第346話 相談


 ――国立六角病院。

 

 壁にある専用回線の電話が鳴った。 

 九条はすぐに呼び出し音に反応して受話器をあげる。

 「はい、九条です」

 『九条か? まだ診察前だろ?』

 「えっ、官房長官。これ内線ですよ?」

 (こんな時間に鷹司官房長官あっちから連絡してくるなんてめずらしい。俺が一条に頼んだ調べもののことでこっちが詮索されてる?……ってことでもないか。一条はまだ海外……現時点で官房長官と直接接触した可能性は低い)

 

 『九条。今、いいか?』

 「ええと、ちょっと待ってください。昨日、社宮司が持ってきてくれた封書ふうしょのチェックがもう終わりますので」

 『診殺室のか?』

 「ええ。でもさすがは一流の付喪師。最近は魑魅魍魎の質も変わってきて最終ゲートの守備力をあげたいと思っていたので。それで、要件とはなんですか?」

 『おまえ座敷童の頭痛を診れるか?』

 「えっ? ざ、座敷童ですか?」

 『そうだ』

 (ざ、座敷童? どういうことだ? いや国政の人間だからいろいろあるのかもしれない……)

 「官房長官。まず魔障診療医は魔障に障られた人間・・を診るのが魔障医。ですのでアヤカシを診るとなると魔獣医の仕事になります。魔獣とは謳ってますけど診察の範囲はアヤカシ全般です。魔獣医は上級アヤカシの退治判定にも関わるわけですし」

 『詳しい区分を今知った』

 「では覚えておいてください。それに近々、Y-LABに救偉人の魔獣医、子子子こねしたける先生が着任します」

 『子子子こねしたける。あの子子子こねしか?』

 「ええ、そうです。彼なら実績、実力ともに申し分ないですよね? なんせ具現化したアンゴルモアのときにアンゴルモア解析の指揮を執ってたんですから。それより官房長官Y-LABの人事知らなかったんですか?」

 『九条。日本にアヤカシ関連の第三セクターがいくつあると思ってるんだ? 私はノータッチだ。こっちは金をだすだけ。アヤカシの存在は非公認なんだから表立った人事なんてできん』

 「そうですね」

 『子子子こねしはアンゴルモアの出現時にアンゴルモアと戦った能力者という派手さはないが、それでもその功績で救偉人になった実力者。縁の下の力持ちには違いない。子子子こねしなら座敷童の診断はできるのか?』

 「できますよ。座敷童は排他的固有種で希力も混ざってますからなおさら専門家じゃないと。それで座敷童は今、どんな感じですか?」

 『昨日からしきりに頭をなでている』

 「表情は? それと呼吸。 顔をゆがめているとか? 苦しそうにしているとか?」

 『いや、いたってふつうだ。ただときどき頭のてっぺんあたりをなでている』

 「えっ? それって頭じゃなく髪の毛に問題があるんじゃないですか?」

 『そうなのか?』

 「官房長官。今の座敷童なら急を要するとは思えないのでしばらく様子見でいいです。俺でもそれくらいの判断はできますから」

 『そうか。九条おまえがいうならしばらく待ってみよう』

 「もし、なにかあったら俺からもY-LABに連絡してみます」

 『ああ。頼んだ』

 「ただ、まだ子子子こねし魔獣医せんせいは着任してませんけどね」

 『すまんな、九条。じゃあ公務に戻る。今日はG7の会議なんだがハリケーンエスメラルダの被害が想像以上に大きくて予定が流動的なんだ』

 「わかりました」

 (やっぱり政治家ってのは大変だな。しかも相手は超大国)

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 寄白さんは今日、日直だった。

 放課後に学級日誌を提出さないといけないから体育館の裏にいくの遅れること決定。

 いつものように朝のホームルームが終わり一時間目の授業がはじまった。

 「いいか。イートインの消費税は十パーセントでテイクアウトだと八パーセントだからな」

 これなにげに忘れがちだ。

 結局、持って帰ってどこかで食べるにかぎるな。

 二時間目は理科だけど理科の先生は双生市に研修にいってるから代わりに三年生を担当してる理科の先生がきた。

 

 ――水兵リーベ僕の船、七曲りシップスクラークか――。

 

 無難に元素記号のおさらいだった。

 

 

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 正午すぎ、戸村伊万里はホテルの部屋に戻りふたたび同僚と通話していた。 

 『伊万里。例の土地についての続報なんだけど……』

 「ええ、なにか情報掴めた?」

 『それがその土地の上空うえって民間航空機どころか個人のドローンさえ飛行禁止になってるわ』

 「よほど人を近づけたくないなにかがあるようね?」

 『しかもそうなったのきっかけって国が双生市の土地を買う前で国が守護山南部の土地を六角市・・・から買ったときとほぼ同時期』

 「じゃあ、あの破格の土地代は領空権も含んだ値段」

 『そうなるわね。引きつづき調べてみる。伊万里はこれからどうするの?』

 「私はしばらく六角市に残るわ。土地の売買は国交省が担当だから六角市の

地元の建設業者からなに情報が掴めるかもしれない」

 『そっか』

 「ええ。六角市にキナ臭い大手の建設業者があるのよ。自殺者が多くでていて地元警察もその建設会社をマークはしてるんだけどいまいちで。署長さんもキャリアを棒に振るかもしれない覚悟でその社長と行動を共にしてるの」

 『わかった』

 「それに街中に出るっていうド変態の逮捕にも協力しないと」

 『そういうやつ、私も大嫌い』

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