第352話 現場検証


「なにアルか? うちは悪くないアルよ。それより”せい”って声はなにアル?」

 ただ今、俺は仰向けのまま現実逃避中。

 やっぱり雨の謎はわからん。

 う、うおっ!?

 エネミーが下目使いで俺を見てる。

 地位という意味でも完全に下に見られてる。

 「掛け声のストックを使い切ったんだよ」

 「それは理解したアル。でも今のは完全に沙田が悪いアル」

 くぅ、たしかに今回ばかりは俺の落ち度だ。

 エネミー上手いこと言ってんなって関心してて、ついスタートに出遅れてしまった。

 そして五発もの弾丸をこの身に受けた。

 いや、むしろ俺から撃たれにいった形だ。

 異世界ガンマンなのに異世界にいって逆に死ににいくなんて、それはもう、元の世界に帰るだけだ。

 異世界転生どころか異世界から転生。

 ぜんぜん物語がはじまらん。

 そりゃあ一話で打ち切りになるわ。

 「よし、わかった。エネミー。泣きの一回だ」

 「わかったアル。あと一回だけアルよ?」

 「OK」

 俺はいったん立ち上がり土ぼこりを払ってから、また寝転んで再度スタートポジション(?)につく。

 さあ、回転をはじめよう、い。

 「痛ってー!!」

 痛ってー!! なんだこれ、くそっ。

 「なにアルか? うちはなにもしてないアルよ?」

 「わ、脇腹グリった。エネミー見てくれ。この麻雀牌マージャンを縦縦横に並べたような形の石を。こんなので背中グリったら二次元のかっこいい主人公になんてなれないだろ? これで撮影終了だ。俺の背中の大型補強が必要。バッハのときに痛めた古傷がまた痛みはじめた」

 「じゃあ、うちがゴロゴロするアルよ」

 マジ? 監督兼役者か? な、なんて才能溢れるやつなんだ。

 自分で脚本書いて主役演じる監督みたいだ。

 「じゃあ、俺がバトンを?」

 「そうアル。これが本当のバトンタッチアルな?」

 エネミーまたまた上手いことを言った。

 いや、どこが上手いことだよ。

 ふつうのことだ。

 や、やられた!!

 またまたエネミーにやられた!!

 ”これが本当の”ってこれこそが正統後継者だろ。

 いや、でも、だ。

 世の中では交代のことをバトンタッチをいう。

 俺とエネミーは今、役柄を交代するというバトンタッチをしたわけだ。

 それと同時、俺はエネミーからじっさいに物理的ものとしてのバトンも受け取った。

 これはこれでバトンを受け渡されたというバトンタッチ。

 なら、それこそ”これが本当”のが当てはまるかもしれない。

 ん? ん? ん? これ当たってんの? 間違ってんの? なんか、もう、こんがらがってわけわからん。

 「おい、沙田」

 「ん?」

 「早くやれアル」

 俺がパニってるとエネミーも自分のスマホを避難させてすでにゴロゴロしていた。

 「わ、わかった。よし、エネ」

 「いったいアル!!」

 「ミー、ど、どうした?」

 「うちの左、わ、わき腹に……」

 「わ、わき腹がどうした?」

 「い」

 「い?」

 「いしトッツォ!!」

 トッツォ。

 完璧な表現。

 俺よりも見事な表現。

 「だろ? この芝生けっこう石隠れてるんだよ」

 バンズから溢れる生クリームがマリトッツォなら草から溢れる石は「石トッツォ」。

 これが現役女子高生の発想力。

 

 「し」

 エネミーが体を屈めて言葉につまっている。

 「し」

 し?

 「し」

 し、し、ってまさか死にそうなほど痛いってことか?

 「エネミー。大丈夫なのか?」

 「し」

 や、やっぱり。

 そんなダメージを?

 「しゅんです」

 「おい!? この石の鋭角でっぱりでグリったのに”しゅん”ですで終わるなよ!!」

 「ほ」

 ほ? ほ、とはいったい?

 「ほ」

 

 ほ? なんなんだ?

 「芳醇ほうじゅんです」

 「”しゅん”のはるか先のほうの”ほうじゅん”か?」

 「トッツォされて痛くて悲しいって意味アルな」

 エネミー、トッツォを「特攻」とか「突進」のごとく使いやがった。

 けど、結局、草っぱらで土手っ腹やられたってことだろ?

 「沙田、もういいアル。そのままうつ伏せでそこ寝るアル」

 復活、早えー!!

 そんなことしてるから太ももとかに痣できるんだよ。

 いや、これはチラっと見えただけだから。

 毎度毎度ドタバタやってるから。

 つぎは俺なににつき合わされるんだ?

 でも、また寝転ぶのかよ!!

 あれ? そういえば寄白さんの姿が見当たらない。

 どこいったんだ? たしか俺が脇グリったときまでいたよな。

 『保健だより』の大型アップデートしにいったのかもしれない。

 まあ、いっか。

 俺はエネミーのいわれたとおりにその場でうつ伏せになった。

 ここ土じゃん。

 まあ、土であれば石のありなしは確認しやすい。

 言われたとおりに寝てみるか。

 俺が寝転がるとエネミーに右手は「だいなり」のようにして左手は「Lエル」のような形にしろと指示された。

 俺は素直にそれに従う。

 しばらくのあいだその場での待機命令がでた。

 監督の演出は素直に受け入れる。

 体感で一分ほど寝て待っていると俺の周りでゴロゴロいいはじめた。

 なんだ? おいおい、それ、ライン引きだろ? なぜか俺はエネミーに白い線で囲まれていった。

 か、完全に囲まれた。

 ああ、このライン引きってあの三年生カップルが持ってきて途中で置いてったやつだ。

 線を引き終えたエネミーは俺の「Lエル」のような左腕のところにオールドタイプの手動でめくる卓球のスコアボードの「1」を置いた。

 目の横には「2」、でこのすこし斜め上に「3」

 

 こいつ勝手に現場検証してやがる。

 俺の頭上から右斜め上の遠い場所に「4」番。

 なんだよあの「4」番? なにがあるんだよ?「4」。

 しかも不吉な「4」。

 エネミーはエネミーで、これは私が鑑識じゃなければ見落としてたわねって感じ「4」を見て片目をつむったあとに俺に合図を送ってきた。

 鑑識の全国ナンバーワンを決めるKANSHIKIケー-1グランプリの上位入賞者のごとくふるまってやがる。 

 てか、どんな凶器があんなところまで飛んでったんだよ? エネミーはまたじょじょに俺に近づき「だいなり」の右肘のところに「5」を置いた。

 さらに遠いところからきたので――サービスアル。と言って「6」「7」「8」のスリーポイントを決めていった。

 さっきグリった右脇腹は「9」「10」「11」「12」「13」「14」「15」「16」を連番で置かれた。

 なんか俺のHPヒットポイントから「9」「10」「11」「12」「13」「14」「15」「16」を合計した「100ポイント」が減ったみたいになった。

 麻雀牌マージャンぱいの縦縦横の石、スゲーな。

 てか脇腹、執拗に狙われてる。

 これは怨恨の線ありそうだ。

 でも、なんか俺の脇腹ウィークポイントみたいで嫌だな。

 ここ致命傷みたいじゃん。

 俺の右脇、弱弱よわよわだな。

 ただ、これが化学式なら「11」とか「12」とか「13」とかは憧れの二桁代だ。

 そのあと右の太ももに「17」、脛に「18」、爪先に「19」。

 そのまま爪先の延長線上の遠くに「20」を置かれた。

 エネミーはまた、これは私が鑑識じゃなければ見落としてたわねって感じだ。

 だから「4」と「20」になにが飛んでったんだよ?

 

 そして左の膝に「21」を置きゲームセットになった。

 むかしの卓球は「21」点取ったら試合終了だったらしいし。

 

 エネミーは両手の親指と人差し指を伸ばして「L」の形にしたものを合わせて長方形を作りそのあいだから俺を見ている。

 すこし遠ざかる。

 さらに一歩下がった。

 そこでひとり、うんうんと頷く。

 そこから俺のもとへやってくると近くの芝生にある草を何本か抜いてその手を俺の顔の上へ近づける。

 「ぶはっ!! ぺっ、ぺっ。おい、俺の顔に草をまぶすな」

 オシャレアイスのミントの葉のごとく俺の顔に草乗せやがって。

 完全に外食そとで食べる高級アイス仕様だ。

 「ごめんあそばせ」

 ”ごめんあそばせ”だと? 遊ばせんな。

 エネミーはそこでまた両手で長方形を作りのぞきこんだ。

 「違うアル」

 また監督のこだわりがでた!! 

 俺の顔の上の草を払っている。

 そして新しい水滴の滴る瑞々しい草を摘んできて、俺の顔を持ち上げるとそこに新しい草を敷くように置いた。

 草の位置を俺の顔の上なのか下なのかを変えただけだけど。

 あっ、これはあれか? 顔の下に草があるのは被害者があとから倒れてきたからだってやつか?

 そう、――最初からここに草はあったんだ展開になる。

 「だから草をまぶすなよ」

 

 なのに、エネミーは余った草をまた冷やっこのかつお節のようにふりかけてきた。

 な、なんか顔の下側のほっぺたが熱いな? 気のせいか?

 いや、これは気のせいなんかじゃない。

 マジで熱い。