第327話 築年数


 戸村伊万里の指先は両開きのファイルの境目を交互に行ったり来たりしている。

 (この六校は六角第一高校から順番に建てられていった。とくに六角第一高校は負力を集めるためじっさいは四階建ての造り。六角市の中心街をヘキサグラムで覆った結界のシンボルといってもいい。この六校は半年スパンで地鎮祭がおこなわれている。それはつまり六角第一高校の建設から始まり半年ごとに新校舎が建てられていったということになる。六角第一高校の工事着工から六角第六高校の工事開始までにはじつに二年半もの開きがある)

 戸村伊万里の指先は六角市の南町にある「六角第二高校」で止まっていた。

 

 (小学校が六年、中学三年、高校三年、大学四年に定められたのはここ半世紀の話。だとしたら経年劣化や老朽化による校舎の建て替えもまた一、二、三、四、五、六の順番になるのが一般的。それでも数十年もあればその順番は狂う。そう、地震や台風なのど自然災害。それに校舎内からの失火なんてこともありえるかもしれない)

 見開きの右下には手書きの付箋が貼ってあった。 

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 六角第一高校 四階の破損状況により随時(予算の関係で工事箇所の大小は増減する)

 六角第二高校 近日改修工事予定

 六角第三高校 予定なし

 六角第四高校 解体工事中

 

 六角第五高校 予定なし

 六角第六高校 予定なし

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 (現在、六角第四高校が解体工事の真っ最中。工事を請け負っているのは曰くつきの黒杉工業か。そして、えっと)

 戸村伊万里はPCの画面の右下に視線を走らせた。

 戸村伊万里の目から逃れるように時間が進む。

 (六角第二高校の改修工事ももうはじまっている。じっさいに生活している教師、生徒とその保護者から指摘のあった校舎の危険個所や設備の不具合、それに六角第二高校の築年数から考えても改修工事は妥当なところ。ただ大きな災害に見舞われたわけでもない六角第四高校がどうして解体されているのか? 六角第二高校と同時期に工事をおこなう必要なんてある? 六角第四高校の解体の指示は寄白繰によるもの。工事着工のタイミングも寄白繰が株式会社ヨリシロの社長の座についてすぐに焦るように進めている……)

 戸村伊万里はいったん両手をキーボードに置きメーラーからどこかにメールを送った。

 また資料のページに戻り糊で貼られていた追加のページを広げる。

 (本来、六角第四高校の解体工事は六角第二高校の改修工事を終えたあとにおこなわれるはずだった。それは決定事項。なのに寄白繰がそれを前倒ししたかたち。寄白繰がこの工事を急いだ理由。これは本当に寄白繰の意思によるものなの? 六角市の結界をコントロールしているのは国交省の近衛嗣このえよつぎ。ただバシリスクが六角市を急襲したあと国交省主体でソーラーパネルの発注しているところをみても国交省や近衛が六角第四高校の解体工事に関与してる可能性は低い。そんなことをしたら自分の首をしめるようなもの……)

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 校長は俺らが帰るためにタクシーを手配してくれた。

 ここは南町だから社さんは別のタクシーで帰宅する。

 俺と寄白さんと校長は、北町までだからとりあえず三人一緒で帰る、と、思ったんだけど校長は市役所の人との話があるそうで、俺と寄白さんのふたりタクシーということになる。

 それはそれで緊張しなくもない。 

 亜空間を使うと一瞬で場所の移動ができるけど、現実はなかなかの距離を移動していたと気づかされる。

 ん? 

 なんかスマホがブルってる。

 俺がスマホを手するとみんなも同じ行動をとっていた。

 このタイミングでいっせいにスマホを見てるってことは【Viper Cage ―蛇の檻―】か。

 ってことは【Viper Cage ―蛇の檻―】になにかを書き込んだのはこの場にいない九久津かエネミーだろう。

 はっ!?

 マジで!?

 九久津を尾行してた人って戸村さんの双子あねだったのか。

 【九久津 毬緒】という名前が知らせてきたのは九久津を尾行していた人の正体だった。

 戸村さんの双子だから九久津でも混乱したんだ。

 九久津は今日、国立六角病院びょういんで戸村さんに直接それをきいたということだった。

 結局、九久津の尾行は戸村さんの姉がしたことで戸村さん自身の行動とはなんの関係もなかった。

 一卵性の双子だから、どうやら顔も瓜二つらしいし。

 まあ、でもこれでひとつ謎がとけた。

 俺は、九久津のメッセージに添えられていたどこかへ繋がるURLをタップした。

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