第21話 七不思議の存在理由


「へ~じっさいはこんな造りだったのか。それで四階を隠す理由は?」

 「四階はアヤカシの溜まり場になりやすいから、あの場所に生徒たちを近寄らせないため」

 九久津は深刻そうに話しをはじめたとたん声の質までダウンした。

 スクールバッグに筆記用具とノートをしまう手もどこか鈍ったようだった。

 でも、俺はそのあとすぐに微かに殺気のようなものがもれるのを感じた。

 「それであんなに厳重な防火扉と螺旋階段があったのか?」

 「そう。そしてもうひとつ重要なこと。学校の七不思議のひとつである《段数の変わる階段》なんだけど……」

 「《段数の変わる階段》がどうかしたのか?」

 「あれはまんがいちあの螺旋階段が発見されてもうかつに他人を近寄らせないための抑止効果……。それと“四階建て”の校舎を“三階建て”だとうやむやにするためのささやかな抵抗」

 えっ、お、驚いた!?

 九久津ってイケメンのうえに頭脳までイケメンじゃないか。

 そのノートを見ただけでもそれは一目瞭然だったけどハイスペックにはハイスペックのCPUが乗ってるってわけか。

 憑依体質のイケメン、能ある鷹は爪を隠すか……? とはいえ、これぜんぶを九久津ひとりで考えたわけじゃないだろうけど。

 「まあ、それも子どもだまし的であるから、それだけで全員が引き返してくれるとは思ってないけどね……本来学校の怪談ってのは人を遠ざけるためのうそだったんだよ」

 

 「あっ!? そうか、興味本位で近づく人よりも気味悪がって逃げる人のほうが多そうだもんな!!」

 

 なんか知らないけど九久津との話が弾んできた。

 そりゃあ、得体のしれない物や気味の悪い場所には近づきたくないよな。

 「そう、そういうこと。数の問題。世間に広まってる迷信のたぐいもじつはそれが理由だったりする。――夜に爪を切ると云々うんぬんって話も、むかしは小さな傷からでも化膿して命を落とす人が多くいたから深爪予防のためだし。七不思議製作委員会は生徒たちにそれら・・・を刷り込む役割を担ってる。もともと六角市はオカルトの根づく町でもあるし」

 「じゃ、じゃあ寄白さんがあの演説のときに《段数の変わる階段》について好き勝手にいってたのも?」

 俺は九久津と寄白さんの支離滅裂な掛け合いを思い出した。

 こんなキレ者だから委員長のポストを任せられてるのか? それに四階と寄白さんと九久津との関係性もなんとなくわかってきた。

 寄白さんと九久津はつきあうとかそういう恋愛の関係じゃない。

 「まあ、いちおうは階段の話に目を向けてもらうためでもあるけど。ツインテールの美子ちゃんは不思議っ娘だから天然な部分もあるかな~」

 

 「そっか」

 あ、あれは天然だったのか? それはそれで納得できるけど。

 「でもどうして俺が四階に呼ばれたんだ?」

 「それは、えっと……なんていうか……」

 

 九久津は言葉を濁した。

 困った表情をしながら頭を掻いて目を泳がせている。

 九久津が悩むなんてよっぽどだな、必死に答えを出そうとしていた。

 

 「も、もしかしてシシャが関係あるのか?」

 自分でもなぜ「シシャ」という言葉が出たのかわからない。

 なんとなくアヤカシというキーワードから連想されたものが口から出た気がする。

 俺が確信をついたかもしれない・・・・・・質問をしたときだった、うしろからコツコツと乾いた靴音が近づいてきた。

 この歩きかたとリズム……俺は数十分前にもこれと同じ経験をしている……。