輪廻の分岐点


五摂家のことを調べ終えて今日の深夜のために力を蓄える。

 おっ!? 

 こんな時間なのに寄白さんから連絡が……ま、まさか、また明日も早朝あさいちで「六角第一高校いちこう」に集合いってメールじゃ? 俺はおそるおそる画面をスライドさせた。

 

 ああ、そっか例の幽霊のことか。

 今日の昼寄白さんと九久津が話してた幽霊が無事に成仏えたことが書かれていた。

 今回はきちんと俺にも知らせてくれた。

 寄白さんのなかで俺の株が上がってきてるのかもしれない。

 株式会社寄白の株は微妙に下がってるらしいけど……。

 さらに文字数の関係で途中だったメールのつづきも送られてきた。

 ……俺、幽霊なんていってたけど、その女性ひとにもちゃんと名前があった。

 それもそうだ。

 生きていたころには家族がいて、どこかに住んでいて、どこかで働いていたんだから。

 俺が幽霊と呼んでた人は音無霞おとなしかすみさんという人で辛い出来事があって病棟から身を投げたらしい。

 詳しくはわからないけど重病だったりしたのかもしれい。

 ただ、残した子どもを想う気持ちが音無さんを、この現世に縛りつづけていた。

 

 音無さんは太陽が落ちた六角市まちを彷徨いタクシーを停めては家に帰っていたという。

 そして朝になるとまた姿を消してしまう。

 まるで「六角第一高校いちこう」の四階の学校の七不思議あいつらみたいだ……っていったって、そもそも同じアヤカシなんだから行動時間が似るのはしかたがない。

 多くのアヤカシは陽の光を嫌う夜行性なのが多い、それは世界中どこでもそうだろう。

 なんたって負力をもとにアヤカシは生まれるんだから。

 だからこそ六角市もソーラーパネルで陽の力を集めているんだ。

 あれっ? でも魂の正体が星間エーテルだとしたら、ぜんぶが転生するわけじゃないのか? 俺はそれが気になって寄白さんにメールを返す。

 寄白さんからメールではなく、直接電話がかかってきた。

 気のせいか涕声はなごえのような……。

 「寄白さん、あの、なんか声が」

 「は? 風呂上りなんだよ」

 そ、そうだったんですか。

 ふ、風呂ね……、ふ、風呂入ると人の声って変わるっけ? 蒸気で喉が潤ってとかそういうこと?

 「な、なるほど」

 納得はしてないけど納得・・する。

 「私は魔障専門医じゃないからそこまでは詳しくないけど。星間エーテルにもいくつか道があるんだ」 

 ああ、只野先生がホワイボードに星間エーテルの説明を書いてたな。

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 ・まず能力者になると身体能力が飛躍的にアップする。

 

 (格闘家、ボクサー、レスラー、スプリンター等々、さまざまな分野のプロが出す最大値と同等の力を自在に使いこなせるようになる。ただし能力者それぞれの資質によって俊敏性がいちばんだったり、筋力がいちばんだったりする)

 ・能力者の極限の集中状態はゾーンと呼ばれる。

 ・星間エーテルは「魂」そのもの呼び名のことでもある。

 ・命の危機を感じると、自己防衛のために星間エーテル(魂)が抜け出すこともある。

 (それを条件反射でコントロールできる能力者もいるらしい)

 ・星間エーテルが肉体からの開放された場合そのまま消滅するものもあれば宙を漂いつづけるものなど過程はさまざまで仏教用語の※中有ちゅううと呼ばれる状態を維持する。

 

 ※四十九日しじゅうくにちで転生するという意味ではなく魂が浮遊しているということ。

 ・信託継承は星間エーテルによるもの。

 

 ・星間エーテルは希力や負力と性質が近く星間エーテルとも結合する。

 

 ・希力が強いと星間エーテル、つまり魂が清くなる。

 ・負力が強いと星間エーテル、つまり魂がけがれる。

 

 ・希型星間エーテル(希力の量が多い星間エーテルのこと)

 

 (歴史上の救世主メシアとして扱われる人物の転生体は希型星間エーテルを宿していることが多い)

 ・負型星間エーテル(負力の量が多い星間エーテルのこと)

 

 (歴史上、悪名高い独裁者などの転生体は負型星間エーテルを宿していることが多い)

 ・転生のパラドックス

  過去がどんな偉人でもどんな悪人でも、転生後の時代によっては改心や心変わりがある。

 ●星間エーテル移動(外側)

 ・負型星間エーテルが人の外側にまで及ぶと=呪縛、怨念などとなる。

 ・希型星間エーテルが人の外側にまで及ぶと=守護霊などとなる。

 ●星間エーテルの移動(内側)

 ・信託継承はこの現象によるもの。

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 「ぜんぶの魂が転生するわけじゃないってことだ」

 俺はあのホワイトボードのことを思い返した。

 「そう。地縛霊のように縛られつづけるもの。浮幽霊のように漂いつづけるもの忌具・・になってしまうもの開放能力オープンアビリティとして漂いながも有りつづけるもの。消滅してしまうもの、希型星間エーテルとして血縁者を守護するものまでさまざま」

 ああ、そっか朝、社さんにきいた開放能力オープンアビリティの真実。

 只野先生がホワイトボードに星間エーテルの説明をしてくれたあとに開放能力オープンアビリティの夜目の話になったからホワイボードには開放能力オープンアビリティのことは書かれてないんだよな。

 亡くなった劣等能力者ダンパーの星間エーテル内にある能力を開放するのが開放能力オープンアビリティ

 希型星間エーテルが守護霊になるってのは書いてあったか。

 本当に教えてもらったとおりのことが現実でおこってるんだ。

 

 寄白さんは音無さんがあのまま現世にいつづけた場合、残していった息子の呪縛となってしまうから成仏えてもらうしかないといった。

 「・負型星間エーテルが人の外側にまで及ぶと=呪縛、怨念などとなる。」の項目と同じだ。

 それが適わない場合は寄白さんは実力行使するつもりだったともいった。

 ただ最終的には音無さん自ら還っていった。

 今回にかぎっていえばそれはいちばんいい解決方法だったと思う。

 「そもそも人は輪廻から抜け出すために転生してるって話もあるくらいだからな」

 そんな話を俺も法事できいたことがある。

 「もしかすると開放能力オープンアビリティとして能力を開放したり誰かの守護霊をするってのはある意味輪廻からの離脱なのかもな」

 おお、なるほど、そういう考えもあるか。

 星間エーテルも単純に転生するだけじゃなく、いろんな道を選ばなきゃならないって……まるで人生みたいだ、いや死後のあとの進路? 自分の子孫を守護まもりたいってのもよくわかる。

 

 「守護霊が強い子どもならちょとやそっとの神隠しじゃビクともしない。それが子孫繁栄にも繋がることだし。世界各地でも古来から子どもの成長を願う儀式も多いだろ?」

 「ああ、だね。お宮参りとか、初節句、七五三とか」

 「女の子なら桃の節句、男の子なら端午たんごの節句なんかもそうさ」

 只野先生の話プラス寄白さんからの情報で俺の知識がまたひとつ増えた。